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Interview: ひろたあずさ

緻密さと美しさが共存する「デジタル×大和絵」

 
 

“ 大和絵風作品のルーツは就職先で出会った「絵巻物」 „

 
 
「大学ではイラストレーションを専攻していましたが、卒業後に就職したのは美術とはほとんど関係のない職種でした。」
 
 ご自身の来歴について尋ねると、就職していた当時はイラストや創作活動にあまり関わりのない業務に携わっていたという意外な言葉が返ってきた。現在のように精力的に創作活動へ打ち込むようになったきっかけはご実家に戻られたことだったとのこと。
 
「就職していたときは忙殺されてしまっていて、絵を描きたいという気力も湧きませんでした。今こんなにたくさん絵を描いているのは、その時の反動なのかもしれません。現在は実家に戻って家業を手伝っているのですが、自営業で比較的時間に融通がきくので、気になる展覧会へ行くため平日に休みを取ったりもできるようになりましたね。」
 
 子ども時代から絵を描くことが好きだったという彼女。画家としての活動に時間を使えるようになったことで、展覧会にも積極的に出展しており、創作意欲を存分に発揮しているように感じられる。
 
 就職していた当時は忙殺されていたというが、現在の創作活動につながる出会いもあったという。

 
「大和絵風の要素を絵に取り入れるようになったのは、就職していた当時の経験がきっかけですね。社内でイラストを書く必要が生じた際には私に依頼してもらえることが多かったのですが、そこで春日権現験記という絵巻物を参考に絵を描いたことがあって。」
 
 春日権現験記(かすがごんげんけんき)とは鎌倉時代の絵巻物で、大和絵技法による背景や人物の精緻な描写が特徴。
 
「作品を観た時に『やばいなぁ』と思いましたね。感銘を受けたというか。着物の色鮮やかさや、植物が種類ごとに描き分けられている細かさなど、『こういう絵を描きたい』と強い憧れを感じたのを覚えています。」
 
 


 
 

“ リサーチに基づいた作画が作品の魅力を深める „

 
 
「寺社仏閣を訪れた時の静謐な空気や漂う香り、働いている方々の着物など全てが非日常な感覚になるのが寺社仏閣めぐりの魅力です。特に奈良の春日大社は神事の見学ができる点が嬉しいですね。『馬長児』はそのひとつである若宮おん祭りを題材にした作品です。」
 
 元々趣味だった寺社仏閣めぐりから得たインスピレーションは、彼女の作品の随所に見られる。特に作品内の人物が纏う着物の美しさは見た人の目を奪う。
 
「着物は好きですね。着物自体の繊細さもそうですし、あしらわれている花や鳥などの柄も、モチーフとして抽象的に描かれているのにそれと分かるように特徴が捉えられていたり、こういう風に描いてみたい…という思いに駆られます。」
 
確かに、彼女の作品に登場する人物の多くは美しく色鮮やかな着物に包まれている。
 
「着物のルーツをたどってシルクロードをさかのぼる内に、インドや中東の民族衣装などにたどり着いて、その素晴らしさにも魅了されて作品に取り入れたこともあります。」
 
 その言葉からも推察できる通り、彼女の作品の魅力をさらに深めているのが、人物を描く際に時代考証を大切にしている点だろう。  
 着物や髪型など細かな点からもそのキャラクターがどんな時代を生きているかを窺い知ることができ、彼らの息遣いが聞こえてくるようである。

 
「もちろん専門家の方には遠く及ばないですが、リサーチは大事にしたいと思っています。オリジナルのキャラクターを作るにしても、事実は事実として尊重したいという気持ちがあるのかもしれません。」
 
「特に好きなのは平安時代の幾重にも着物を重ねて色を楽しむ十二単や、洋装文化が入ってきた明治時代のモダンな着物です。時代によって柄や着方、合わせる髪型なども違ってきて創作意欲が刺激されます。」
 
 


 
 

“ 多種多様な表現を飲み込んでは出力し、変化し続ける画風 „

 
 
「いろんな作品に触れたり知らない表現を見かけると、自分もやってみたい!と感じます。」
 
 創作意欲の源について尋ねると、こう返ってきた。絵巻物でも漫画でも、過去から現在に至るまで多種多様な作品から受けた刺激が彼女の作品に還元されている。
 
「最近だと、東京まで出かけてやまと絵展を観に行きました。前述の春日権現験記や、他にも素晴らしい作品が多数展示されていて素晴らしかったですね…。例えば背景を描くにしても、ただ細かく描き込むというよりは絶妙に省略されてたりするんですよね。そういう表現に出会うとチャレンジしたくなりますし、創作意欲が掻き立てられます。」
 
 インプットとアウトプットを繰り返す彼女の作品は、その時々で画風が変化するという。
 
「画風はかなり変わっていると思います。例えば元々はコミックアートからのスタートでしたが、今はもう少し大人っぽい絵を目指しています。それは多くの作品に触れて、気になった表現を飲み込み、自分の作品に出力する中で自然と変化していったのではないかと思います。」
 
 もっとも自分らしいと思う作品は?と尋ねると、
 
「『初宮詣』ですかね。着物の柄もうまく描けてると感じますし、梅の枝の表現や、周りで跳ね回っているうさぎの配置も気に入っています。今見返すと、この梅の枝やカラーリングはゴッホの『花咲くアーモンドの木の枝』の影響を受けているようにも感じますね。」
 
 『初宮詣』はお宮参りを題材にした作品で、着物を着た女性がうさぎの子どもを抱えている。子どもを大切そうに抱く母親の温かさとともに、うさぎと人間という取り合わせの微かな違和感が観る人に想像を膨らませる。
 
「昔はかなり作品の背景や時代設定を細かく決めていたのですが、今はそれほどこだわらずに気楽に描こうという気持ちで作品と向き合っています。『初宮詣』などはそういう心持ちで描いた作品で、こういう路線で創作活動していこうという確信を得られた作品だったりもします。」
 
 時代を超えた様々な作品から影響を受け、変化し続ける彼女が生み出す作品をこれからも楽しみにしたい。
 
 


 
 

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