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Interview: 柏木菜々子

動物、バイク、車・・・愛すべき者たちの肖像・群像を描く

-簡単に自己紹介をお願い致します。

1977年生まれ、千葉県出身、筑波大学芸術専門学群日本画コースを卒業しました。

ゆるりと生きる自由な動物たちに心惹かれます。「愛すべき者たちの肖像・群像」をテーマにずっと動物たちを描き続けてきました。
2015年、生まれ育った関東を離れて九州へ移住したのを機に廃墟のある風景をスケッチすることも多くなりました。
動物たちはどこに居ようともその者らしく在り続け、その生を全うします。そのとき居る場所になんら疑問を持つでもなく、楽園にいるかのように静かに日々を生きている。そのことに心強さを感じながら、その場所に佇む彼らの姿を描いています。
作家の目を通した風景とともに、愛すべき動物たちの世界を楽しんでいただけたら幸いです。

-絵を描き始めたきっかけはなんですか?

子供の頃からとにかく絵を描くのが好きでした。
両親がわりと固い考えだったし私自身勉強も嫌いではなかったので、「普通」の人生を送るはずだったのですが、結局他のことができない質だったのと支えてくださる人たちに恵まれてどうにか画家として描き続けられています。

高校時代に不登校になり、それまで選択肢になかった「美術」への道を目指したことで先に進めたこと。
大学卒業後に親の勧めで公務員となった結果軽いうつになり、たった一年半で辞職したこと。
思い返せば、絵から遠ざかると具合が悪くなるようで(笑)。
お陰さまで、描けている今は幸せでいられます。
ただそれは日本橋Art.jpさんや色々な画廊さん、観てくださる方、伝えてくださる方、作家さん、家族などなど、支えてくださるたくさんの存在あってのことなので本当にありがたいなあと思います。

-作品にはどのような想いを込めていますか?

対象の動物に対して、かわいい、愛おしいと思う気持ちです。
動物はどこに居ても動じずその生を全うしますが、そこに憧れのような気持ちがあります。現実にはいるはずのない場所に置くことで、そのことが引き立つように思います。
また、生きものと風化した建物という時間軸の違う要素が共存することで生まれる、独特の世界観を確立できればと思います。

-柏木さんの作品には動物が良く描かれています。実際に見に行っている動物ですか?それとも映像や写真から描いていますか?


どの動物も実際にスケッチしたものを元にしています。
写真も参考程度に撮って持ち帰るのですが、その場所に居る感覚や愛おしく思う気持ちはスケッチに強く残ります。

-描く動物はどのように選んでいるのでしょうか?

動物園や自然の多い所にスケッチブックを持って行き、ぐっとくる子をしばらく眺めてから描いています。おおらかだったり面白味があったり、生きていることに対して正直だったり、という要素に特に惹かれます。
一番印象に残っているのは小田原城址公園にいたウメ子というゾウです。器量が良く、夏は周囲の人たちに水をかける茶目っ気のあるゾウでした。

-描かれている場所は実在する場所ですか?

実在する場所です。実際に見ないと描けないほうなので。
世の中には想像を超えた場所がたくさんあるんだなあと感心します。最初に描いたのは、ツーリングでよく通る道沿いの熱海の廃ホテルですが、風化の様が美しく心に響くものがあったので、バイクを停めてスケッチしました。
その後夫の仕事の関係で福岡へ移住し、端島(軍艦島)や池島、犬島、大久野島などにある有名な廃墟や日常と隣り合わせに残っている炭鉱跡、あと悲しいことですが戦争に使われた軍事遺跡など、地方に多く残っている風化した建物を見に行っています。

-年間何枚程度作品を創作しますか?

だいたい大作を2〜5枚くらい、小品は30〜40枚くらいでしょうか。展覧会や公募展などの目標があることで、気持ちの入った作品を多く描けます。

子供が小学校に行っている間をなるべく制作時間に当てています。子供を産んですぐ描いていたので、寝かしつけてから深夜早朝に描く時期もありましたが、今は日中に制作時間を確保でき楽になりました。絵を描く以外は、家事や絵画教室講師などをしています。

-絵を描いていない時間(お休みの日など)は何をしていますか?

夫と娘との三人家族で過ごすことがほとんどです。福岡市の隣の糸島というところが自然豊かで、海や山に行ったりしています。
一人の時はふらっとバイクで走ってきたりします。

【バイクについて】バイク歴は画歴と同じく24年。今乗っているのはトライアンフのスピードトリプルという英国車で、17年ほど苦楽を共にしています。
「愛すべき者たちの肖像」として動物を描くのが制作のメインテーマですが、スピンオフとして所有したバイクや車の肖像も描いています。’彼ら’は機械でありながら血の通った生き物のように感じます。また、バイク部品を花に見立てた「テツノハナ・ヒノハナ」というシリーズの小品も作っています。


テツノハナ


ヒノハナ

-影響を受けた画家さんはいますか?

