Interview: 山本眞紗子

予期せぬ墨のにじみ、かすれが作り出す、唯一無二の美しさ

 

“ 絵の技術を学ぶ過程で出合った水墨画の世界 „

にじみ、かすれ、濃淡、線の太さ--多彩な墨の色と筆遣いで描かれた、山本眞紗子さんの水墨画。
文字や具象絵画では表現できない世界があり、見る人の心に何かを引き起こす、不思議な魅力のある作品だ。
そうした作品はどのようにして生み出されるのか。水墨画との出合いや、作品のテーマ選び、技法について伺った。

 
 
「水墨画をやってみようと思ったのは、周りのクリエイターの方々に勧められたことがきっかけ。それまで水墨画をやってみようとは、考えもしなかったです。
デザイン専門学校に通っていた頃は絵本コースを専攻していて、イラストやデッサンなどを学んでいました。卒業後も絵の技術を身に付けたくて、カリカチュアやモードデッサンを学びました。私自身、デッサンが好きだったこともあって、今とは正反対の写実的な絵を描いていましたね。
当時は画家としてのキャリアを築いていくために、迷いながらいろんなジャンルの絵を勉強していました。」
 
 
様々なジャンルの絵の勉強を経て、周囲の声を機に水墨画の世界へと進んだ。
 
 
「ある時、いろんな職種のクリエイターが集まるイベントに参加して、水彩画を何人かに見てもらいました。そしたら、「水墨画が向いてるんじゃないか」と言われたんです。
全くやったことのないジャンルでしたし、最初は「水墨画かあ…」と思ったのですが…。
試しにやってみると、奥が深いんですね。いろんな技法もあって、描いていてワクワクすることが多かったです。それで画集を見て学んだり、自分で実験してみたり、ひたすら探求しながら描いていくうちにのめり込んでいきました。どなたか先生の下で教わりたいと思っていたのですが、弟子をとっていなかったり、タイミングが合わなかったりで叶いませんでした。そこで、本を見たり、他の画家が描いている様子を見たりして独学で学んでいきました。」
 
 
 

“ 描いてみないとわからないのが水墨画の魅力 „

山本さんの作品を見ていると、「墨色」といっても様々な色合いがあることがわかる。
 
 
「墨は8種類ほど使っていて、全部混ぜて磨っています。そこに濃い藍色や枯れ葉のような茶色など、墨色に近い顔彩を合わせています。にじみ具合でかすかに緑色が見えたり、青色が少し出てきたり、水加減や筆の運び、かすれなどの加減で見え方が変わってくるんです。きれいでおもしろいですよ。」
 
 
画仙紙や筆の種類によっても作品に変化が出るという。
 
 
「画仙紙も色々種類がありますが、今は厚めの紙を使っています。
水を多く含んで描くと、紙がたゆむんです。さらに紙の上の部分がめくれてぼこぼこして、独特のガサガサ感が出てきます。筆も、形や長さ、毛の種類など、筆によって含む水の量や、タッチ、線の跡の残り具合が変化します。今は20本ほど持っている筆の中から作品に合わせて使い分けています。」
 
 


 
 
「私が描く水墨画の最大の魅力は、描いてみるまで作品がどう完成するかがわからないこと。
事前にラフを描いたり、イラストや絵として描いたりした水墨画もあるんですが、それだとあまりおもしろくないなと感じたんです。ある程度自分のイメージ通りに描けているけど、自分の思いもよらなかった部分がある方が、おもしろい絵になる。そこが他の絵にはないところだなと思っています。」
 
 
山本さんの作品は「爪」や「お下げ髪」などシンプルな題材が多い。何を描き、何を削ぎ落とすのか、その選択に悩むことはないのだろうか。
 
 
「背景や心情も一緒に描いた方が、ストーリー性も生まれて情緒的になると思います。でもそうすると、「爪だけでもつまらなくない絵を描くこと」から逃げたような気がして、自分の中で許せなくて。
もちろん難しさはありますが、シンプルでもおもしろい絵を描くことから絶対に逃げずに、向き合うようにしています。」
 
 
 

“ 目指すのは、自分にも見る人にも魅力的な絵 „

「女」「受精」など性に関する題材や、子どもから大人になるまでの間の揺らいでいる期間のことなどを題材にした作品も多い。こうした題材はどのようにして決めているのだろうか。
 
 
「もともと好奇心旺盛で、いろんなメディアを見たり、実際に足を運んだりしています。
そうして日頃からいろんな情報に触れる中で、ピンときたものを題材として決めることがあります。
それから、日々生活する中で感じていた気持ちを表現することもありますね。例えば女性をテーマにした作品では、自分が学生や会社員の時に感じていた、女性の生きづらさを表現しました。
生きづらさといっても、一つ一つは些細なことです。でもそれが積み重なって、結構もやもやしてることが自分の中であって。もし、同じように自分の中で抱え込んでいる人がいたら、作品や説明を見て、少しでも共感してもらえたら嬉しいなと思って描きました。」
 
 


 
 
今後は、どんな作品を描いていきたいか尋ねた。
 
 
「これまではミニマルでシンプルな絵が多かったので、今後は抽象的だけどダイナミックな絵を描いてみたいと思っています。
他の方の写実的な作品を見たり、デッサンが好きな自分の性格も考えて、写実的な表現をやるか悩んだこともありました。でも、今のところは抽象画を続けていきたいですね。
イメージしているのは、陶器の模様のような美しさ。写実的ではないけれど、それだけで美しいと思えるような感覚に近いです。
形や色合い、色が出てる場所など、それらを全部含めて美しいと思えて、質感までわかるような作品を描いていきたいと思っています。
作品はすごくシンプルだけど印象に残ること、それからパッと見て山本眞紗子が描いた絵だなとわかってもらえること、そんな作品を目指しています。」

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