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Interview: 吉岡徹

幾何学的形態の世界で、人生における心の機微を描き出す

 
 

“ 束縛のない表現制作がしたい „

 
 
「小学校低学年の頃、美術の授業でデッサンの課題があったとき、同級生が書き方がわからずに思い悩んでいる中で、私は母から教えてもらった道を、遠近法を使い描くことができました。また、美術でニコライ堂の風景を描いたところ、大手の新聞に掲載。その流れで日展に出品したところ、最年少受賞を果たし、周りの人がびっくりしていましたね。」
 
 

 
 
学生の頃から絵を描く才能を持ち合わせていた吉岡徹さん(以下、吉岡さん)。事もなげに絵を描いては、先生や友だちなど周囲から褒められることが多かったと話す。東京藝術大学を卒業した後にニューヨークへ渡米。ポップアートの先駆者であるアンディウォーホルなどから刺激を受けて帰国し、大手百貨店のデザイン事務所に就職したのだという。そこから30代前半で独立、大手メディアの広告を担当した。その後、長年にわたり大学、大学院でデザインの教鞭をとった後に、70歳で自身の創作活動を開始した。企業デザイナーとして働いていた頃を振り返り、現在の創作活動に繋がるきっかけや思いを話してくれた。
 
「デザイナーをしていた頃と現在では創作活動の方向性が全く異なります。スポンサーがついているとレイアウトや規格などの制限が発生します。もちろん、ビジネスとしてデザインを行い金銭が発生するので、スポンサーの意向に沿った創作をするのは当然なのですが、私にとっては神経がすり減ってしまうこともありました。束縛のない表現制作をしたいという思いが募り、独立。その後、大学、大学院で意匠学、色彩学の教員を定年退職した後に、自分の心が向くままに抽象画の制作を始めましたね。今の創作活動は純粋美術と言えると思います。」

 
 

“ 見る者により表情を変える幾何学形態の表現 „

 
 
「実は、現在の創作は精神衛生のために行っているところがあります。ストレス発散になっているんですよ。自分の心身の健康のために、何事にもとらわれることなく絵を描いています。私は現在82歳ですが、年齢を重ねるにつれて神仏に惹かれるようになりました。休日には時折、神社仏閣を訪れますが、創作につながるインスピレーションを得ることもあります。
幾何学形態の作品をフランスで開催した個展に展示したこともありますが、そこで『キュビズム』に似ていると評価を受けたことがありましたね。ピカソやブラック、日本ですと東郷青児や岡本太郎の作品には影響を受けましたから、近い表現になるのかもしれません。」
 
心の健康につながっているという吉岡さんの抽象画は、色と造形のコントラストの連続により、万華鏡のような光芒を放つ世界を立ち上がらせる。また、超自然的なリズムの中には仏陀や印相のモチーフが据えられており、宗教性も感じ取れる。見る者の精神状態や見る角度、どこに焦点を当てて鑑賞するのかによって作品が大きく変化する性質は、妖しくありながら非常に知的である。
 
 

 

 
 

“ 煩悩や穢れがない状態に向かう心を写しだす „

 
 
「昨年に描いた『無漏』は、最も自分らしい作品です。色彩も形もすべて自分が訴えたいものを表現できましたから。無漏とは、穢れがないことや煩悩がないことを指す仏教用語です。煩悩に惑わされながらも成長し続けようとする心の在り方は、人生そのもののように思います。」
 
 

 
 
生きることの原理や本質の抽出が図られている吉岡さんの作品は、見る人々に強烈な印象を与える。知性と感性が絶妙なバランスで秩序化され、平面に収まる精神性の高さには、誰もが心を掴まれてしまうだろう。鑑賞者を圧倒する力強さを持ちながら、作品の中へと惹き込みさまざまな感情を呼び起こす巧緻を極めた作品は、意匠学に造詣が深い吉岡さんだからこそ成せる業なのだろう。
最後に、今後の作品制作に向けての思いを聞かせてくれた。
 
「年を重ねるごとに体力が衰えていきますので、大きい画を描くことがだんだんと体の負担になっていくとは思うのですが、抽象的表現は今後も続けていきたいです。今取り組んでいる表現には終わりが見えないですから。
幾何学的形態は、いろんな視点から鑑賞していただくと変化を楽しめると思います。1つの視点として、神仏に感謝したくなる気持ちを思い起こしていだければ嬉しいですね。」

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