10代の頃から様々なアートに触れる中で、幻想画家の七戸優さんの画集は印象に残っています。やや暗鬱で不思議な魅力のある世界観なのですが、その影響もあり、私の初期の作品は暗めなものが多かったように思います。
その後、芸大で油絵と版画を、大学院では美術解剖学を専攻し、人体や自然の美について学びました。仏像についても学び、観音菩薩などの象徴的な存在や、アルフォンス・ミュシャの描く優美な女性像などに惹かれ、少女を描くようになりました。大人の女性ではなく少女を描いているのは、私が子どもらしい表情に癒やしを感じるからだと思います。わが子のふっくらとした頬や長いまつ毛に、ああ、かわいいなぁと心和らぐ瞬間があります。そういった幼い子どものもつ癒やしと、イコンのように見守る雅量を併せもった少女を、現代的な親しみやすいタッチで描いています。
Interview注目の作家
私の描く少女は、すべて空想上の存在です。現実の人物を観察した上で、デフォルメしながら描き出していきます。顔には時間を一番費やします。
自分はどんな顔貌や表情、光の当たり方などに惹かれるのかなと、色々試しながら描くのですが、ちょっとしたきっかけでなんか違うなと思ったり、かわいくなってきたと嬉しくなったり。その紙一重の調節をしている過程に、面白さや楽しさを感じています。ファンタジーの子を描くからこそ、まずは現実の人物をよく観察することが大切だと感じます。
初期の作品には、今ほどの存在感を持つ背景は描かれていませんでした。作品に奥行きを求められていることはわかっていたのですが、最初の頃は少女を描くことに手一杯で、背景にまであまり手が回りませんでした。でも、デッサンを通して光を意識し、色の変化をよく見ることで、総合的な画面の構成がわかってきて、少女だけでなく背景も含めて描けるようになりました。
もともと、やや渋めの柔らかい色彩の絵が好きでしたが、立体感や奥行きを描こうとすると、色の柔らかさが壊れてしまっていました。でも、光や影も、単に白と黒の絵の具で描こうとするとそうなりますが、よくモチーフを観察するうちに光や影の中にも色彩が見えてきて、それらが稜線を作りながら、なめらかにつながっているのが分かるようになってきました。
単にモチーフ、つまり物質そのものが美しいのでなく、光が当たって反射して、影の中も色彩豊かになっている、そんな空間、つまり現象が美しいと感じています。それを絵に表したくて、色味の繊細な変化を求めていくうちに、アキーラというアルキド樹脂絵の具に出会いました。
アキーラは、油絵の具とアクリル絵の具の良いところを合わせたような画材で、今の自分の制作スタイルに合っていました。絵の具に遅乾剤であるリターダーを混ぜて、色の乾燥を遅らせながら作り上げた色を幾重にも重ねて、形を描いていきます。密度のある色彩豊かなグラデーションを作ることで、絵の色彩を大切にしながら、立体感や奥行きを表現できるようになりました。
特に、2021年に発表した早春のアルテミスでは、月の光を主題にしながら、手前の花、少女とドレス、奥の空にかけての流れるような空間構成が、バランスよく描けたと思います。作品を観てくださったお客様からもご好評をいただきました。こうして求められていることに応じていき、喜んでもらえる作品が描けると嬉しいです。
光がどう当たるとどんな影ができるかは、自分でポーズを取ったり、ドールを参考にしたりもしますが、普段の生活の中でもよく観察しています。他にも、子どもと遊ぶ中で見つけるものや、土地柄、自然豊かな四季の景色が楽しめるので、次はどんなものを絵に取り入れようかなとアンテナを張りながら過ごしています。日常の中にもヒントが散りばめられていて、生活のすべてが作品作りとつながっているのかもしれません。光が作る美しさを少女のいる世界にそっと宿すように、一筆一筆、今日も描いていきたいです。
絵以外にも、何かに対して美しいなとか面白いなとか、ちょっとしたものに心を動かされることこそが、アートのもつ機能と同じ役割を果たしている訳です。そういった端緒になればいいなと願いながら、私は絵を描いています。好きなように描いていくだけでは、社会の中でアーティストとしての役割は十分ではありません。
私にとって絵を描くことは癒やしですが、描いていくことは自分だけの問題ではないと考えています。作品を楽しみに待ってくれている人、描く時間を与えてくれる人、絵を発表する場を設けてくれる人、そこにはたくさんの人の想いがあります。これまでも、その時々でご縁のあったたくさんの方のおかげで、10年と少しの間描き続けてこられました。ですから、自分の作品というのも自分一人で作っているのではなく、そういった関わりの中で育まれてきたものだと思うのです。
アートのある暮らしで周りの人たちと幸せに過ごせるように、自分の表現したいものと求められているものをうまくすり合わせながら、これからも続けていけたらいいです。関わる人たちの想いが優しい光となって、人に幸せをもたらす連鎖、それが私にとってのアートです。
幻想の少女に宿るやさしい光は、外田千賀が積み重ねてきた観察と探究、そして日常への誠実なまなざしから生まれている。現実を見つめ、光と色彩の現象を丁寧にすくい上げながら、見る人の心に寄り添う世界を描き続けてきた。その表現は、個人の癒やしを超えて人々の想いと結びつき、静かな幸福の連鎖を生み出している。これから彼女の少女たちがどんな光景を見せてくれるのか、今後のさらなる活躍に期待したい。