私の場合、漫画やアニメからの影響が大きいです。中学2年生のころから好きな漫画やアニメの模写をしたり、友人と互いの描いた絵を交換しあったりしていました。美術部にも在籍していたのですが、自分の描きたいものは風景画や西洋画ではなくて、部の中ではなんとなく浮いているなと感じていました。そのころは、本当に寝ないでずっと描いているような生活でした。昔からまっさらなノートに延々と出口のない迷路を描いていたくらい、線を引くことそのものが好きだったんだと思います。
Interview注目の作家
初めて展示会に出展したのが2016年のことです。X(当時はTwitter)で作家としてのアカウントを持っているのですが、展示会に参加しないかというお誘いのDMをいただきました。それまで、コミックアートの催事に参加したことはありましたが、いわゆる展示会での展示経験は無かったですし、それこそ私のようなコミックアートの作品でも出していいのかという不安はありました。しかし主催者の方に背中を押され、出展することに決めました。
思っていたよりもみんな私の作品を受け入れてくれるし、真剣に見てくれるんだな、という良い気付きが得られました。在廊して、初めてお客様と会話をするという経験もできました。あるお客様は私の作品と自分の当時の心境がとても重なったようで、作品の中に私が居たと言ってくださったんです。線が綺麗といった、絵画表現に対する感想はそれまでもよく頂いていたのですが、そのように作品を自分ごととして捉えるような言葉を頂いたのはそれが初めてでした。展示会ならではの経験として、今でも強く心に残っています。
花言葉をテーマにすることが多いです。私の親代わりになった祖母が花を育てるのが好きで、私が病床に伏していた時にも咲いた花の写真を送ってくれたりと、私にとって花は身近な存在です。
ただ、選ぶ花言葉は明るいものというよりも少し悲しかったり怖いものが多いかもしれません。私の人生の大きな出来事として、身内の死が続いて心を病んでしまった時期があります。だから自分自身の気持ちを選ぶ花言葉に重ねている部分は大きいと思います。無理に笑顔だったり、明るい絵を描くのはなんか違うなと。人の内面や底の部分を表出している方が、自分の作品っぽいなと感じています。
展示会で作品の中に私が居たと言っていただいた作品がまさにそうなのですが、「溺れたいわけじゃないんだ」というタイトルのものです。うつ病を患ったときに描きました。代表的な仏花である菊の花と、水の中で息をする女性によって、今は死に近いところにいるけれど、好きで病気になったわけじゃないという気持ちを表現しています。生と死のはざまでふわふわとしているような状態です。
原画サイズはA4ですが、5日かけてじっくり制作しました。やはり展示会のための作品でもあったので、画材にもこだわっています。背景の水色はコピックをエアブラシで吹きかけています。また、髪の毛はつけペンで描きました。普段コピックを使うことが多いですが、コピックの特性として若干色が薄く見えるところを、ハッキリとした黒にしたかったです。また、つけペンの筆致は触ったときにザラザラするので、そういった感触の部分を自分でも楽しみながら制作できればという思いもありました。
よく見てくれる方からも言っていただくことが多いですが、髪の毛の線のこまかさは特徴のひとつだと思います。線を引くことに没頭できるタイプなんです。子どもの頃、周りが塗り絵を買ってもらっている中、私はまっさらなノートを買ってもらって延々と出口のない迷路を描いていました。私にとっては、絵を描くよりも線を引くという表現の方がしっくりきます。一本一本の線に集中しながら描いていると、自分の気持ちや状態がそのまま線に表れてくるような感覚があって、それが作品の個性にもつながっているのかなと思っています。
自分が生きていく理由です。なぜ生きなければいけないのだろうと、死ぬことまで考えていた時期があります。それでも作品を見ていただき、様々な感想をいただいて、描いていていいんだ、と安心できます。作品にはどうしても自分が抱える闇の部分が表れますし、生と死が見え隠れする、それが私の作品です。見た人全員でなくても、たった一人の人に刺さればという気持ちで描き続けていられるのも、描くことが自分にとってなくてはならないものだからだと思っています。
私が親しくさせていただいている作家さんや個人的にファンで追いかけている作家さんをお招きして、何かテーマ性のある企画展をしたいです。モチベーション維持のために近々も小規模の個展を控えてはいますが、ほとんど新作で大規模な個展を夢見ています。
ただ、今は自分自身がもうちょっと描けるんじゃないかという感覚を持っていて、納得のいくレベルまで成長してから実現させたいと思っています。見た人全員でなくても、たった一人の人に刺さればという気持ちで時間をかけて丁寧に制作していきたいです。そのためにも、まずは今の自分にできる最善を尽くしながら、一枚一枚と向き合い続けていきたいと思っています。
生と死のはざまで揺れる感情を花言葉に重ね、繊細な線で描き続ける朔ナチ子氏。見た人全員でなくても、たった一人の人に刺さればという想いを胸に、時間をかけて丁寧に制作し続けている。納得のいくレベルまで成長してから大規模な個展を実現させたいと語る彼女の、これからの歩みに期待が高まる。