「絵を描くことは小さい頃から好きで、暇さえあればお絵描きをしているような子どもでした。本格的に美術の勉強をしたいなと思ったのは、進学する高校を最終的に決断したとき。なんとなく進学校に通うイメージを持っていたのですが、ある高校のオープンキャンパスでリンゴのデッサンをする体験授業を受けたときに、その考えがガラリと変わりました。それまでは、自己流で好きに絵を描いてきたのですが、初めて先生から教えてもらったんです。美術の知識を得た上で描くことは、これまでの絵を描く体験とはまた違うものだなって。深めてみたいと思ったんです。」
当時を回想し、美術や創作との関わり方の転換点を答えてくれた瀬口さん。好きな音楽の歌詞からテーマを拾い、友だちをモデルに絵を描くこともあったという高校時代を経て、「変身×自画像」の表現スタイルに辿り着いたのは、芸大に進学して2,3年経った頃だったそう。
「大学に入ってからは、自分自身の性格が気になったり、コンプレックスが出てきたりするようになり、そういった内面と向き合うテーマで絵を描くようになりました。幼い頃には、プリキュアなどの魔法少女に憧れていたんですよね。仮面ライダーだと、重厚な装備で顔が隠れていることが多い一方で、魔法少女だとドレスのような装いでメイクもして、可愛くなれるじゃないですか。その上、強くて、世界を守っている。見た目も性格も強い女の子に、惹かれていたんです。より素敵で強いものへの変身願望があった上で、なりたい自分像を模索しながら、そのときに強く感じた感情をテーマに描いています。」
「学生時代は、絵を上手い下手で評価されることが多かったです。特に高校では、デッサンの授業でランキングを付けられたことも。私は、そのランキングだと下から数えた方が早いくらいで、上手いほうではなかったんです。その経験は、苦しいし、悔しいし、恥ずかしいものとして記憶に残っていますね。自分が描きたいと思っているものとは別の観点、上手い下手で、点数を付けられてしまうのは辛かったです。大学に入ってからも課題はありましたが、今は自分の好きなものを描けている感覚がありますね。」
相対評価によって、自分の思いとは相反する部分で苦い思いをした瀬口さんだが、現在の変身シリーズにおいて、モデルである自分には客観的で厳格な視線を向けている。では、絵を描く主体的な自分に対してはどのように思っているのだろうか。そう尋ねると、創作にまつわる思いを述懐してくれた。
「絵を描くことが自分の考えを整理する時間にもなっているので、表現の手段として出会えて感謝しています。現時点で『変身×自画像』は一番自分に合っているテーマだと思っているんです。大学2,3年の頃にこのスタイルを見つけてから、これまで同じように描き続けてきたので、これからもこのテーマで描きたいなって。
私にとって、絵を描くことは自己表現のツールの1つなので、周りの見てくれる人にはどう思われていても良いかなと思っていて。単純に色使いが綺麗だと思われれば、それはすごく嬉しいし、好き嫌いで判断されてしまうことも、まああるだろうし。100%自分が表現したテーマを汲み取ってほしい、共感してほしいという風に思うことはないんです。」
「『変身×自画像』のテーマがしっくりくると初めて感じた作品は、『こっこく』でした。大学で記憶というテーマで課題が与えられ描いた絵。当時は、人物画を描いていたので、記憶という表現は難しいなと思いながらも、いろいろ考えました。高校生から大学生になり、化粧を覚えたり、好きな洋服を着たり、外見を磨くことで自分を勇気づけることができました。それが装備を付けていく感覚だった。また、考え方の面でも、時間が経つにつれて変化し、より自分の内面に向き合えるようになってきたと気づいた。そのように外見も、内面もだんだんと形づくられていく過程を、自画像と組み合わせて描きたいなって。」