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Interview: 宮原千恵

混乱の中で思いを昇華。
笑顔の循環をつくる

 

“ 自分を知るきっかけになる „

「高校生のとき、とある高齢者施設を訪れました。そこで見た光景が忘れられなくて。作業というか暇つぶしのように、お年寄りの方がキャラクターの塗り絵をしていたんです。
「どうして幼児っぽいものを?」と疑問に思いました。「もっと人を尊重できるようなことができたらいいのに」って。
そんなことを漠然と考えていたときに、絵の楽しさを知る出来事がありました。
 
私自身、伝えたいことを整理して、人にわかりやすく伝えることが苦手なんです。そこに生きづらさを感じていました。
いつも勢いと衝動で動いてしまって、うまく伝わらなかったり、伝えたいことがぼやけてしまったり。
高校生でちょうど思春期だった私に、美術部の先生が「絵が生きづらさを整理する手段になる」ことを教えてくださいました。
 
自分の抱えているものを描くことで癒されたり、思考の整理にもなったり。伝えたいことも、絵で表現できるようになりました。
先生のように、絵で自分を表現できる楽しさを伝えられる人になりたいという目標もできたんです。
 
でも元々絵に興味があった訳じゃなくて。美術部に入部したきっかけは、生徒指導の先生にアルバイトがバレて「停学か美術部に入部するか」と言われたことだったんですけどね(笑)
 
絵の楽しさを伝えられる人になるために美術系の短期大学に進学し、その後は元々興味のあった福祉の世界へ。
福祉の仕事をしつつ、「絵を描くことで、生きづらさの正体を知るきっかけになれば」とボランティアで絵画指導をする生活を続けていました。
 
現在は絵画教室を開き、子どもたちや障害がある方たちが安心して創作活動を行える環境づくりをしています。」
 
 
 

“ 「自分の中にあるもの」で混乱を昇華させる „

 


 
「人に絵を教えながらも、自分でも絵を描き続けていました。
日々の生活で感じた生きづらさや疑問、ドロドロした気持ちを表現している絵ばかり描いていたので、自分自身の作品を誰かに見られるのって、すごく抵抗があったんです。
でも、「作品を発表していないのに人に絵を教えるのって、説得力が無いな」と思って。ちょうどその頃に、絵を展示する機会をいただきました。
 
自分の気持ちを整理するために描いている絵だったので、人に見られることを意識して描いていなかったんですよね。
展示する機会をいただいて「自分の伝えたいことって何だろう」と考えるようになりました。そこから少しずつ絵が変わってきたように思います。
 
自分の中の混乱を、混乱しながら描くのではなく、「何に混乱しているんだろう」と昇華しながら絵を描けるようになりました。
そうして出来上がった作品が『樹魂―思いを昇華―』です。
 
この作品は、樹をモチーフにしています。
樹って何だか優しいし、その場に存在し続けていることがすごいと思うんです。樹に囲まれて育ったので、記憶として残っているというか。人と話すよりも、樹と話している方が楽なんです(笑)
 
樹に触れると、ワクワクする気持ち、切ない気持ち、温かい気持ち、懐かしい気持ち。いろいろな気持ちが湧き上がってきて。思い出や思想、なりたい自分が、「自分の中にあるもの」として色で思い浮かびます。それが「自分自身を作っているもの」だと思うんです。
見たままの色を写実するのも素敵ですが、私は「自分の中にあるもの」と結びつけて表現したいと考えています。」
 
 
 

“ 絵は生きる力。絵で社会に笑顔の循環を „

 


 
「以前の私は、生きづらさや混乱を抱えている自分を否定していました。でも、混乱しながら描いた絵を見て「自分だけじゃないんだ」と言ってくださる方がいて。
混乱して、見失って。そして立ち直って。またその繰り返し。今は「混乱していてもいいや」と思えるようになり、『理想と混乱のはざま』という作品を描きました。
一緒に落ちていくんじゃなくて、辛い感情を共有し、良い循環に変えていきたいと思うようになったんです。
 
私のように悩んでいる方々、その一人一人と向き合うことは難しいけれど、絵なら多くの人の力になれるかもしれないなって。言葉が無くても、通じ合えるツールなんですよね。
そんな風に、私の描いた絵が誰かの人生に関わることができたら嬉しいです。
 
絵を教えていて実感したのは、「みんな素晴らしい魂を持っているんだな」ということです。自分の考えを押し付けるのではなく、違いも認め合って、そうしてお互いを知る。それが「平和」なんだと思います。
 
そのことに気が付いたのは、実はストリッパーさんを見たときなんです。体一つで表現していることに、すごく感動して。神様みたいでした。
「平和」というと何だか大きなものに感じてしまいますが、誰もが自由に表現できること自体が「平和」で、すごく大切だと思うんです。
 
これまでの人生を振り返ると、いつも誰かに助けてもらってきました。だからこそ私も社会に恩返ししたいという思いが強くあります。
絵を通して、社会に笑顔の循環をつくれたら。そんな「平和」を作り出す「何か」ができたら幸せですね。」

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