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Interview: 山上眞理子

人物が秘めるパワーを、ストーリーを、キャンバスに描き出す

 
 

“ 貿易や行政書士を経て、絵の世界に踏み出す „

 
 
人生の多くを仕事と育児に費やしてきたという山上さん。絵を始めたきっかけを尋ねると「たまたまなんです。」という答えが返ってきた。
 
「これまで貿易関連の仕事や行政書士としてたくさんの時間を仕事に費やしてきました。育児もひと段落したタイミングで、新しいことをやってみようと思い立って、絵画教室を開いていたアトリエに足を踏み入れたのが8年前でした。先生との相性も良かったのか、作品を褒めてもらうのが気持ち良くて、コンクールに出してみたら入選したりもして、どんどんのめり込んでいきましたね。」
 
貿易関連に行政書士、アートとは距離が遠く感じる職種で仕事をこなしていた山上さん。話ぶりからも、仕事にかけてきた情熱がうかがえた。特に、お子さまが産まれた後に仕事と育児を両立しながら行政書士の資格を取ったというから、そのバイタリティには驚きを禁じ得なかった。
 
「子どもが産まれて通勤が厳しくなったので、行政書士の資格を取るために勉強を始めました。段々と勉強に対する比重を多くして、資格を取得しました。その後は個人事務所を開設して、外国籍の方々の日本移住サポート案件を専門に業務にあたっていました。しかし、技能実習生やコロナによるロックダウンなど、この数年で大きな変化がいくつも起きていたのもあって、そろそろ潮時かなと。若い人たちにどんどん機会を渡したいという思いもありましたしね。」
 
「これまでたくさん仕事をしてきたので、これからはストレスフリーで、笑って、楽しく過ごしたいという気持ちが一番です。世界では常にどこかで戦争などが起きていますが、元気に過ごすことは人生の根本だと私は思っています。」
 
朗らかな関西弁でそう話す山上さんからは、話しているだけでも元気がもらえるようだ。
 
 

 
 

“ 動く人物が持つパワーをキャンバスに描き出す „

 
 
絵は元々観る方が好きだったと話す山上さんのアートのルーツは、夫の転勤で過ごしたことのあるパリでの経験だという。
 
「アート鑑賞を目的にしなくても、道を歩くだけ、カフェに寄り道するだけでもそこかしこでアートに出会うんです。建築物や広場の彫像、人々が手にしている日用品まで、日常生活がアートであふれている環境で過ごすことは、日本ではできない経験でした。飛行機に乗れば40-50分でドイツやイタリア、スペインにも行けますし、週末はそれらの国々に小旅行したりもしましたね。」
 
山上さんの絵の題材は、南国の草木やフラメンコダンサーなど、異国情緒のあふれるものが多い印象を受ける。題材の選び方についても尋ねてみた。
 
「その時出会って心惹かれたものを題材にすることが多いのですが、母がダンサーだったという縁もあってか、やはり動きのある人物は魅力を感じますね。」
 
しかし、意外なことに絵を描き始めた当初はあまり人物を描く気はなかったのだという。
 
「最初は水彩画とかパステルとか柔らかいタッチが得意な画材から始めたので、静物画や風景画にチャレンジしようと思っていたのですが、2019年にラグビーのワールドカップを観戦した時に、その魅力にハマってしまって。夢中で作品を描いているうちに、動いている人物を描くことが多くなりましたね。」
 
山上さんにとって創作意欲が生まれる瞬間についても尋ねてみた。
 
「絵のことは1日中考えているかもしれないですね。インスタグラムや映画のワンシーンなど、ふとした瞬間に『あ、これいいな』と思ったら、どうやって絵に描こうかなと考えていたり。油絵は乾きにくいので、描けるのは1週間に3日程度ではあるのですが、アトリエで集中してキャンバスと向き合い、産みの苦しみを味わいながら描き上げた絵にサインを書き入れる達成感に代わるものは無い気がします。」
 
 

 
 

“ 褒め言葉はまるで”グリコのおまけ” „

 
 
絵を描き始めて8年になるという山上さんに、創作活動を続けるモチベーションについて聞いてみた。
 
「1番は”好き”という気持ちそのものですね。義務ではなく努力として取り組めるからこそ、長く続けられるのだと思います。」
 
話し振りからも絵画に対する熱意が伝わってくるが、山上さんはさらに続けた。
 
「あとは、私の絵を見た誰かに『頑張ろう』とか『活力をもらえた』とか思ってもらえたら、なんというか”グリコのおまけ”をもらえたような気持ちになります。こんなに嬉しいことはないですし、もっと頑張ろうと思えるモチベーションになります。」
 
絵を描いている最中は、絵の中の人物とシンクロするような感覚になることがあるという山上さん。
 
「一人一人にストーリーがあるんです。例えばこのフラメンコダンサーはステージで目一杯踊って出し切ったから、満足してレストランを足早に出ていってるんだとか、この人は心から踊ることを楽しんでいるんだとか、そういうことを考えていると自然に自分自身が笑顔になって、その笑顔が絵の中の人物に映し出されていくんです。作品を見返すと、ひとつひとつのストーリーが思い起こされるような感覚になります。」
 
最後に山上さんに影響を受けている画家を尋ねた。
 
「最近よく見ているのは奈良美智さんですね、青森出身の。反抗期の女の子みたいで可愛いなと思って。これまではあまり作品を熱心に見てきたわけではなかったのですが、この間青森のとあるホテルから『絵を飾りませんか?』とお誘いを受けて、今度青森に行くんです。これは”絵が繋げてくれた縁”だと思って、奈良美智さんの作品をじっくり見てこようと思っています。」
 
笑顔で楽しく過ごすことを人生の根幹としている山上さん。そのプラスのエネルギーには、きっと自然と様々なものが惹きつけられるのだろう。
 
 

 
 

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