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Interview: 桝田若代

その時の自分を投影した絵を描き、長く模索し続けたい

 

“ 美術畑で育ったことによる葛藤と今の在り方 „

「美術大学に通っていた頃は、油絵や人物像、抽象画と具象画の入り混じったような絵など幅広く描いていました。現在は抽象画をメインに他の表現技法も模索しています。自分の得意な領域はまだ正確には定まっていなくて、描きながら気づき・見つけていくものかなと思っています。これには答えもなく、誰かに強制されるものでもないので、自分の本能と生活の中での気づきをもとに、自由に模索し続けていきたいですね。現在は抽象画を描きたいという気持ちがあるので、それを尊重しています。」

祖父は画家、両親は美術を仕事にされ家が絵画教室という、幼少期から絵を描く環境で育った桝田若代さん。大学進学を機に女子美術大学に進学を決意。さらに、女子美術大学の大学院に進学後、プロになることを志して絵画の専門性を磨く。その後中学校の美術科を経て、絵画教室等の講師をしながら二児の子育てをしてきた。配偶者は正教会の聖職者。現在は自分と向き合いながら作品制作をし、聖歌を歌うことや、埋葬式で命と向き合う事など、家業である教会の様々な仕事にも携わっている。これらのことも全部含めて自分の制作過程とつながっていると話す。

「幼少期に描いた絵を見ると母親のコメントがついているので、それを見て当時のことを思い出すこともあります。女の子って自由に絵を描きたい時期があると思うのですが、身内が絵のプロだったが故に規制されている部分も多くて。もっときちんと描かないと駄目だよといった感じですね。実はこのいちいち言われるのが少し嫌だったなという時期もありました。落書きみたいに自由に書く、そういった楽しく描くことは成長過程の中でとても必要なことかもしれないなと、今になって気づきました。そして、この想いが反動になったのか、大人になった今、抽象画を描くことにつながったのかなとも思います。」

 

“ 1人ひとりが自由な発想を持てる絵画 „

「美術制作は、見る人が絵を通じて想像する機会を与えるものだと思っているので、作品は見る人のものだという視点にこだわっています。見る人がAだと思えばA、Bだと思えばBなのですよね。見る人の自由な発想ができる余白やそのチャンスを与えるのが、画家の役割かなと思うのです。抽象画などは実体が見えないものなので、そういった見えない・どこからかくるものをキャッチし、自分という媒体を通してそれを提示する。これが文化やアーティストなどの芸術家だと思いますので、このスタイルを大切にしています。」

桝田さんが昔から好きな画家は、アメリカのアンドリュー・ワイエス。彼は具象画を描いているものの、本人は抽象画だと主張し、その高い技術力があった上でものの見方が抽象である姿にビビッときたのだとか。感覚だけで描いた絵はあまり評価できず、アカデミックである基礎の上に成り立っている画家に敬意を払っていると桝田さんは話す。美術は基礎をきちんと習得し、その基礎がしっかりしている上でのくずしやオリジナル性の大切さを語っていただいた。

「今までに一番力を入れた作品で言うと、大学4年生の卒業制作時や大学院の時ですかね。環境が整っていて技術面は確かなものだったので。ただ今振り返ると、人生経験が浅はかで中身が薄いなとも感じますね。一方、現在はSM型サイズの作品をほぼ毎日描いています。どれもその時にしか描けない、自分の記録のようなものなので、1つひとつの作品が自分らしい、その時の自分を表現しているなと思います。絵と言うよりかは心の投影といった感覚ですね。」

 

“ 絵を見てくれる人とのつながりが最高の喜び „

「コンクールへの出展や、良い賞を取ることにそこまで嬉しさや喜びを感じません。そういうのってどうしても審査員の目を意識してしまい、自分の中では納得がいかないんですよね。自分が自然に描いた絵を通じて、本当に少人数の方でもいつも見てくれている人がいること、これが最高の喜びなんです。展覧会に来ていただいたり、絵を公開しているInstagramにメッセージをいただいたりと、今の状況はすごく嬉しく幸せですね。」

普段の生活を通じて、誰かと話したり、家族と接したり、散歩をしたり、日常のちょっとしたことから絵のアイデアを得て、それを絵に表現する感受性の高い持ち主である桝田さん。そこから様々な思いや色んな言葉が浮かんでイメージを膨らませながら絵を描く桝田さんは、いつも家事や子育てが終わった夜に筆を動かすらしい。今年の8月には香港での出展を予定し、将来的にはヨーロッパへの出展を模索して、海外市場にも目を向ける桝田さんに今後の展望をお聞きした。

「現在、無理なく画業を続けられているなと思っているので、自分の絵を必要としてくれ人に届くこの状況を長く続けていけたらなと思っています。だから、何か貪欲にこれをこうしたい、ああしたいという気持ちは正直ないんです。健康に気をつけて、この日常がいつまでも続いて、長く一生をかけて自分らしい絵を描き続けられる、それが一番ありたい姿ですね。あとは、現在子どもたちに絵を教えているのがとても楽しいので、いずれ大学のような専門的な機関で教えられたらなと思っています。」

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