INTERVIEWインタビュー
長田秀敏インタビュー
「ノー」と言ってはいけない
―デザインについて、学び始めたきっかけを教えてください。
「私が住んでいる地域において、身近な環境で学べたのがデザインだったからです。私が子供の頃は、イラストレーターの空山基さんやコピーライターの糸井重里さんが活躍し始めていました。しかし、当時からイラストレーターやコピーライターという仕事はあったものの、まだ職業として認知されているとは言えない時代です。
当時の私はイラストレーターやコピーライターなどの職業に憧れがあったものの、都心に住んでいたわけではなかったため、身近に学ぶ環境がありませんでした。そこで自分の住んでいる環境や興味関心を踏まえてどこでなにを学ぼうかと考えた際に、比較的身近だったのがデザインの専門学校でした。そのため、専門学校へ通いデザインを学ぶようになったのです」
―専門学校を卒業してからは、どのような仕事をされていたのでしょうか?
「デザインの仕事だけでなく、関連する業務に幅広く対応していました。当時はデザインの業務だけに集中できていたわけではなく、仕事を選り好みできません。
デザインの仕事に関しても、自分がやりたいことだけやるのではなく、相談を受けた内容はすべて対応していました。なぜなら、相談内容に対して『難しいです』と回答すると、次から仕事がなくなるからです。まずは『できますよ』と回答し、次にどうするか考えるといったイメージです。
いろいろと大変な環境ではありましたが、私の根底には『イラスト・デザインをやりたい』という気持ちがありました。当時の環境においてイラスト・デザインの仕事を続けたい場合、無理な相談でも『ノー』と言ってはいけないと考えていたのです。
一方で、選り好みせずさまざまな業務をこなしてきたからこそ、対応力などのイラスト・デザイン以外で仕事を進めるのに必要なスキルも身についたように感じます」
ピラミッドの頂点を目指したいとは思わない
―イラストレーター、グラフィックデザイナーとして、仕事に対する考えや想いがあれば教えてください。
「1つのテーマに対して、同じ方向性で頂点を狙うのではなく『このような表現の仕方もあるし、むしろこちらの方がおもしろいよね』と、言われるようになりたいと考えています。
イラストレーターやデザイナーのスキルは、ピラミッドに例えられる場合があります。例えば、ポスターのコンペがあり、10人のデザイナーが参加したとしましょう。モチーフなどが決まっている場合、基本的には構図やテイストが非常に似通っていくため、同じような作品のなかで優劣を決めます。そのなかで、一番上手な作品を描いたデザイナーから順にピラミッドの上へ立ちます。
人数が多ければピラミッド自体が大きくなるため、頂点に立つハードルは高いです。そのため、デザインスキルの観点で大きなピラミッドの頂点に立てるのは素晴らしいことです。ですが、私自身はこのようなピラミッドの頂点を目指したいとは考えていません。なぜなら、私のなかでは、大きなピラミッドの頂点へ立つことにそこまで魅力を感じていないからです」
―では、長田様の場合、どのような考え方をされているのでしょうか?
「私の場合は、多くの方が目指すような大きいピラミッドではなく、別の切り口を用いた小さなピラミッドの頂点を目指した方がおもしろいという発想です。
まったく違う方向へと進み、他の人たちから見たら『そのような切り口や表現の仕方があるのか』と、言っていただけるような作品をつくりたいと考えています。奇をてらうわけではありませんが、日頃からこのような考え方をもっています」
海外の文化は魅力的であり理想的
―今後の目標や、取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
「今後は、国内だけでなく海外のお客様にも目を向けていきたいと考えています。SNSを通じて、海外の方向けに作品を公開して感じたのが、日本との文化の違いです。
いまの日本では、絵画や掛け軸を飾るという文化が昔と比べて少なくなっています。一方で海外においては、絵画を家に飾るのは当たり前だという文化があります。絵が飾ってある空間を含めて、自分の家だという考え方なのでしょう。誰かを家に呼ぶ際は、まず自分の趣味を楽しんでほしいという感覚があるようです。私個人としては、このような海外の文化が非常に魅力的であり、ある意味理想的だと感じています。
今後SNSで発信をするにあたって、海外の方を相手にしていく場合に、私自身は日本人の作家であるという立ち位置でいなければならないと感じました。ですが、日本古来のものを作品として描いても、私より上手い方は数多くいます。そのため、現代の方々が私の作品を見てなにか『ストン』と落ちるような感覚をもってもらえないかと考え、いまのタッチで描き始めました。
もちろん、海外の方々だけに作品づくりをしていくわけではありません。ですが、今後は国内だけでなく海外にも目を向けていきたいと考えています」
―作品を見る方へのメッセージをお願いします。
「私が作品をつくる際に、重要視しているのが『最短で最良のものを出す』ことです。依頼主様からの要望があるということは、そもそも必要なものはわかっているわけです。ですので、必要なものを最速で仕上げるという意識を常にもっています。
一方でスピードを重視するからといって、なんとなくの状態で作品を提出することはありません。作品を通じて、見ていただく人にも意図や目的がきちんと届けられるようにしたいと考えています」