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Interview: 川本治

見る者によって変幻自在に姿を変える可能性を秘めた作品

 

 

先生の助言を受けて踏み出した日本画への道

 

 


 

 

川本治さんが日本画の世界に入ったのは、中学時代に憧れていた美術の先生がきっかけでした。
先生は油絵が専門でしたが、川本さんが描いたデッサンを見て「日本画の方が向いているのでは」と助言。
それ以降、川本さんは独学で日本画の勉強を始め、美術大学を目指す予備校時代に絵具の使い方や紙の張り方などを習得していきました。

そして大学入学後は、仏画を描く先生に出会い自身も手掛けるように。
現在は日本画家として活動する傍ら、年に1~2枚ほど干支の守り本尊などの仏画も制作しています。

日本画の世界に身を置いて40年近くになる川本さんですが、一時期、制作を中断していたことがあるそうです。
大学卒業後もしばらくは絵を描き続けていましたが、だんだんと「描きたいモチーフがない」と感じるようになっていったのです。

「描きたい」という思いはあるものの、それをどう表現していいかわからないもどかしさ。
当時の川本さんは人物画をメインに描いていましたが、「あの頃は仏画だけを描いていました」と振り返ります。

やがて4年ほど経った頃、地元でアートイベントが開催されることになりました。
当時から兵庫県日本画家連盟に所属していた川本さんは、その会員として色紙サイズの小さな作品を出品。
それ以降は同連盟の展覧会に参加するなどして、少しずつ日本画家としての活動を再開させていきます。

川本さんは、「絵を描いているときにこそ、自分の存在価値を感じることができるんです」と、どこか恥ずかしそうに教えてくれました。

 

 

自分の内側にあるものを表現する抽象画

 

 

 

 

やがて川本さんは、自身に子どもが生まれたことをきっかけに新しい作風につながる抽象画と出会うことになります。
当時は印刷会社で働きながら絵を描いていて、忙しい毎日の中「もっと子どもとの時間がほしい」と思うようになっていきました。
「できれば絵に関する仕事がしたいと調べていたら、臨床美術士という資格があることを知ったんです。もしかしたら仕事にできるかもしれないと思いました」

臨床美術士とは、美術を通して認知症の症状の緩和や予防、メンタルヘルスケアのほか、子どもたちの感性を育むことなどを行う専門家のことです。
臨床美術士が行うアートプログラムの中には抽象画も含まれていて、その日、その瞬間の気持ちを色や線で自由に表現していきます。
川本さんはプログラムを通して「たとえ描きたいモチーフがなくても、自分の中にあるものを表現すればいい」と感じ、自身の作品にも取り入れるようになりました。

抽象画に主軸を置くようになって改めて思うのは、「人物画を描いていた頃は、しんどかった」ということ。
「日本画を描く人は毎日のように花や動物のデッサンをして、そこから下絵を作っていきます。でも、それがどうしても自分には合わなかった。『描かなあかん』と思うほど、しんどくなっていたのかもしれません」

現在は抽象画の世界で、画面と向き合いながら自身の感覚を研ぎ澄まして絵を仕上げている川本さん。
「最初から完成図が浮かんだ状態で取り掛かることもあれば、空白の画面と向き合い、対話を重ねて完成に近づいていくこともあります。最初に色を置いたら、それを見て『今度は何色を置こう、どんな線を入れよう』と、次の一手を考えながら進めています」と、語ります。

 

 

作品に込められた可能性で、見る人に希望を

 

 

 

 

そんな川本さんに、特に印象に残っている作品を2つ教えていただきました。
一つは「春よ来い(雪どけ)」のⅠと、Ⅱ。
これは春の定番ソングとして人気の曲を聴きながら描き始めたもので、進めていくうちに白い色が雪のように見えてきたのだそう。
そして中央に置かれた鮮やかな色が雪解けを表し、春の訪れを告げる作品に仕上がりました。
2022年に完成したもので、「自分の中では、一番まとまった形にできたと思います」と語ります。

そして、現時点における集大成とも呼ぶべき大作は、30枚ものパネルを使って描かれた「KAZENOKONSEKI」です。
もとは36枚のパネルを用いて描いたもので、完成後に6枚を抜粋。抜き出した絵には改めて、「痕跡」と名付けました。
「最初から何枚か抜いて別の作品にしようという構想でスタートしていて、制作期間は3~4ヶ月ほど。それぞれ4枚組で正方形になり、中央には金箔を施した丸い木材を配置しました」

「KAZENOKONSEKI」はS50号という大きさで、まるで四季を駆け巡っていく風の姿を捉えているかのように見えます。
人によって全く異なる印象を与えるこの作品は、さまざまな経験を重ねてきた川本さんだからこそ描けたのかもしれません。

自身について「何をやっても中途半端な人間」と評する川本さんですが、これまでの経験を通して一つの確信とも呼ぶべき強い思いを得ていました。
それは、絵から離れては生きられないということ。
「やっぱり最終的に、自分に残るのはこれなんです」と言って笑う川本さんは、覚悟を決めた人にしか見出せない“自分自身への可能性”を感じているように見えました。
そして同時に、「作品を見てくれる人にも、可能性や希望を感じてくれたらうれしいです」と語ります。

見る者の心によって、いかようにも姿を変える川本さんの作品。
あなたの目には、どんな風に映っていますか?

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