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Interview: 福島沙由美

流動的な「記憶の形」を光の反射や虚像で表現しています

簡単に自己紹介をお願い致します。



ベルリンのアトリエ

 

東京生まれ。東京藝術大学油画専攻を学部と修士課程で学び、学部時代に公募の上野の森美術館大賞展とトーキョーワンダーウォールで共に大賞を受賞しました。藝大の修士課程修了後、スイスのチューリッヒ芸術大学のMaster of Fine Artに留学し、修士課程を修了した後、ドイツのベルリンに活動の場を移しました。

記憶の曖昧さと視点をテーマに作品を作っています。自身で制作した歪んだガラスの球体の中に水を入れ、様々な位置や角度から見えた風景や水面、鏡像を元に描いています。記憶は映像のように一定の視点で記録することはできず、それぞれの要因や環境、感情、時間の経過などで変化していきます。虚像も同じで、視点や環境を変えると同じものを映していても、別のものになります。つまり記憶とは流動的で虚像のようなものです。私は光の反射や虚像を描くことによって「記憶の形」をキャンバス上に表現しています。


絵を描き始めたきっかけはなんですか?

子供の頃は絵を描くのが嫌いで、自分で描いた絵を破って捨てていました。小学校4年生の頃、図工の授業で「靴」の絵を描きなさいという課題が出て、その絵を描いたとき絵を描くことが好きになりました。その時学校へ履いて行った靴が、デパートで親に好きな靴を買っていいと言われ、自分で選んだお気に入りの靴だったからです。つまり私はテーマが決められた絵を描かされるのは好きではなく、自分の好きなものを描くのは楽しいと気づいたのがきっかけです。

作品にはどのような想いを込めていますか?

作品制作中は無の心境なので、どちらかというと瞑想をしているような感じです。

印象に残っている展覧会や出来事はありますか?

スイスで個展をしたとき、展示会場に小学校低学年ぐらいのスイスの子供たち15人ぐらいが先生と一緒に私の展示会場に来てくれました。最初は子供だからすぐに飽きるかなと思っていたのですが、子供たちは円陣を組み始め、一人一人、どの絵が一番好きか。なぜその絵が好きなのかをディスカッションし始めました。そして私に作品について質問してくれました。子供の頃から自分の価値観をこのように育成していくスイスの子供達が印象に残っています。





2019 年12 月ベルリンでの個展


現在海外で生活されていらっしゃいますが、なぜ海外に移ったのでしょうか?

日本在住のままだと日本のみでの活動がメインになり、海外での活動がほとんどできないだろうと思ったからです。ドイツを拠点に活動したのは主にヨーロッパでの活動の機会が増え、様々な場所で作品を展開しやすいからです。そして様々な国籍のアーティストの作品を間近で観るチャンスでもあります。日本では一年に一回ほどの展示を目標にしています。

海外での活動を決心した出来事は、受賞直後、藝大の学部時代講評に来たアーティストの方に「今、我々は公募で受賞した人たちをわざと評価しないようにしている。評価をしなければそういう人は自然と消えるからな。最後に残るのはこの私だ。」と言われたので、視野を広げる為、日本のみならず海外でも積極的に活動しようと決意し、現在に至ります。

日本と海外のアート市場で大きく異なる点はどのようなところでしょうか?

日本以外の国を海外と一括りにするのは難しいのですが、あくまで私が感じた一個人の意見として述べますと、日本の作品は海外の作品と比べクオリティが高い作品が多いのですが、思想面では浅く幼い作品が多く感じます。海外のコレクターは誰かが評価した作品だからと他人の意見に左右されて買うことはなく、自分の価値観で作品を購入している人が多いと感じます。


絵を描いていない時間(お休みの日など)は何をしていますか?



ドイツのWaldniel

弓道をしています。弓道の練習をしている時、集中力が保たれ無の心境になり雑念がなくなります。絵を描いている時との感覚と似ていて五感が鋭くなるような感じがします。弓道は完成形がなく常に自問自答し理想に近づけていきます。絵も同じで完成がありません。完成と思っていても、まだまだ描き進めることはできるし、描いているときは理想も追求します。弓道の理想の射系は、まだまだなのでベルリンだけではなく、ドレスデン、ハンブルクなどでの合宿にも積極的に参加しています。

画家として最もうれしかった時、最もつらかった時は?

スイスに住んでいたとき、個展の時に絵を買ってくれた方々が、どのように私の絵を飾っているのか見せる為、家に招待してくれた時とベルリンでの個展の時のイベントでギャラリーのオーナーの奥さんお手製の豪勢な食事を用意してくれたのがとても嬉しかったです。
辛かったときは海外生活中病気になって、作品制作ができなくなったときです。



2013 年5 月 スイスMeilen での個展

絵を描くヒントを得るために何かしていることはありますか?

