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【コラム】好循環を生む世界のアート法令

世界的に普及するアートの保護法令

ゴールドコーストでは十数年前から建築費の一定%を美術品に充てることで建築税の免除になる(※)条例があり、ほぼ全ての施主が美術品を購入しています。購入した美術品はビルの庭や建物の入り口など、来客者はもちろん一般の方も外から見えるパブリックな場所に設置するようになるのですが、その甲斐もあり貸しビルは稼働率が上がり、賃料の値上げにもつながったそうです。美術品購入に充てた建築費の数%を美術品購入に充てなくとも結局税金として支払うことになるため施主としては出ていく費用は同じなので、ビルの稼働率が上がり収益増につながったことを見ると美術品の購入は成功と言えるでしょう。ホテルなどでも稼働率の向上や宿泊料の値上げに成功している事例も聞きます。当然インバウンドにもつながり、ホテルの売り上げはもちろん税収の増にもつながるため施主だけではなく国としてのメリットも小さくはありません。

一般的に条例というのは施行後不都合な人も出てくるため、評判が悪いとその条例がなくなることも多いと聞きますが、この美術品に関する条例は全世界的に人気があり普及しています。財源がほとんど不要で税収が減るわけでもなく、アーティスト、画商、施主が喜び地域のアーティストが育ち美術品の資産価値が上がるので、購入した人は財産が増え好循環が生まれる仕組みだと考えています。

ニューヨークやドイツでも同じような法律があり前述した通りこの類の法律、条例は現在世界的に見ても増え続けております。他にもフランスや韓国などは条件付きですが美術品の相続は無税になるなど美術品の保護には非常に積極的です。

フランスでは自宅や別荘にかけている絵画には相続税がかかりません。自宅や別荘、そして会社には来客があり公共性を持っているという認識から相続税の対象にはならないのです。
日本では基本的には全ての絵画に相続税がかかってしまうのですが、美術品の保護や文化の継承という意味でフランスの考え方は非常に良いものだと思っています。

特に不特定多数の方が入場料を支払い絵を見に来るような県立美術館や国立美術館を始め、会社のロビー等や誰でも入るもしくは外から見えるような場所に展示しているのであれば、相続税を掛けないことが文化を守っていく上では必要です。

日本の美術品に関する法整備等は世界的に見ても出遅れていますし、認知が広がっていません。例えばアートを経費で購入できるということを知らない経営者は非常に多く、驚くことに税理士でもご存じない方もいらっしゃいます。
ただ私は未整備のこの状態は逆にアート普及伸び白があると捉えています。


業績に影響を及ぼすアートの力

私が独立する以前、銀座2丁目で梅田画廊銀座サロンの店長を務めていた時の話です。銀座サロンはバブルのピークのころに建設された新築ビルの1階に入居しました。数年間の営業後バブル崩壊に伴い地価が下がり始めたため、そのタイミングで家賃交渉を行ったのですが取り合ってもらえず結果的に撤退しました。非常にきれいな画廊だったので原状回復せずにそのままの状態でどこか別の画廊を入れることを提案しましたが、オーナーに受け入れてもらえずスケルトンにして引き渡しました。

その後そのビルの1階はずっとスケルトンのままでどこも入居せず、さらにはその上にいたお医者さんや弁護士など相次いで撤退してしまったのです。梅田画廊の銀座サロンがあった頃はビルの1階が綺麗な画廊だったことで「このビルだったら良さそうだ」というステータスになっていたのでしょう。そのためお医者さんや弁護士、会計事務所など一流の方々が入居していたのですが、梅田画廊の撤退後は全て出てしまって最終的には平均賃料もすごく下がってしまいました。1階に綺麗な画廊が入っていたということは目には見えない価値や入居者にとっての安心やステータスにつながり、ビルの価値が上がっていたという意味でアートがビジネスに直結する顕著な例ではないかと思います。

上記のように美術品がビジネスの後押しをしてくれている例は枚挙にいとまがありません。国を挙げて美術品を推奨することが様々なビジネスを後押しすることにつながり、結果的に税収も上がる為私は日々美術が政治と密接な関係になることを提言しています。
その一つに文化大臣の設立があります。

先進国では文化大臣がないのは日本くらいです。イギリスでは文化省の中にマスコミや教育などがあり、ある意味文化芸術が国のトップです。予算配分なども文化省が行なっており政治権限を持っているのでメディアも芸術などを良く取り上げています。一方日本ではそのような影響力はありません。

とは言え、フランスはアンドレマルローが初代文化大臣に就任するまでは文化後進国だったので「芸術の国」と呼ばれるようになったのもここ100年程度の話です。日本は100年遅れていることになるわけですが、逆に美術がより普及していくためには長い目で見ても、政治から変えていくことが必要であることは明白です。

※1パーセントフォーアート:公共の建築費用の1パーセントをアートに充てようという考え方。国や自治体によって歩合は様々だがフランス、韓国、台湾などでも導入されている。

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銀座柳画廊オーナー 野呂好彦

1987/03 同志社大学商学部卒業
1987/04 株式会社ギャルリーためなが東京入社
1988/09 株式会社ギャルリーためながフランス入社、同社役員となる
1988/12 同社退社
1989/02 株式会社梅田貿易パリ駐在員となる
1991/09 帰国
1991/09 株式会社梅田画廊入社 銀座サロン勤務
1992/09 株式会社梅田画廊銀座サロン店長となる
1994/11 同社退社
1994/11 銀座柳画廊設立
1999/04 (株)銀座柳画廊設立、代表取締役社長となる
全国美術商相互会会員、協同組合美術商交友会会員、関西美術商連盟会員、東京美術倶楽部会員、洋画商協同組合会員、日本ビジネス協会理事、他多数

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