特定の誰かということはないのですが、観てきたもの全てから大なり小なり影響をもらっているのだろうなあと思います。
その中でぱっと思い浮かぶのは有元利夫、熊谷守一、竹内栖鳳、若冲、クリムトなどなど…うーん、不勉強で忘れっぽいこともあり体系立ってないですね。
あと画風についてあまり影響を受けるほうではないですが、描き続けている現役作家さんの制作への取り組みに頭の下がる思いがすることは多いです。作家同士の交流で制作意欲の維持ができている面もあると思います。

-画家として最もうれしかった時、最もつらかった時は?

良いと思える作品が描けた時。その動物の良さや他にない世界観が画面に出てくると描いていて楽しいですね。それを観る方と分かち合えた時や私にない視点をいただけるのもやはり嬉しいです。
つらいのは描けない時。単純に時間がなくて描けない時も、どうしても描く気力がわかない時も、苦しいです。そんな時は描けるようになった時のため作業(下地準備や資料まとめ)に徹します。

アトリエ風景

-絵を描くヒントを得るために何かしていることはありますか?

動物でも建物でもスケッチをすることが重要になってきます。
あとは自然が作り出す造形からインスピレーションをもらうことが多いので、行ったことのない場所に行ってみるとヒントになることがあります。休日に家族と釣りに行った時、久しぶりに見た夜明けの瞬間が言葉にならないほど美しく、世界ではこんな素晴らしいことが毎日のように起こっているんだ、と今更ながら感動しました。
とはいえ、自由な時間は制作に全てつぎ込みたい気持ちもあるので、制作と外出するのとせめぎ合いのところもあります。
インプットとアウトプットのバランスをもっと上手く取れるようになりたいと思っています。

-日本画以外で制作している作品はありますか?

銅版画(エッチング)を制作しています。

「彼の地へ(銅版画)」21.0×29.7cm 額付18000円

たまたま腕の良い版画工房の方と福岡で出会ったので、個展などに出品するため教わりながら版画を作っています。版に描いて彫るまでを私が行い、腐食と摺りは彼女にお願いしています。
全てを自分で完結させる日本画とまた違い、プロの銅版画プリンターの力や偶然性などの要素が加わる版画は思いがけないプラスアルファがあります。工房は人里離れた自然豊かな環境にあり気分転換にもなるので、日本画制作にも良い影響があります。

-今までの作品で最も「自分らしい!」と思う作品はありましたか?

「ハコブネ」M100号

動物と廃墟、という最近のモチーフのもので完成度の高い作品なので。九州移住の後、長崎の端島を描き、佐賀の老舗温泉旅館のコンペで受賞し床の間に一年間飾らせていただいた作品でもあります。そのことがきっかけで福岡の企画画廊さんに声をかけていただいたり、今福岡で制作を続けていられる原点とも言える作品です。
描いた動物たちの表情も穏やかでありながら目指すべき方向を向いている、そんな自分の気持ちも乗せられたかなあと思います。
動物いっぱいの「方舟」と、色々な想いを「運ぶ」とをかけたタイトルも気に入っています。

-これからどんなことに挑戦していきたいですか?

今まで積み重ねてきたことをベースにさらに掘り下げて自分の世界を作り上げていきたいと思っています。新しいことに挑戦というよりは、やり続けていった先に自ずと見えてくる景色があるのでそこを目指して描き続けたいです。もちろんそのために今まで描いたことのないものを描くこと、人生で色々な経験を積むことも活きてくるでしょうから、歳を重ねるのを楽しみたいです。

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柏木菜々子

<個展>
2016年 アートプロガラ/福岡(’19)
2017年   おくら北鎌倉/神奈川
2018年 かわべ美術/東京
2019年 Hideharu Fukasaku Gallery Roppongi/東京
2020年 ギャラリーコンティーナ美しが丘/神奈川

<公募展>
2005年 臥龍桜日本画大賞展入選(’06、’09)
2010年 創画展入選
2012年 Next Art展推薦(’13)
2013年 ART BOX大賞展受賞記念展(準グランプリ)
2015年 福岡市美術展入選
古湯温泉ONCRI床の間アートコンペ 優秀賞
美術新人賞「デビュー2015」入選
2016年 Seed山種美術館日本画アワード入選  など

その他グループ展など

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