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Interview: 市野わひる

市野わひるインタビュー

 
 

“ 鉛筆イラストとグラフィックデザインの魅力 „

 
 

 
 

―デザイン領域の活動を始められたきっかけについて教えてください。

「高校生のときに所属していた演劇部での活動を通じて、イラストやデザインの必要性を感じたことがきっかけです。演劇部では脚本を書いていたのですが、物語を書く人間が本の表紙を作れれば、より作品のストーリーを表現できるのではと感じました。そこで、本の表紙をつくるために必要なことは何かと考えた際に、たどりついたのがイラストとデザインです。それから、デザイン領域の活動を始めました」

 

―鉛筆イラストの魅力はどこにあると感じていますか?

「手描きで描かれた、1枚の原画があることです。鉛筆で描かれたイラストは、デジタルで色をつけたり、印刷で複製したりすることも可能です。そのため、活用方法に関しては自由度があるものの、最終的には鉛筆で描かれた1枚の原画に戻ってくるところが魅力だと感じています。

最近では、AIで絵を描く技術が普及しています。ただ、AIの場合はデジタルでいろいろな要素を組み合わせてつくるため、原画は存在しません。一方で、鉛筆イラストは手書きで描かれた、1枚のオリジナルな原画が存在します。この原画から、さまざまな形へ展開していくという点は、鉛筆イラストならではの魅力だと感じています」

 

―グラフィックデザイナーとしての活動において、やりがいや魅力だと感じていることを教えてください。

「商品や作品におけるストーリーを、伝えたい人たちに届けるお手伝いができる点です。

例えば、文章は文字を読むところから始まるため、理解してもらうまでに時間がかかります。一方で、デザインにおいては、一瞬で視覚的にどのような内容であるかを伝えられます。デザインを通じて、商品や作品が持つ物語性を伝えられる点は、グラフィックデザイナーの仕事におけるやりがいや魅力ではないでしょうか」

 
 

“ まだ知られていないストーリーを届けたい „

 
 

 
 

―「リアル寄りだけれども細密画ではないぐらい」を目指しているとのことですが、その理由を教えてください。

「私たちが住んでいる世界において、どこかにありそうなものや風景を描いていきたいと考えているからです。

アニメの様なデフォルメの効いたテイストで描いてしまうと、私たちがいる世界とは違うものとして認識されやすくなります。ですので、私が描きたいと考えているどこかにありそうな風景や世界観とは離れてしまうため、作品を描く際に意識しています。

私の技術的に、細密画と呼ばれる絵を描くことは可能です。しかし、細密画を描いた場合、作品を見る方は似ているかどうかといった技術のみに意識が向いてしまいがちです。私が作品を通じて取り組みたいのはストーリーを伝えることであり、技術の誇示ではありません。細密画を描く技術ではなく、作品を通じた物語性や空気感を伝えていきたいと考えているため『リアル寄りだけれども細密画ではないぐらい』のテイストを意識しています」

 

―ストーリーを伝えることに取り組みたいと考えるようになった理由を教えてください。

「デザイン領域での活動を通じて、自分の取り組みたいことは『まだ知られていないストーリーを届けること』だと気づいたからです。

私が得意としている鉛筆イラストやグラフィックデザインは、何かを叶えるにあたってあくまで手段でしかありません。この手段を用いて何がしたいのか自分へ問いかけた際に、私の中ではまだ知られていないストーリーを届けるお手伝いがしたいなと感じたからです」

 
 

“ 想像が膨らむような余白をつくる „

 
 

 
 

―作品を制作する際に意識していることや、大切にしていることを教えてください。

「想像してもらえる幅を持たせられるように、作品を通じてすべて説明しないことを意識しています。

作品の中で欠けているピースがある場合、見た人は空白を埋めるためにイメージを膨らませるわけですよね。そうすると、自分の頭の中にあるイメージをもとにして、そこから新たなストーリーが生まれていきます。

一方で、頭の中のイメージは人それぞれ異なるため、同じ作品を見たとしても人によって違うストーリーが生まれていくはずです。そのため、想像が膨らむような余白をつくることで、人の心を動かせる作品にできるよう意識しています」

 

―作品作りを通じて今後取り組みたいことがあれば教えてください。

「市野わひるという存在が生み出す作品を通じて、新たなコミュニケーションを生んでいけるようにしたいです。例えば、デザインを通じてクライアントとユーザーのコミュニケーションが生まれるようなイメージです。また、私の作品を見た人同士が、新しくコミュニケーションを取っていくような構図が生まれると嬉しいなと思っています。人の生き方や価値観を知っていくような、作品作りに取り組んでいきたいです」

 

―最後に作品を見てくださる方に対して、メッセージをお願いします。

「私の作品を見た際に、自分の中で『似たような景色を見たことがあるかな?』と、問いかけていただきたいです。『こんなこともあるかもしれないな…』とか『自分が知らないだけでこんなことがあってもいいよね』などと、頭の中にあるリアルな世界の枠組みを少しずつ広げてほしいと考えています」

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