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Interview: イワイヨシコ

人は「自分が経験したこと」でできているからこその届け方を

 
 

“ 私が絵を描き始めた頃 „

 
 
「中学校3年生の時の美術の先生が私と感性のあう方でした。すごく褒めてくれたことが素直にとても嬉しかったです。描くたのしみや、人に認めてもらえる喜びを覚えました。自分の絵を学校の正面玄関に張り出してもらったこともありました。中学生ってそういう出来事がとても嬉しい時期なので、大切に記憶に残っています。」
 
当時の美術の先生との心の対話を思い出すように大切に話して聞かせてくれた。音楽大学のピアノ科を卒業されているイワイさん。いわゆる音楽少女の一面を持つその一方で、周囲に音楽への道を固められたような面もあったのだという。高校の芸術科目選択で美術を選びたかったイワイさんは、しかし音楽の授業をとるようにと大人たちに諭されその通りにしたというエピソードがあったのだそうだ。美術がやりたかったという思いがしこりのようにずっと残り、苦しかった当時のお気持ちを伺うことができた。そこには見るものに深い呼吸をさせるような、どこか癒される要素を持つイワイさんの作風について考えさせられるものもあった。
 
「人間って、やりたかったのにできなかった記憶はずっと残っていくものだと思うんです。私は美術がやりたかったという思いがずっと、しこりのように残っていました。そうして大人になってからカルチャースクールで油絵を始めたのがスタートです。初めは先生の言うことを聞いて静物画などを書いていました。絵を習い始めた当初は、私にとって絵は絵、音楽は音楽と別々のものでした。音楽の経験やミュージックセラピストとしての知識の繋がりは、絵を描いているときにはあまり感じませんでした。創作を進めていくうちに、絵も音楽も一緒だと感じるようになりました。どちらも同じひとりの人間が行なっていることなので当然ですね。」
 
 

 
 

“ 湧き上がってくるイマジネーションを掬って „

 
 
「スクールで習い始めた頃は油絵を描いていましたが、現在はアクリル絵の具を使っています。アクリルはどんどん質が良くなってきて、乾きが早いので上乗せもすぐに行うことができます。その時のイマジネーションを逃すことなくすぐに表現していけるのでアクリル絵の具を気に入っていて、もう10年以上使用しています。目の前にモチーフはなく、エスキースも用意しません。自分の感覚だけで描き上げて、イマジネーションで味わいのある絵を制作していきます。カンヴァスを縦にしたり横にしたりと色々試しながら調和を図り”こういうふうにしたら面白いかも”という発想を大切にしています。」
 
あらかじめエスキースを用意した作品は初めての感覚にならず、まるでぬりえのようだったと語るイワイさん。その時々に湧き上がる感情やビジョンを元に1枚ずつ作品を制作されているようだ。その最中の熱い胸の内を想像することができるたのしいお話だった。最終的には描き初めの自分が想像もしていなかったものが出来上がるのだという。そしてその感覚をまた、たのしまれているのだそうだ。一期一会のように生まれ、鑑賞者の元へ届く作品たちへの思いを伺った。
 
「偶然性を大切にして、それをどんどん展開していきたいです。自分の中には、自分が経験したものしか詰まっていないんです。人から聞いたことも、何かで読んだことも結局は自分の経験です。その中で作品を作っていても自分の範疇を越えることはできないんじゃないかと私は思っています。ですので、自分を枠にはめないためには、偶然性がとても大事なんです。観ていただく方も育ってきた環境やものの考え方は様々です。人それぞれご自由に観ていただくなかで、ものすごくはまってくださる方もいらっしゃいます。そういう時は、作品とその方のタイミングがあったのだろうと不思議な気持ちになり、とても嬉しいです。」
 
 

 
 

“ そっと寄り添う作品を „

 
 
「私の作品についてお客さんに”癒された”や”元気が出た”などといってもらうことが実はよくあります。自分の作風として気持ちが沈んでいくような絵はちょっとなと思うので、そういった感想はとても嬉しいです。同時に押し付けがましくない作品を心がけています。」
 
セラピストとしての一面も感じさせる穏やかな話ぶりでインタビューに応じてくれたイワイさん。鑑賞者に癒しのパワーを受け取る方が多いのにも強い説得力がある。観る人の心を尊重する姿勢にもまた、やわらかなお人柄が現れているようだ。絵や音楽と好きなことを仕事にされており、日々たくさん人の心を動かし、また素敵なものに触れては心を動かされているのであろうイワイさん。最後に今後のご活躍について意気込みを伺う。これまでは多色づかいが多かったものの、モノトーンの作品を制作するなどと違う色味にチャレンジしたい思いも聞かせてくれた。
 
「2022年までは、出身地のある関西を中心に活動してきました。2023年になりはじめて東京(銀座 ギャラリームサシ)で作品展を開催し、2024年以降も東京(池袋 オレンジギャラリー)での展示の予定があります。これまでとは違った色味を使うことにも挑戦していきたいなと考えています。作風も活動域も、少し新しいことに挑戦していきたいという気持ちがあります。」
 
 

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