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Interview: Mikio Kobayashi

描く楽しさから生みだされた絵は、多くの人へ安らぎと癒しを

 
 

“ 絵を描く素質を信じ、それを発揮できる環境へ „

 
 
「中学生の時に、美術の授業で油絵を教わったのですが、それが非常に面白くて。中学3年生から趣味として油絵を描き始め、さまざまな対象を模写していました。たとえば、新聞の折り込みに刷ってあった、ルノワールやドガの絵を模写していましたし、3,4か月かけてモナリザを描いたことも。
絵やデザインに関係する仕事に就きたかったものの、高校卒業後には、大手通信機器メーカーの総務部門で、人事・就業関連の仕事を始めました。2年ほど務めたのですが、『自分の将来はどうなるんだろう。自分が進みたい道とは違うんじゃないか』と、キャリアについて悩みが出てきて。それで、知り合いの伝手で印刷会社へ転職。当時、デザインは未経験でしたが、版下作成作業から始め、写真植字作業や似顔絵制作、デザインまでさまざまなスキルを身に着けていきました。その後独立し、デザイン会社を立ち上げました。平成元年に会社を設立したので、創立35年になりますね。」
 
 
子どもの頃から絵を描くことが好きだった小林さんは、独学で絵を描くノウハウやデザイン感覚を磨いていった。就職時には、安定を求めてメーカーに入社したものの、絵を描きたいという思いは消えなかった。絵を描く素質を信じ、それを発揮できる環境へ身を移してきた小林さんからは、夢や目標のままで終わらせず本懐を果たす力の大きさを感じる。
 
 
「デザイン会社を立ち上げた後も、趣味で油絵を続けてきましたが、結婚を機に、油絵とは距離を置くように。何しろ、匂いや汚れが付きまとう趣味ですからね。ある時、水彩画のテレビ番組を見て、汚れも匂いも気にならない美しい水彩画に魅了され、2019年から水彩画を始めました。」
 
 

 
 

 
 

“ リアルに温かみと優しさを加えて „

 
 
「一番思い入れがある作品は、二十数年前の娘たちの絵です。最近、次女が結婚式を挙げたのですが、プロフィールムービー用に幼少期の写真を探した際に、懐かしい写真が出てきまして。近所の寺院で撮った写真や、スキー場で雪を食べている写真、入園式に滑り台で遊んでいる写真、ニジマス掴み取りしている写真など本当にいろんな写真があって、当時が蘇るようでした。娘たちは今は結婚して家を出ていることもあって、しみじみと昔を振り返りながら、そういった写真をもとに絵を仕上げました。我ながら良い出来栄えだと思っていますよ。」
 
 
数ある作品の中でも思い入れのある作品を尋ねると、小林さんは目を細めて微笑みながら教えてくれた。娘さんからのお願いで、結婚式のウェルカムボード用に夫婦の絵を描いたこともあったそうで、『親子仲は良いのかもしれないですね』と、嬉しさと一抹の寂しさを同居させたような優しい眼差しで答える。お子様の絵に限らず、小林さんの描く絵は、写実的でありながら温かみと優しい印象を与える。描く時に心掛けていることがあるのだろうか。
 
 
「水彩画を描く際のこだわりは、使う色を決めていることです。どの絵も、基本的にはコバルトブルーヒュー、イエローオーカー、ローズマダーの3色を混ぜながら描いています。人物画には、バーミリオンヒューやオペラといった少し明るめの色を、風景画には、パーマネントグリーンといった鮮やかな色を足すこともありますね。色を制限しているつもりはないのですが、この3色で描いた時にしっくりきたんです。それ以来、基本3色で描いていますが、そのおかげで柔らかく落ち着いたトーンを表現できているんじゃないかと思います。」
 
 

 
 

 
 

“ 描くことが、ただただ楽しい „

 
 
「ある作品がドイツのワインメーカーのラベルに採用されたのですが、それには驚きました。公募しているから応募しませんかと、運営会社から連絡が来て、せっかくなので出してみようと。何か月か経った頃にエアメールが届き、何だろうと開けてみたら、ドイツ語で『ワインのアーティストラベルに採用されました』といった内容が書かれていました。自分の描いた絵が商品のラベルに使用されることは、光栄で嬉しかったですね。」
 
 
小林さんの描く絵は、日本にとどまらず世界中に価値を届けている。そんな小林さんにとって、絵を描くことにはどんな意味があるのだろうか。その意外な答えは、論語の一節を訳した「努力は好きに勝てない」を思い起こさせる。
 
 
「モチベーションとか、実は意識していることはないんですよ。ただ、描いていて楽しい。自分でもうまくいったと感じる時はもちろん嬉しいですが、たまに失敗をすることも。そういった時は落ち込みますし、気にかかるので、描き直すこともあります。ですが、これを絵にしたら綺麗なんじゃないかという構想から、着色していき、実際に想像した通りに綺麗に仕上がるのは、楽しいですよね。ですので、絵を描いていて辛いと思うことはほぼありません。描いた絵を載せているSNSのフォロワーがガクッと減ると、がっかりしますけどね。ただ、見てくださる人が、私の絵から安らぎや癒しを感じ取っていただけていたら良いなと思って描いています。
依頼されて描いた絵を依頼主の方に『素晴らしい』『非常に気に入った』と喜んでもらえるのは、描き手として嬉しいことです。今後も人物画をはじめ、風景画にも力を入れていきたいと。風景画には苦手意識があるのですが、構図や画角、色などを意識して、回数を重ねるごとにアップデートしていければ良いですね。」
 
 

 
 

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