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岩澤武司個展 【 瞳景 – 自画像の系譜 】

自己と世界を見つめる 異形の「自画像」 小吹隆文・美術ライター

岩澤武司は1959年生まれの美術家だ。彼は2011年から「瞳景」と題したシリーズ作品を発表している。それらは本人曰く「自画像」だが、一般的な自画像とは似ても似つかぬ姿をしている。この特異な作品がどのようなものか、紐解いてみた。作品は極端な横長サイズで、その横幅いっぱいに円弧状に湾曲したイメージ(流木、草木、捕らえられたカミキリムシ、鳥が飛ぶ空、平等院鳳凰堂など)がモノトーンの油彩で描かれている。また画面中央には黒い円があり、作品によっては円の周囲に有機的な線群が描かれることもある。これらは一体何なのか。本人に質問したところ、意外な答えが返ってきた。「自分の瞳とそこに映った情景を描いている」と。黒い円は瞳孔であった。通常、自画像は作家が自らの顔や上半身、全身を描くが、岩澤は対象を自分の瞳に絞っているのだ。瞳の虹彩は指紋と同様に一人一人パターンが異なる。つまりその人固有のものである。ただ虹彩には模様以上の表情はなく、単に瞳を描いただけでは芸術的深みに欠けるだろう。しかし、その瞳に映る情景が描かれていることで、作品の意味合いは大きく変わってくる。まず、作家が見た私的情景であること。そこには作家自身の存在、価値観、主体性が反映されている。次に、選ばれたモチーフから作家のプライベートや死生観が窺えること。例えば、捕らえられたカミキリムシは生命と死を連想させ、平等院鳳凰堂は浄土のメタファーである。また、虹彩が個人に固有のものであり、一生涯変わらないのに対し、情景は千変万化して同じ姿をとどめることがない。さらに、瞳に映った情景はその瞬間の音や匂いなどと共にデータとして脳内に蓄積されるが、自分が死ねば全て失われてしまう。ちなみに特徴的な作品のサイズは、岩澤が亡くなった際に入る棺の底面の比率に依拠している。つまり「瞳景」は、自己と世界、永遠と刹那、生と死など、諸々の対比関係を孕んだ「重層的な自画像」であり、従来の自画像表現に一石を投じる試みなのだ。そこから濃密に伝わってくるのは、自己の深淵を見つめる透徹した眼差し、プライベートの記憶、生と死にまつわる日本人的感性=無常観である。岩澤は1980年から90年代にかけてインスタレーション作品を発表していたが、2000年代に入ると新たな方向性を求めて発表を中断した。やがて自画像という主題に至り、自分の瞳をカメラで接写してみたところ、瞳に自分が見ているものが映り込んでいることを発見し、独自の自画像表現へと歩を進めた。当初は写真作品で、2012年に版画部門で京展賞を、2014年には平等院表参道美術作品公募展優秀賞を受賞している。2022年から満を持して絵画へと移行。本展は昨年に続く二度目の絵画展である。

▼Information
開催期間:2023年09月17日(日)〜 2023年09月29日(金)
開催時間:12:00~18:00
※最終日9/29(金)は16:00まで
観覧料:無料
場所:CASO Lonuge(〒552-0022 大阪府大阪市港区海岸通2丁目7−23)

会場
CASO Lonuge
会期
2023.09.17 ~ 2023.09.29
時間
12:00~18:00※最終日9/29(金)は16:00まで
住所
〒552-0022 大阪府大阪市港区海岸通2丁目7−23

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