Interview注目の作家

アルコールインク
Megumi Matsukawa
偶然出会ったアルコールインクアート。無心になれる時間を求めて始めた創作活動は、やがて彼女の人生を大きく変えていく。自然物をモチーフに描かれる作品には、ありのままの自分を取り戻していく過程が映し出されている。感情や感覚をそのまま表現できる自由な画風で、見る人に癒しと前向きな気持ちを届ける彼女の創作の軌跡と想いに迫る。
アルコールインクアートを始めたきっかけは何ですか?

大失恋がきっかけでした。彼氏に振られて毎日泣いていた時期に、そんな私を心配した後輩が新しい趣味を始めてみませんか?とアルコールインクアートの初心者向けサイトを教えてくれました。後輩は、アルコールインクアートのニュアンスが私の好きなネイルデザインと似ていたから勧めてくれたみたいです。
とりあえず道具を一式買い込んで、始めてみることにしました。とにかく無心になれる時間が欲しくて、失恋の痛みから少しでも逃れたくて、何か夢中になれるものが必要でした。それがアルコールインクアートとの出会になります。

「花束 <bouquet>」 作:Megumi Matsukawa
アルコールインクアートのどんなところに魅力を感じましたか?

仕事が終わって家に帰ると、寝る時間までずっと描いていました。紙にインクの滴を落とすと色が広がって、その上から風を乗せると色の広がり方が変わっていきます。そんな色の流れや動きに面白さを感じました。
アルコールインクアートは、学校の美術の授業で学ぶような対象の物体を正確に表現するという描き方ではなくて、言語化できないような感情や感覚をそのまま表現できます。だから、自分を肯定できる感覚がありました。正解も不正解もない世界で、ありのままの自分を表現できることが何より心地良かったのだと思います。

「花高原」 作:Megumi Matsukawa
初めての個展や東京での大作「花高原」について聞かせてください。

絵を友人に見せたりSNSに投稿したりしているうちに、展示の機会をいただけるようになりました。たくさんの人からチャンスをいただいて、私のことを応援してくれる人、絵を見て喜んでくれる人、そんな人たちとのつながりが本当にありがたくて幸せを感じています。
そんな幸せな気持ちを絵で表現して、その気持ちが他の人にも伝わっていけばいいなと思い、初めての個展のタイトルを「廻」にしました。そこで改めて人に絵を見せるということを意識して作品を描きました。

その後、画家として本格的に活動を始めてすぐに決まった東京の個展では、ギャラリーの壁一面を飾る縦1.3m、横2.7mの大きな作品を描くことになりました。急に決まった個展だったので、残された時間は二週間。そこから紙を用意するまでに四日間。十日間で作品を完成させなければなりませんでした。でもすごくワクワクしていて、「やるぞー!」と燃えていました(笑)
当時はちょうど新型コロナウイルスが流行し始めた頃だったので、ちょっとでも気持ちが明るくなるように元気なカラーで、東京のオアシスになるようなお花の高原を描くことにしました。絵を見てくれた人が前向きになれたり、癒しを感じてくれたりしたらいいなと思って書きました。

1Kの部屋で大きな紙を広げて、がむしゃらに描きました。遠くからバランスを見ながら描くことができず、さらに急いで仕上げた作品だったのであまり自信がありませんでした。でも結果的にこの「花高原」という作品はたくさんの方から反響をいただき、とても思い入れのある作品になりました。

なぜ自然物を題材にすることが多いのですか?

絵を描いている中で、自然物に意識が向くことに気が付きました。きっと、田舎育ちということも関係あるのかもしれません。自然からエネルギーをもらって生きてきて、実は自分の中での重要度が高いものになっていたみたいです。自然物を描いていると、ほっとするので私は、基本的に自然物を題材にしています。
私の絵は「個展のたびに画風が変わるね」と言われますが、それは自然物を描いているからなのかなと思います。アルコールインクアートに出会うまで、社会の中で自分のキャラクター設定が生まれたり、心と乖離した判断をしてしまったりすることが多くて。でも、アルコールインクアートで自然物を描くことでありのままの自分に戻ってきていて、それが絵にも表れてきているのかもしれません。本能のままに、好きなように生きられる自由を感じています。

 

「Mood collection」 作:Megumi Matsukawa
今後の活動について、どのような展望をお持ちですか?

これからも自然物を描きながら、自分の殻を破っていきたいです。自然物を通してありのままの自分を表現し続けることで、もっと自由に、もっと深く自分自身と向き合っていけると思っています。そして他の題材として、日本文化にも挑戦したいと考えています。日本で生まれ育った私だからこそ表現できる日本の美しさや精神性を、アルコールインクアートという現代的な手法で描いてみたいです。

日本文化の独自性は、日本にとってかなりの戦力になると思っています。伝統的な美意識や繊細な感性、四季折々の自然観。そういった日本ならではの魅力を、アートというジャンルから世界に広げていけたらいいなと思っています。言葉の壁を超えて、自然物と日本文化、この二つの題材を軸に活動を続けていきたいと考えています。

自然物と日本文化という二つの軸を持ち、個展のたびに画風を進化させながら新たな表現に挑戦し続ける彼女。アルコールインクアートを通じて自分の殻を破り、本能のままに自由な創作活動を続ける姿は、多くの人々に勇気と癒しを与えている。日本文化の魅力をアートというジャンルから世界へ広げていくという壮大な目標に向かって歩む彼女の、これからの活躍に大きな期待が寄せられる。

インタビュー: 2025/12/15