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Interview: 井上真紗子

深い青のにじみと泡の奥にみえるもの。余白の世界にいざなわれる。

井上さんの作品は、幻想的な深い青の夢の中に迷い込んでいるかのような感覚になる。癒やされ、ときには元気をもらえる。なぜこんなにも”深い青のにじみと泡の世界”に惹かれるのだろう。
 
 

“ 幼いころ観たアニメの影響から、心を動かすアートを意識 „

 
 


 
 
ー画家をこころざす前の幼い頃は、魔法使いになりたかったと話す井上さん。幼い頃に観たアニメ『ミンキーモモ』や『魔女の宅急便』の影響を受けたそう。
 
 
物心がつく頃からペンを持たせたらシーツに絵を描いていたような子供でした。その頃から魔法少女系のアニメが大好きで、毎年魔法少女のステッキを買ってもらってました。特に『ミンキーモモ』が好きだったんですけど、おもちゃ屋さんに売っている魔法グッズの中にどれか1つ本物の魔法のステッキがあるんじゃないかと思っていました。毎年お誕生日に魔法少女のステッキを買ってもらっていました。
 
でも、小学校に上がったあるとき『ウルトラマン』の撮影秘話を観ていて魔法がないことに気がついたんです。ウルトラマンにワイヤーが付いて走っている姿をみてしまって、魔法はないんだと気がつきました。
 
現実を突きつけられたあとに小学校で『魔女の宅急便』を観たんです。衝撃を受けました。うまく魔法が使えない主人公の魔女キキを勇気づける、画家のウルスラという女性が出てきます。ウルスラは魔法を使うのではなくシンプルに”人の心を”助けている姿に感動しました。そのときにアニメやアートは人の心を動かし、元気にさせる力があるものだと思い知らされました。
 
絵を描くことも好きだったので、心を動かす画家になりたいと思うようになりました。なんとなく画家で生活するのは難しいとわかっていたので、その頃は漫画家や絵本作家になりたくて描き続けていました。
 
漫画家は無理でも絵を描く仕事につきたいと思い、美大へ進みました。美大では油絵を専攻していましたが、作風から水彩画があっていると先生の見立てや周囲の水彩画への評価が高かったことから水彩画もはじめました。
卒業後に水彩画の作品として額縁屋のHPに紹介されたのがきっかけで、本格的に描くようになりました。
 
 
 

“ 想像の余白を残し、観る人の心を動かす „

 
 


 
 
ー初期の頃に描いた代表作『milky way』は明確に描きたいイメージがあったものだそう。井上さんの特徴である、深い青をいくつも重ねた幻想的な天の川が表現されている。
 
 
『milky way』は好きな色合いと、好きなモチーフを詰めこんでいて、​​自分が観てて嬉しくなったり、心が動いたりするようなものを描きたいと思ったのがきっかけでした。宇宙と青が好きなので描き始め、描いているうちに何か想像させるものが欲しいなと思い女の子を描きました。
 
女の子は自分の子供っぽい部分の象徴でもあります。女の子は銀河の流れを川に見立てて、そこで水遊びをしているんですけど、足だけしか描いていないです。理由は女の子の顔を観る人に想像してもらいたいからです。色合いもポーズも気に入っています。
 
宇宙のように、人にはどうしてもたどり着けない場所があるのって面白いと思うんです。宇宙は自由な感じがして、大きな存在で自分を包み込んでくれる感じがします。​​星の中に1つ1つに何かしらの物語があると空想すると、すごく面白い。
 
 
ー作品を通して観る人のストーリーを感じてほしい。
 
 
わかりやすい動物のモチーフはあまり描きません。
​​はっきりと描かないことで、その奥に何があるのかわからない曖昧な感じが好きですし表現したいです。代表作に限らず、想像させる”余白”の部分をどんな作品にも残したいとの思いを込めて描いています。
 
 
ー観る人を魅了し、動かしたい。
 
 
美しいものや非日常の一瞬を切り取っていきたいという思いがあります。虹がかかった瞬間や流れ星など残すのが難しいものを形にしていきたいです。作品を観て共感したり、元気になってくれたりすると嬉しいですね。気持ちがすぐに上がるものじゃなくて、じんわりと心に響くものを感じてほしいです。
 
深い青と余白を持たせた作品の中に、観る人自身のストーリーを楽しんでもらいたいです。
 
 
 

“ アートを生み出し、アートに救われた „

 
 


 
 
ーアートがなかったら生きていけないと語る井上さん。アートを生み出す一方で、何度もアートに救われたそう。
 
 
納得のいくにじみや色合いにならないときには、1から描き直すこともあります。布や指を使って理想のにじみを作ります。指の方が感覚や時間が掴めやすいので、指を使っちゃうこともありますね。乾ききらないところで、塩を撒いてにじませる技法は幻想的に表現できるのでよく使います。
 
制作が行き詰まったときには、趣味のクラシックバレエや美術館巡り、登山などをして癒やされたりインスピレーションを得たりしています。特に長野県の上高地が好きで、周辺の山や川、自然の中にある青に触れているとインスピレーションが湧いてきます。
また、異文化に触れるのも発想力や刺激を受ける柱だと思っています。
 
 
ーアートに何度も救われた、アートとともに人生を歩んでいく。
 
 
アートがなかったら生きていけないんじゃないかなと思うぐらい大きなものです。小さい頃から絵を描くのが好きでしたし、絵を描いてコミュニケーションを取ることもありました。辛いことがあっても、絵があるから大丈夫、アートがあるから生きていこうって思ったことが何度もありますし、本当に救われました。
 
仕事で朝から夜中まで1日中描いていることもありますし、自分自身を形成している大部分を占めるものなので生涯描いていきたいです。そのために健康でいたいと思っています。
 
いずれ絵本作家という形でなくとも”絵本”は出してみたいです。昔から絵も本も大好きなので、どちらも描ける絵本が憧れですね。大人にも楽しんで頂ける絵本や画集を作る目標があって、形にできるように少しずつ構想を練っていきたいです。
 
海外の展示会や海外向けの雑誌に出させてもらっているので”じんわりと心に響く仲間”が増えるといいなと思います。​​

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