日本文化を継承するアート販売Webメディア

Interview: 桒田哲誠

桒田哲誠インタビュー

 
 

“ 自分に一番合っていた油絵の世界 „

 
 

―14歳の頃から絵を描き始めたそうですが、どんなきっかけがあったのでしょうか。

「小さい頃から絵を描くのが好きで、自分の得意分野として認識していました。14歳くらいのときに、自分の手で特別なものを生み出せたらいいなと思うようになり、絵を習い始めたんです。
まずはデッサンから始めて、水彩画を経験し、最終的に油絵に行き着きました。自分の中でデッサンと水彩画は非常に似通った部分が多いと感じていて、特に水彩画に関しては“色付きのデッサン”という感覚がありました。
その中で油絵はかなり独特な印象があり、最も手に馴染むような気がしたんです。そこからはずっと油絵を続けています」

 

―作品を描くときの決まったスタイルはありますか?

「描く時間やタイミングはバラバラです。例えば朝5時に起きて描き始めることもあれば、その時間まで起きていてそこから睡眠を取ることもあります。描き始めると集中するタイプで、油が乾くのを待つ間は下絵などの準備作業に充てています」

 

―いつも下絵を描いた上で作品を作っていらっしゃるのですか?

「そうです。下絵を描くときのパターンは2つあって、一つは鉛筆を紙に置いた瞬間に筆が進むような感覚。もう一つは最初から全体的なイメージがあって、それを白紙の上に描き起こしていくイメージです。
たまに思うように進まないときもありますが、絵を描くこと自体は全く苦になりません。作品と向き合っているときには、一対一で対話をしているような気持ちになります」

 
 

 
 

“ 大きな刺激になったベルメールの人形作品 „

 
 

―17歳のとき、大きな病気をされたと伺いました。

「右顎の骨髄炎を起こして、ひと月ほど入院しました。僕の症状はかなり特殊だったようで、入院前にもしばらく通院して治療していたんです。手術をして退院するまでの間は、ずっと自分の将来のことを考えていました。そうして得た答えが『ずっと絵を描いていきたい』という思い。それからは『一生、絵を描き続けるにはどうしたらいいんだろう』と、考えるようになりました」

 

―その答えは出ましたか?

「まずは、とにかく描き続けるしかないと思っています。あとはいろんな方から「海外で勝負した方がいい」とアドバイスをいただくことが多いので、将来的には国外に拠点を構えて活動していきたいと思っています」

 

―このときに出した答えが、今の作風につながっているのでしょうか。

「大きな影響があったと思います。また同じ時期に、ドイツ出身の画家であり写真家、人形作家でもあったハンス・ベルメールの人形作品と出会ったんです。
僕は小さい頃から、形や線というものに強く惹かれる傾向がありました。例えば紅葉した落ち葉を拾ってきたり、きれいな石を集めたり。ベルメールの作品を見たときに、自分の中にある“フォルムに惹かれる欲求”とつながったような感覚があり、直感的に「これだな」と思いました。それ以来、現在のスタイルで作品を描き続けています」

 
 

 
 

“ 深淵の中、確かに存在する人間の美しさ „

 
 

―2023年6月には、古川美術館(愛知県名古屋市)が主催する「Fアワード~次世代につなぐ~」において、審査員特別賞を受賞されました。

「50号を2つつなげて描いた『月光浴』という作品で賞をいただいたのですが、最初はまったく実感がわきませんでした。自分の人生の中で、大きな賞をもらうことなんてないだろうと思っていましたし…。でも審査員の方から『ベルメールの作品を思い起こすような感覚だ』と言っていただけて、とてもうれしかったです」

 
 

 
 

―全体的に赤い色の作品が多い中、『月光浴』は深い青の中に浮かび上がる白さが印象的です。色については、どのような考えをお持ちなのでしょうか。

「これまで青や緑、黄色など、いろんな色の作品を手掛けました。その中で一番、相性がいいと感じたのが赤なんです。また、青色と赤色とでは描き方も変えています。青色の作品はハイライトをホワイトで出していますが、赤色の場合は絵の具を削って下地のホワイトを生かすことでハイライトを出しています。これは油絵が生まれた15世紀頃から用いられている方法で、僕自身、昔ながらの描き方が好きなので取り入れています」

 

―最後に、作品を通して伝えたい思いを教えてください。

「僕は今の社会情勢や雰囲気に衰退や衰微というものを感じていて、それに対する答えのようなものが、自分が感じる人間の美しさにあると思っています。僕の作風はデカダンス的で、今後もこのスタイルで続けていきます。もしかしたら作品の中に残酷さやグロテスクな部分を感じる瞬間があるかもしれません。でもその一方で、そこに存在する美しさも感じてもらえたらと思います。僕がベルメールに刺激を受けたように、全員じゃなくてもいいから、誰かに深く突き刺さるような作品を作り続けていきたいです」

 
 

戻る