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Interview: 海野かい

ひたすらに絵と向き合う抽象画家・海野かいの苦悩と挑戦

 
 

“ 気が付いたら絵筆を握っていた幼少時代 „

 
 
子どものころから、気が付けば近くには絵があった。絵を描き残す場所が、おばあちゃんから貰ったチラシの裏からキャンバスに変わる。
目指す道の先が漫画家から抽象画家へと変わる。変わらなかったのは、創作に対するひたむきさと、素直さ。目に映る様々な物事や、それらを介して生まれ出でたインスピレーションを描き出す、抽象画家・海野かいさんの魅力に迫ります。


 
元々は漫画家を目指していたんですが、ピカソや岡本太郎、カンディンスキーといった画家に影響を受けたこともあり、抽象画をメインに描くようになりました。本格的に画家を目指し始めてからは、デッサンを繰り返したり、イメージを膨らませたりする日々が続きましたね。
 
-もともと漫画家を志望されていたり、ロックバンドやジャズバンドを経験したりと多方面で活躍されていますが、これらの活動に至る動機や気持ちにはどんなものがあるのでしょう?
 
音楽が好きだったので、バンドをやってみよう、と思い至りましたね。
 
-ロックからジャズというのは、かなりの大転換に見えます。
 
ロックの中のジャンルにもよりますが、ジャズはどんなシチュエーションでも聴いてもらえるし、楽しんでもらえるなって思ったんです。それで興味を持ちましたね。あと、自分が歳を重ねてもやれるジャンルだな、という理由もありました。
 
-画家活動を始めた動機には、どんなものがあるのでしょう?
 
物心ついたときから絵を描いていましたので、「やるぞ!」という動機を持って絵に臨んだのは画家を目指し始めてからですね。気付けば絵を描いているような子どもでした。
おばあちゃんが、僕が絵を描くためにチラシをたくさん残してくれていて、その裏にずっと絵を描いていましたね。

 
 

“ 素直さを軸とした幻想的であたたかな作品たち „

 
 
-海野さんの作品についてお伺いさせてください。幻想的であたたかな雰囲気の絵画が多かったです。創作に対し、どういうときにインスピレーションを得るのでしょうか?
 
いろんな経験や感情が元になっていると思います。(例えばモチーフが)鳥だったら、鳥を描くのではなく、多方面から見た鳥を描く感覚というか。外見的な部分ではなく、内面を見つめるようなイメージで。
流れに任せて見る、と言えば伝わるでしょうか。
 
 


 
 
例えば「雪山のキツネ達」という作品では、モチーフを先に決めて「狐を書こう」と思いました。でも、ただ描くのではなく、幻想的にしたかった。何度か下書きを重ねる中で、だんだん構成が湧いてくるんです。
 
ただ視覚で捉えた情報をもとに絵に起こすのではなく、イメージを形に変えていく構想の段階がとても大切、と海野さんは語ります。
 
絵によりますが、一つの作品を作るのに3日から1ヶ月くらいの期間を要します。下書きはもちろん、色の配置などでも何度も塗り替えて、どんどん内面的なイメージを盛り込んでいく、そのための時間ですね。
 
それが寝ているときに浮かぶこともあって。実は、そういう時はすぐに制作が完了してしまうんです。
僕の場合、制作工程はセオリー通りに構図やラフといった手順を踏んでいきます。ただ描くのに比べて内面のイメージを絵に盛り込む時間がプラスでかかるのですが、寝ている時やふとイメージが降りてきたときは進み具合がとても早い。すでに構図が仕上がっているし、色の設定を決めるだけで完成してしまいます。
 
また、海野さんはそういう「降りてきた」作品ほど「素直」で「自分らしい」と言います。
 
「Dancing」という作品や、「桃源郷」という作品は素直で自分らしく作れたと思っています。僕は降りてきたインスピレーションに従って一気に書き上げるパターンと、デッサンしを崩しながら作っていくパターンとの2種類がありますが、後者の「崩す」とは、無駄を排除して自分らしく仕上げていく工程とも言えます。
そういう意味で、インスピレーションが元となって生まれた作品は、既に素直で自分らしい状態から出発しているから、自分らしさが含まれやすいのかもしれません。

 
 

“ 銅版画も含め、描く場所は選ばない。 „

 
 
これからさらに作品数を増やし、様々な公募にもチャレンジしたいと海野さんは語ります。
 
とにかく作品を増やして、もっと公募展にも応募したいです。画家としての可能性を広げたいという意味でも、今後は壁画や銅版画などにも挑戦してみたいですね。もっと日常的なことでいえば、お皿に絵を書いたり、シャツのデザインをしたり、幅広く興味があります。
 
 


 
 
-兼業画家として日中は別のお仕事をこなす海野さんですが、創作と生活の垣根をどのように超え、バランスをとっておられるのでしょうか?
 
(創作に充てる時間として)日中は仕事をしているので夜に描くことが多いですね。静かなので集中できますし。音楽を聴きながら描くことが多くて、いちど描き始めると4、5時間ぶっ通しで描き続ける日もあります。
 
お休みの日中はまったりしたり買い物したり、気分転換にジムやプールへ行きますが、そうした絵から離れている時間も創作のことを考えてしまいます。
 
-具体的にはどのようなことを?
 
絵の構図とまではいかなくとも、画家として目指す目標を決めたり、今年はこうしよう、と考えたり、創作に関することを現実的に考える時間が多いですね。
 
-完全に絵から離れる、という時間はあまりないのでしょうか。
 
日中に就いている仕事の時間は離れます。そういう意味では、創作に対してオンとオフの役割を担っているのは就業時間かもしれません。
 
-絵とお仕事の両立というか、現実と創作の切り替えは難しいものかと思うのですが、そのあたりはいかがですか。
 
切り替えは確かに難しいところですが、(前提として)絵が好きでもまずは生活が必要です。絵のことばかり考えていてもいけないし、創作の原点として現実を見るのも大事なことだと思っています。
とりあえず今は行動するしかないので、生活も頑張りつつ、絵のことを考えて両立できるよう取り組んでいます。
 
-画家として最もうれしかった時、最もつらかった時はどんな時なのでしょう。
 
公募展で賞をいただいた時ですね。誰かが評価してくれたんだ、ということが励みになるし、素直に「やったー!」と思います。
 
つらかったのは、描いた絵に対して批評や批判が来たときです。純粋なアドバイスや意見であれば問題ないのですが、その時に受けた批評はショックでしたね。「オリジナリティがない」という内容だったのもあり、「それならバネにしてやっていこう」と奮起する理由にもなったんですが。
 
もっと確立できているものが増えたら堂々としていられるのかもしれません。
 
-海野さんにとって、絵を描く際に大切だと思うことや大切にしたいことはございますか。
 
「そのときそのときの感情や想い」が最も大切だと思っています。二度と同じ作品は作れないから、描き始めたら満足できるまで創りますね。
とはいえ、こだわりすぎてもよくないので。力を抜きつつ、自分のインスピレーションを大切に、素直に創作を続ける感覚を大事にしています。
 
-読者の方や海野さんの絵を観る方へ一言あれば、お願いします。
 
自分が絵を描くことで、絵を見てくれた人にちょっとでも「幸せ」や「嬉しい」「面白い」といったプラスの感覚を得てもらいたいです。また、私の絵を観ている中で、コンセプトを言葉で説明するんじゃなく、「これはこういう絵だな」っていう解釈を各々の中に持って、自由に楽しんでほしいと思っています。

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