Interview注目の作家

アクリル画
山﨑裕二
大切な人のお別れと門出に、共通の話題であった「ポケモン」のイラストを贈った。 作品を制作する入り口は、感謝の気持ちだったという。そうして広報誌への掲載の話をもらい、絵を学び、デッサンやさまざまな技法を通してアクリル画へと辿り着いた。 始まりから技法の選び方、モチーフとなるテーマへのリスペクトまで、山﨑裕二さんの心遣いがどこまでも染み渡っている。当記事では、インタビューで受け取ったそんな山﨑裕二さんのお人柄の魅力をお届けしたい。
アートとの出会いを教えてください

小さい頃から絵を描くことは好きだったのですが、絵を習っていたわけではないんです。水泳やそろばん、学習塾、書道など、週に5日ほど習い事が埋まっていて勉強中心だったため、子ども時代からずっと絵を続けてきたわけではありませんでした。

 本格的に筆を執るようになったきっかけは、10年ほど前になります。

当時通っていた施設の担当スタッフさんが退職されることになった際、お互いに「ポケモン」が好きだったこともあり、クリスマス会でお別れのメッセージとポケモンのイラストを添えたカードを描いてプレゼントしたんです。 その後、新しく担当になってくださったスタッフさんがそのカードを見て、「広報誌にイラストを載せませんか?」と提案してくれました。

 

1年間ほど広報誌のために描き続けるうちに少しずつ上達し、「これなら本格的に絵を描いてみよう」と思い始めました。中学の美術の授業以外は完全に独学で、まずは鉛筆のデッサンからスタートし、2年目頃からは油絵などにも挑戦していきました。

なぜその技法を選んだのでしょうか

現在、主に使っている技法は「アクリル画」です。

 

アクリル絵の具を選んだ最大の理由は、自宅やグループホームなどの生活空間でも作業がしやすかったからです。 大人になってから本格的に絵を始めたこともあり、油絵だとどうしてもにおいが強く、親や周りの方に負担をかけたくないという気持ちがありました。自分のためだけに専用の作業部屋を用意してもらうわけにもいきませんから。

 また万が一部屋を汚してしまったときでも、アクリル絵の具であればすぐに洗って綺麗にできます。

 

多少手や周りが汚れることは覚悟の上ですが、「においなどで周りに迷惑をかけず、すぐに片付けられること」を前提に道具を選んでいった結果、僕にとって一番やりやすかったのがアクリル画でした。

アイデアはどのように生まれますか?

トラや鳥といった生き物、動物をモチーフにしたシリーズ作品を手掛けることが多いです。

僕の場合、アイデアはたくさんの構想をとことん考えて、見つめて、ずっと悩み続ける時間を作ったあとに、あえて頭を「休ませる」ことで生まれます。しっかり休ませている間に、自然と頭の中にアイデアが降りてくるんです。

 

 実はこれまで、一般的なアーティストの方たちのように「こういう画風で、こういうものを描く」という決まった1本の筋が自分にはないことに悩んでいた時期がありました。しかし描いていくうちに自分が本当に動物や生き物が好きだということに気づき、そこから自然や地球とのつながりをテーマにした、今のブレない軸へと繋がっていきました。

制作中、アイデアが行き詰まったときはどのようにして切り抜けますか?

とことん考える時間を作ったあとで、「これ以上は行き詰まったな」と感じたときは、思い切ってただ「休む時間」にしています。

自身の経験上、しっかり休んでさえいれば、あとは勝手にアイデアが降りてくると知っているので、無理にひねり出すようなことはしません。 以前読んだ『ひらめきの法則』といった本にも大体同じようなプロセスが書いてあって、自分のやり方は間違っていないんだなと納得しました。

 

行き詰まったからといって特別なことをするわけではなく、ひらめきが降りてくるまでの時間がいつもより少し長くなるだけで、基本的な制作のプロセスはいつも一緒ですね。

作業中のルーティンはありますか?

