「布を調達して作る服飾作りは、1人でもできるのですが、私はその布の素材から作りたいという思いがありました。しかし、それだと莫大なコストが掛かります。また、服はマーケットのニーズに合わせる必要があり、服は人が着ることで初めて完成されるのですが、私は「服よりも着る人間の方が重要」という至極当たり前のことを受け入れられないことに気付き、より自分の理想を求めたいと思うようになりました。それを実現できるのは絵だと気づいたのです。」
ファッションデザインの専門学校を卒業後、服飾作りの道へ進み、ご自身のブランドを確立したHANAMURAさん。しかし、そのときに何か違うなと感じ思いを掘り下げていくと、「自分ですべてをコントロールできる範囲で物作りがしたい」と気づいたのだとか。それができるのは幼少期から得意だった「絵」だと話す。絵を描きたいという思いが高まり、それが画家の道への始まりだったと語る。現在は画家でありながら、お絵かき教室や絵画レッスンの講師として、絵を人に教えることでも活躍されている。
「私は元々ファッション業界から絵の世界に足を踏み入れた身なので、飾った時にどう見えるかについては拘っている点のひとつです。絵は壁に飾ることが多いと思うので、インテリアや部屋の雰囲気に調和するような作品にするよう、心掛けています。絵の制作依頼を受けた際は、部屋の写真を送って頂いたりしています。この壁のアクセントクロスの幅だったら、キャンバスサイズはこれぐらいという具合です。依頼して頂く人の環境に合わせて細やかに対応しています。」
「一体美しさとは何なのか。何か決定的なルールのようなものがあるかもしれない。それを知るために本を読み、自分なりに思考し、美しさについて理解を深めてきました。その上で、美とは、決まったものがない、これが今の私の答えだと思っています。何を美しいと思うのかは個人の感じ方それぞれで、それは主体が客体と対峙したときのみ頭の中で発生します。人間が二人いたら客体を前にして、それぞれ全く違うところに美を見出している、あるいは一人は見出しているがもう一人は何も感じていないということがあるのです。答えを出してから正直なところ困っていました。そこで私は、絵を見る人に対して問いかけることをテーマに制作しようと決めました。」
作曲をしている友人からアートワークを作ってほしいと依頼されて、初めて描いた抽象画が一番思い入れのある大事な作品だと話す。HANAMURAさんは、絵を描くときにあれこれ考えすぎると筆が止まってしまうそう。この思い出の詰まったジャケットの絵も無意識に描いて、最高の作品に仕上がったという。さらに深堀して話をお聞きした。
「私は作品を作るにあたって自分の想像を超えたいと思っています。そのためあらかじめ様々なものを見て勉強をしています。美学もそのうちのひとつです。私はお寺や禅庭がとても好きで、あの静けさと完成されたミニマリズムをずっと追いかけてきました。さまざまな文献や書籍も読んで、哲学的な部分を自分の中に取り入れています。このように情報を先に入れておくことで、自分の中で何か熟成されるものがあるのです。期間が空くことで、その熟成された情報が自分の中で整理され、それが作品に活かされています。だからこそ、実際に描くときには無意識でないと良い作品に仕上がらないのです。」
「色彩や光の組み合わせによって、見えるものの印象は全く異なるので、そういったことを絵に表現しています。私は、空を眺めながら散歩することが好きなのですが、時には夕方の雲に虹がかすかに見えることがあるように、見る時間帯や見方で見え方が異なるのですよね。小さい時も、電車の窓から光が差し込んできて、床がキラキラしているのをずっと見つめていました。幼少期から本能的に光に惹かれていました。反対に、自分が嫌いなものや醜いものを意識して見ることもあります。例えば自分が嫌いなものについて、なぜ嫌いなのか、それを探りに行こうとするのです。そうすることで、自分が何に対して価値を置いているのかがわかるようになると思っています。」
画業をしていて、自分の納得いく作品が仕上がったときが一番嬉しいと話すHANAMURAさん。一方、最近うまくいかないことが立て続けにあったらしい。上手く描けずにしまっておいた作品をもう一度日を改めて見ると、良いと感じることもあって、何が起こるかわからないと話す。短期間でたくさんの絵を描くことは、このような迷い・困惑も生じるそうだ。今後もこのような経験をしていくのだろうと、HANAMURAさんは未来を見据えていた。そんなHANAMURAさんに憧れの画家についてお聞きした。
「昔からマーク・ロスコさんが大好きです。彼の作品は、絵の具2色だけで、キャンバスに色を塗っているというシンプルなスタイルでありつつ、ものすごい胸に迫ってくるものがあり、とても感動します。何とも言えない、言葉にできないものを感じる、そういう感動があるのです。私も、このような言葉に表せられない感動を与えられる画家になれたらなと思います。」