鮮烈な色彩で描かれた富士山や花。よく見ると点描で緻密に色づけられており、その細やかさにも圧倒される。この作品を描いたのはタニシ マシロさん。日本各地で展示を行い、フランスやニューヨークの展示にも参加している。のびのびと、描きたいものを描くというタニシ マシロさんだが、学生時代は今とは正反対の絵を描いていたのだとか。
「学生時代は色はほとんど使わず、ワントーンで仕上げる絵を描いていました。講義の中で批評会があって、教授が生徒の作品を批評していくのですが、もし自分が表現したいものを見せて、滅多打ちに批評されたら立ち直れないと思っていて。やりたいことに蓋をしていました。
大学受験で浪人していた時も、絵を描きたくて美大に行きたいのに、受験を乗り越えるまで描き続けていると、描くことが苦しくなってきちゃうんですよね。
そんな経験もあって、学生時代は描きたいものを描くより、批評会で自分のレベルや技術を示すために描いていました。他の人がやっていないことをやろうという気持ちはありましたが、自分が表現したいものとは向き合っていなかったと思います。」
制作の道に戻るきっかけとなったのが「ブログ」だった。
「ネイルアートの仕事がなくなって何もすることがなくなった時、他の人がどんな風に毎日過ごしているのか気になって、いろんな人のブログを読み漁っていたんです。そこでものすごく人気のブロガーさんがいることを知って、その方のブログ講座に参加しました。
自分がブログをやるかはさておき、一般人なのにこんなに人気があるということは、何か人を惹きつけるものがあるんだろうと興味があり、思いきって行ってみたんです。
その講座でいいなと思ったことが、『自分が難なくできることで』『誰かを喜ばせる』記事を書くということ。
その講演を機に私もブログを始めてみましたが、文章だけだと全然続かなくて。改めて『自分が難なくできること』って何だろうって考えたら、やっぱり絵を描くことだったんです。それで毎日、金色のペンで描いた絵をアップするブログを始めました。」
作品はどんな画材で描かれているのか尋ねると、メインで使っているのはアクリル絵の具と「ポスカ」。さらに、絵の具を塗る時は筆を使わないと言う。
「例えば空や富士山など、全体のベースとなる色はアクリル絵の具で、手袋をつけて手で塗っていき、細かいところは『ポスカ』で。動きのある作業と、静かな作業を合わせているんです。仕上げに金色を入れます。
どの作品にも共通しているのは、必ず金色を使うこと。作品が引き締まるという意味もありますが、キラキラしたものってパワーが秘められていると思うんです。
ネイリストだった時も、仕上げにゴールドのラメやラインストーンなど、キラキラしたものを載せると、みなさんすごくテンションが上がるんですよ。それってすごいことだと感じていて。日本の神社仏閣にも金色が使われている所もありますし、金色って大切な色だと思うんです。そのパワーを借りて、見る人に喜んでいただきたいので、金色は必ず使います。」
そうして描かれた作品は、フランスでも評価を得た。