決まったルーティンや、「必ず音楽をかける」「決まった時間に描く」といったルールは特にないですね。

自身の体力的・精神的なバランスや、予定、体調を見ながら、都合が良い時や「今やろう」と思ったタイミングで集中して描くようにしています。

 

普段の制作では「今回どういう作品を作っていくか」という指針や、紙の上の配置、色合いなどの完成形が頭の中でしっかりするまでは書き始めません。

大抵の場合は、頭の中イメージができあがった状態で、初めてアクリル絵の具を用意して机に向かいます。

一つの作品を作り上げるのにどれくらい時間がかかるのか、また、月にどれくらいの作品を描きますか?

頭の中で完成形を作るまでの構想時間の方が圧倒的に長く、実際に机に向かって絵を描く時間はそこまで長くないです。

 

作品にもよりますが、「写実に書く予定がないとき」「複雑な配置や塗り込みがない場合」は、6号または8号サイズの作品だと2〜3時間ほどで一気に描き上げてしまいます。 短い時間で色が決められるのは、独学を始めた最初の頃に「鉛筆だけの白黒のデッサン」をとことんやった経験が大きいと思います。

白黒の濃淡だけで表現する練習を重ねたことで細かい色の見分けが得意になり、写実的に書く際も「この色を出すためには、あの色とこの色を足せばいい」というのが自然と見えてくるようになりました。 ちなみに、作品に入れているオリジナルサインにもちょっとしたこだわりがあります。

 

「山崎」の山と、裕二(YUJI)の「U」の伸ばす音を雪をかぶった山の稜線に見立て、「JI」の点々を丸にして太陽のマークのようにデザインしました。ぜひ作品を見るときは、そのサインも探してみてください。

他のアーティストの作品を観るときに注目してしまう点はありますか?またそれはどこですか?

小さい頃からの癖のようなものなのですが「作者の魂や想いがこもっているような作品」に強く惹かれます。エネルギーを持った作品はもちろんですが、なかには光の表現が美しい風景画などもあります。

見た瞬間に、作品自体が声をかけてきて「私はこういう作品ですよ」と語りかけてくるような、心を奪われる作品ばかりをずっと探してきた気がします。 だからこそ、綺麗で静かな落ち着いた作品よりも、強い刺激やエネルギーを持った作品を見ている方が好きですね。

 

以前、よく通う画材専門店で戦時中に描かれたという小さな作品を見かけたことがあるのですが、少し落書きのようなタッチでありながら、見た瞬間に圧倒的な力強さと、並々ならぬ高い価値を明確に感じ取ることができました。

今後の展望・目標を教えてください。

これからの大きなテーマとして考えているのが「アニミズム(自然や動物への崇敬)」の世界です。

 

僕は自然や動物たちに対して、特別な崇敬の念を持っています。

ずっと昔、アメリカで大地震が起きる直前に、地下からドブネズミが一斉に逃げ出したというエピソードを知り、強い衝撃を受けました。彼らは人間よりもずっと早く自然からの情報をキャッチしていて、言うなれば精霊や神々に近い存在から、何か特別なことを教えてもらっているのではないかと感じています。

そんな神秘的な力を持つ動物たちへの敬意と崇敬の念を作品に込め、これからも発信していきたいと思っています。

子どもの頃の純粋な絵への興味と、周囲の人々への温かな配慮をきっかけに始まった山崎さんのアーティストとしての歩み。

独学で培った確かな観察眼と色彩感覚、そして「アニミズム」という揺るぎないテーマへの気づきは、作品に独自の生命力と圧倒的なエネルギーを与えている。精霊や神々に近い存在として動物たちへの深い崇敬の念を込め、キャンバスから語りかけるような力強いメッセージを発信し続ける山崎さん。

 

今後の創作活動のさらなる広がりと、新たな作品たちとの出会いにも、より一層の大きな期待が高まる。

インタビュー: 2026/06/26