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Interview: Norico Nagaiwa

特別なものは気づきの中に

 
 

“ 内から外へ „

 
 
「2011年頃に精神的に押しつぶされるような出来事を経験し、人に会ったり外に出たりすることが出来なくなった時期があり、閉じた世界から外への扉を少しづつ開いてくれたきっかけが写真でした。最初はただそこにあるものに
向けてシャッターを押すだけで深い興味も持てずにいましたが、季節が巡りながら移り変わっていくその表情を感じるうちに次第に気持ちは外へと向いて行くようになりました。
「私は何が好きなんだろう?」「どんなものに惹かれ、癒されるのだろう?」目的地を決めずに出かける旅は私自身を取り戻すために必要な様々なものを問いかける旅になっていきました。」
 
無意識ではあったものの、てらいなく自身を表現するための術を探していたのかもしれないと当時を語るNoricoさん。走る車の窓越しに、視線が止まってと促してくるものがあったのだという。
 
「それらは特別な場所というよりどこにでもあるような無造作な自然の中に多くありました。時には心地良く、時には寄り添ってくれるその時々の心模様が求める光景や景色、生き物達の息遣い。そんな中で過ごす時間は私自身との大切な対話の機会となりました。それでも写真に切り取られた現実にはどこか物足りなさがあり、感じたものとのギャップがありました。旅を重ねていくうち、現実に見えている景色とオーバーラップしてもうひとつの違う風景が自分の中でふっと見えてくる感覚に包まれていくようになるのをはっきりと意識するようになります。この感覚を表に出してみたい。現実ではなく私自身が感じたものを表現することが出来たら。それがイメージアート作品を作るようになった出発点です。
感じたまま外へ外へ。当初は私自身の心の解放のための作品作りでした。
そしてPhotoshopとの出会いが私の想像の世界を少しづつ広げていくことを可能にしてくれました。」
 


 

 
 

“ 「目が」見たものでなく「心が」見たものを „

 
 
「過ごした時間の中で感じ、生まれた色やイメージをそれぞれの記憶の中を歩き、辿りながら作品にしていきます。
その過程の中で自分が惹かれ、それをどのような表現で形にしていくか、切り取った写真を素材にして自分の表現方法を
探していきました。風景や色だけで表現した作品には非現実的なものもあれば、どこかで見たことのあるようなものも
あります。すべてに共通していることははそれぞれの場所、時間がくれた穏やかさであり心地良い色や光です。」
 
 
Noricoさん独自の”イメージアート”。この名前も独自でつけられたのだという。自分のイメージを表現している作品にぴったりかと思い名付けたと語ってくれたが、お話を伺っていてもこれ以上にふさわしいお名前はないくらいに感じた。
 
 
「私が作っている作品は心象風景に近いのかもしれません。見る人にとってそこに見えるものも感じるものも違います。見ていただく方々に作品の中でそれぞれの記憶を重ねながら、ひとときの時間の旅をしていただけたら嬉しいと思っています。色や光が好きなので大切にしたいです。空の色が時間をかけて変わっていったり、太陽が動いて光の差し方が変わったりするのを眺めているのが好きです。てらいなく表現していけるようにと思っています。」
 


 

 
 

“ 感じる気持ちを持ってさえいれば、きっと。 „

 
 
様々なモチーフを使って作品作りの幅を広げていますが、2019年以降「鳥のモチーフ」に着目した作品が多くあります。そのきっかけはコロナ禍の中で過ごした閉塞感に喘ぐ暮らしの中での気付きでした。遠方への撮影を断念せざるを得ない状況の中、今まであまり意識することのなかった身近な場所を毎日カメラを持って歩くようになりました。まだまだ自然の豊かさがあることに今更ながら気付いたのです。私たち人間が明日がどうなるかもわからない絶望感や不安に包まれている時でも、そこには沢山の生き物達が命を育んでいる。たくさんの野鳥達が暮らしていることすら知らなかったなんて。
元気に楽しそうに自由に飛び回る鳥達だけでなく、溢れた種から毎年咲く路肩の草花達、生き物達の住まいでもある樹々や森は風でそよぐ。それまで通り過ぎていくだけだったその場所に、多くの命を感じたのです。自由はあっても選択することの出来ない環境で生き、暮らす彼らの姿が私に明日を思える気持ちを強く持たせてくれました。彼らへの深い愛おしさと感謝の気持ちがあり「花鳥」というイメージで作品を作りたいと思うようになったのです。」
 
 
そう鳥のモチーフについて語ってくれたNoricoさんに、今後の展望をお尋ねした。
 
 
「特別なもの。それは手の届かない特別な場所にあるのではなくて、自身が向ける眼差しと気づきの中で見つかるものなんじゃないかと、今もその思いを強く持っています。今もこれからも感じることを忘れずに、どんな場所にでも自分にとって特別なものを拾い集めながら、細やかなメッセージを込められるような作品作りをしていきたいと思っています。
2024年はイタリア、New Yorkへの出展、国内Web個展などがありますが、一つひとつの機会を大切にしながら楽しみたいと思っています。」
 


 

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