主に外出先で見つけます。それは散歩だったり、旅行中だったりするので、外出するときはそれらを記録できるようにします。


今までの作品で最も「自分らしい!」と思う作品があれば教えてください。また、そう思う理由なども教えてください。

絵を制作し終えると、その時々で次の絵の課題やヒントが生まれます。なので最も「自分らしい!」と思う作品を作れたら、それ以上の作品を作ることができないので筆を置いています。まだ完全ではないので次の作品を作る原動力になります。過去作品はそれぞれ、その時の自分を反映していますが「最も」という言葉をつけることができません。

これからどんなことに挑戦していきたいですか?

今、挑戦していることは自身の作品をメディアを使ってアプローチすることです。インターネット上で作品を見せることによってどれだけ影響があるのか実験中です。他にはもっとヨーロッパで作品を制作発表していきたいです。

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福島沙由美

実際に見たものが眼球に映り込み視神経を伝わって脳に伝達され、それが記憶に変換されているものを私は描いています。それは、自分というフィルターを隔てた内側の世界です。その中では見ているもの、風景などが形を変え、自己の中で再構築されています。比喩的に表すと、風景の一部が溶け始め、新たなヴィジョンとして展開し、記憶の中に留まるような感じです。
 私は、記憶を水の表面の映り込みとして捉えています。例えば川の表面にできた水泡の中には風景が映り込みます。その水泡は風景を取込み瞬時に消え、風景は水に溶け、川底に溜まっていきます。それが何層にもなり、古い記憶は次第に下層部になり、安易に流される事が無くなります。形の定まらない流動的な記憶の表現を試みています。


▼オフィシャルサイト
https://sayumi-art.com

▼instagram
https://www.instagram.com/sayumi.fukushima/

▼経歴
東京生まれ
2010 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
2012 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修士課程 修了
2015 Zurich University of the Arts Master of Arts in Fine Art 修了

▼主な個展
2019 「Schein und Sein」Gallery Gondwana, Berlin Germany
2016 「der Anfang der Erinnerung」Galerie zur Matze im Stockalperschloss, Switzerland
2015 「Spiegelbild der Erinnerung 記憶の鏡像」SMART SHIP GALLERY, 東京
2013 「Veränderung der Erinnerungen」Kulturschiene, Switzerland
2011 「Sayumi Fukushima Solo exhibition」Villa Sträuli, Switzerland
2010 「第 26 回上野の森美術館大賞展」上野の森美術館ギャラリー、東京
2009 「鏡游掬~きょうりさらい~」 TWS 本郷、東京
「トーキョーワンダーウォール都庁展」東京都庁、東京

▼主なグループ展
2018 「Kultur Zeug Kasten」 Zeughaus Kultur, Switzerland
 「 Infinity Japan 2018 Contemporary Art Show」 Miramar Garden Taipei
2017 「猫コレクション」日経新聞 SPACE NIO Art Gallery、東京「chemicalmoonBABY」 Kunstbaustellen Zurich, Switzerland
 「Zurich Art Fair」Zurich Switzerland
 「YIA ART FAIR」 Basel Art Center, Switzerland
 「ASIA CONTEMPORARY ART SHOW」 Conrad Hong Kong
2016 「Balade en images」Riddes, Switzerland
 「YOUNG ART 2016」Zeughaus Kultur, Switzerland
2014 「記憶のイメ-ジ/イメ-ジの記憶」Bank Art Studio NYK、横浜
「Zurich Art Fair」Zurich Switzerland「現代女流画家の視点」―上野の森美術館コレクション― 金谷美術館、千葉
 「佐藤美術館コレクション展」佐藤美術館、東京
      「芸大アートプラザ大賞受賞者招待展」芸大アートプラザ、東京
2013 「Scope Basel 2013」 Basel Switzerland

▼受賞歴
2008 「第26回上野の森美術館大賞展 大賞」
      「トーキョーワンダーウォール公募2008 大賞」
      「平成20年度優秀学生顕彰事業(独)日本学生支援機構 文化・芸術部門 大賞奨学生」
2009 財団法人 佐藤国際文化育英財団 第19回奨学生
      第24回ホルベイン・スカラシップ奨学生

▼コレクション
上野の森美術館
佐藤美術館
Stockalperschloss, Switzerland

▼Artist in Residence
2011 Villa Strauli, Switzerland
2016 Brig – Glis, Switzerland

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