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Interview: 國奥雀謳

先人への敬意を持ち、いまを生きる自分の表現を探求する

 
 

“ 人生を見つめ直しもう一度絵の道へ „

 
 
―作家として活動を始めた経緯を教えてください。
 
「絵は、子どもの頃から好きで描いていました。高校卒業後間もなく、地元の北海道から上京し、絵に関わる仕事がしたいと思って専門学校でグラフィックデザインを学びましたが、『自分は見たものを見たままにしか描けない』と感じて一回その道を諦めたんです。
 
ですが、30歳で自分の人生を見つめ直したときに、もう一度絵をやろう、と思いました。経験したことのなかった日本画を独学で始め、2005年からは毎年上野の森美術館の『日本の自然を描く展』に応募し続けて、今に至ります。」
 
―「日本画」を選んだのはどのような理由があったのでしょうか?
 
「日本の先人画家に対しての憧れや、尊敬の念があります。中学生の時に美術クラブに入っていたのですが、その頃から好きだったのは葛飾北斎や歌川広重なんです。絵の道を一度諦めてから色々な仕事をしましたが、30歳になった頃『自分は何者なんだろう』ということを深く考える時期がありました。自分に何ができるのかと考えた時に、やはり原点回帰して絵の道にもう一度進もうと決めました。その時もやはり、今生きている私たちは、先人の末裔なんだということを感じて。彼らの手法から学びたいと言う気持ちで自然と日本画の道を選びました。」
 
―風景をモチーフにしているのには理由があるのでしょうか?
 
「バイクが好きで、30代でバイクの中型免許を取って、400ccのオートバイで日本各地を旅行していました。そこで取材した風景を作品にしようと思ったのです。今はバイクでということは中々ないですが、やはり旅先で沢山写真を撮って、持ち帰って吟味して、ある材料を駆使して描くという感じです。
 
自分は抽象画を描くタイプではなくて、見たまましか描けないということを先ほども言ったのですが、風景画を描く中で、見たまま描いていたとしても自然と作品の中に『自分』は表現されてるなということに気付いたんです。だから迷わずこのスタイルでいこうと思えました。
 
それに風景って、諸行無常で一生同じ風景がそこにあるわけではないですよね。災害があったり、工事で前まであったものが無くなったり、そもそも自然風景自体が常に動的なものです。ですからその瞬間を絵の中に閉じ込める、ということにもある種の意義みたいなものを感じています。」
 
 


 
 

“ “小さな主張”を入れながら丁寧に描く風景画 „

 
 
―作品に共通する「こだわり」は何かありますか?
 
「ほとんどの作品に動物を入れています。『見たまま描く』とは言いましたが、実際の風景ではそこに動物が居ないことも多くて、後から想像で付け足すこともしばしばあります。
 
例えば『層雲峡と寒雀』は、故郷・北海道の層雲峡の雪景色をバスの窓から見た風景を描いた作品です。この風景は本当に何度見ても絶景なんですが、感動すると同時に、この感動をひとりじめするのではなくて誰かと分かち合えたら良いのになと思うんです。だから雀を入れてみました。雀は本来我々の身近にいる町の鳥ですから、この絵を見た人が身近に感じる雀と一緒にこの景色を観ているという図なんです。」
 
―動物が主役になるのではなく、風景の中に自然に溶け込みながら作品に味をもたせているのが印象的ですね。
 
「動物を入れることが、作品における自分の『小さな主張』にもなっているかなと感じますね。よくよく見ないと分からないぐらいの大きさで描いていることもあります。」
 
―色彩も作品の風景にマッチしていてあたたかみがある、落ち着く色合いだと感じますが、何か工夫をしているのでしょうか。
 
「色彩については特別何かこだわっているというより、日本画の絵具の性質であったり、自身の好みから自然とこのような色味になっていますね。
 
日本画の絵具は、岩絵具と水干絵具があって、基本的に私は岩絵具を使っているのですが、岩絵具は岩石を細かく砕いたものなので、粒子を重ねて塗るため柔らかな感じになるのかもしれません。」
 
 


 
 

“ 「昔を絶やさない」その思いを胸に „

 
 
―絵を描いている時は、どのような気持ちでしょうか。
 
「描いているプロセスでは上手くいくことばかりではないですし、苦しいことの方が多いくらいですが、やはりその先にある達成感が頑張れる理由です。
 
また、描いている時は、一番『クリーンな自分』でいられる気がします。
 
私にも生活や仕事がありますし、絵以外の趣味もありますし、常に絵ばかり描いているというわけではありません。でも、だからこそ、嫌な気持ちの時にあえて筆を取るということはしないですね。」
 
―今後の目標はありますか。
 
「自分の絵を画廊に置いていただけるくらいの作家になりたいですね。そういう思いもあって毎年必ず公募展に応募していますが、同時に、賞をとるために描くのではなく、良い作品を作るために描くのだとも強く思っています。例え入賞できなくても、見た人が何かを感じてくれるのならそれで良いですよね。
 
また、広重や北斎、若冲のような先人への敬意がありますから、『昔を絶やさない』というのも個人的な創作のテーマです。例えば今は岩絵具を和紙に描くスタイルですが、絹本(けんぽん)にも挑戦してみたいと思っています。浮世絵にも複製が可能な『版画』と一点物の『肉筆画』があって、肉筆画は一般的に絹に描かれることが多かったと思います。彼らの技術に届くのは難しいけれど、少しでも近づきたいと思っています。」
 
 


 
 

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