INTERVIEWインタビュー
人間性の豊かさや美しさを追求し、表現し続けていきたい
自分の表現を模索した大学時代
-本格的に絵を描き始めたのは、いつの頃からですか?
「もともと絵を描くのが好きで、高校は美術の専門コースがある学校に通っていました。最初から『将来は絵を描いて生きていくぞ』と思っていたわけではなく、筆記試験よりも美術の実技が得意だったというのが進学の理由です。その流れで、卒業後は美大に行くんだろうなと漠然と思っていました。受験のときに美術予備校へ通ったのですが、周りの学生が頑張っている姿を見て『もっとちゃんと考えなきゃ』と感じたのを覚えています」
-大学では何を専攻していましたか?
「油絵コースで学んでいました。ただ、自分の表現として何を描きたいかがわからなくて、教授にお願いして陶芸を学んだこともあります。ほかにも大学で学べるさまざまな画法や技法を試しながら、自分なりに模索していました。大学は設備が整っていますし、その後の自分にとってすごく貴重な経験になったと感じています」
-卒業後は、作家活動をお休みされていたそうですね。
「そうです。一般企業に就職して、絵は趣味として続けていこうと思っていました。でも、自分でもビックリするくらい仕事に対する熱量が持てなくて(笑)。新人の頃はミスしても仕方ないと思っていたんですが、時間が経ってもなかなかできるようにならない。どうやら自分には、企業で働くということが向いてないなと気がついたんです」
作家として生きていくという決意
-2023年に作家活動を再開されましたが、きっかけについて教えて下さい。
「勤めていた会社を辞めて地元に帰り、しばらくは『自分はこれから先、どうしたいんだろう』と考える時間を持ちました。いろいろと悩みましたが、ようやく『絵を描いていこう』と腹を決めることができたのが2023年のとき。そこから少しずつ活動を再開していきました」
-活動を再開するに当たって、ご自身の中で重視したことはありますか?
「ポイントは2つあって、一つは自分の表現を固めた上で、アートだけでなくデザインやイラストなど幅広く展開できるようにしていくことです。日本の場合、アート的な表現だけでは収入につながりにくく、活動を続けるには難しい面があります。そのため現在は、水彩やデジタル、アクリルなどを使って、さまざまなニーズに応えられるように意識しています」
-もう一つのポイントは、どんなことでしょうか。
「展示の仕方です。活動を始めた当初は、多くの人に作品を見てもらうために何をすればいいか全くわかりませんでした。とりあえずSNSで発信してみたら、ありがたいことに反応をもらえて、そのうち画廊さんから展示のお誘いをいただけるようになったんです。2023年は手当たり次第にチャレンジしたので、今後はその経験をもとに新しい展示にも挑戦したいと思っています」
活動の軸は、人が持つ本質を表現すること
-作品の中でセクシュアリティやジェンダー、人間性などをテーマにされていますが、それらに対する思いを聞かせてください。
「たまたま周囲にセクシャルマイノリティーの人が多く、割と身近な存在でした。私自身も性別に対する感覚が薄く、カテゴライズするならノンバイダリージェンダーが近いと思います。見た目の性別よりも、一人の人間としての豊かさや美しさを備えているかどうか。そちらの方が、私にとっては興味深いですし大切なことなんです」
-そうしたご自身の感性を持って、作品づくりをされているんですね。
「まだ模索中ですし、人間性の本質を表現するには自分自身のことも理解していかなければいけないと思っています。自分を深めながら、人が持つ本当の美しさを追求していく。これを軸に、今後も活動を続けていきたいです」
-これまで、作品を通してうれしかったことはありますか?
「絵を贈って予想以上に喜んでもらえたり、相手の背中を押すことができたりすると、とてもうれしいです。自分の表現したメッセージが、相手の大切な核となる部分に共鳴して受け取ってもらえる。そこにお互いの喜びが生まれることが、作品を作る上でのやりがいや手応えになっています」
-最後に、今後の目標について教えて下さい。
「近い将来、お寺に作品を展示したいと思っています。お寺の雰囲気を壊さず自分の表現をしっかり出していくために、日本画の勉強も始めました。日本画は墨や筆、紙など、画材に対する配慮が想像以上に必要で、驚きとともに面白さも感じています。日本画を学ぶことで、新しい作品づくりにつなげていきたいです。
ほかにも展示だけでなく、お客様とコミュニケーションを取ることのできるイベントへの参加も検討しています。まだ活動を再開して間もないので、いろんな経験を重ねて自分がやりたい表現を形にしていきたいです」