祖父は画家、両親も美術を仕事にしており、家は絵画教室という、幼少期から絵を描く環境で育ちました。大学進学を機に女子美術大学に進学し、大学院ではプロを志して絵画の専門性を磨きました。
その後、中学校の美術講師や絵画教室の講師を務めながら二児を育て、現在は聖職者である配偶者を支えつつ、自分と向き合いながら作品制作をし、聖歌を歌うことや、埋葬式で命と向き合う事など、家業である教会の様々な仕事にも携わっています。
Interview作家インタビュー
美術大学に通っていた頃は、油絵や人物像、抽象画と具象画の入り混じったような絵など幅広く描いていました。現在は抽象画をメインに他の表現技法も模索しています。自分の得意な領域はまだ正確には定まっていなくて、描きながら気づき、見つけていくものかなと思っています。これには答えもなく、誰かに強制されるものでもないので、自分の本能と生活の中での気づきをもとに、自由に模索し続けていきたいです。現在は抽象画を描きたいという気持ちがあるので、それを尊重しています。
また、普段の生活の中で、誰かと話したり、家族と接したり、散歩をしたりする中で、絵のアイデアが浮かんでくることが多いです。そこから様々な思いや言葉が浮かび、イメージを膨らませながら描いています。
幼少期に描いた絵を見ると母親のコメントがついているので、それを見て当時のことを思い出すこともあります。女の子には自由に絵を描きたい時期があると思うのですが、身内が絵のプロだったが故に規制されている部分も多くありました。もっときちんと描かないと駄目だよといった感じです。
実はこのいちいち言われるのが少し嫌だった時期もありました。落書きのように自由に描く、そういった楽しく描くことは成長過程の中でとても必要なことかもしれないと、今になって気づきました。そして、この想いが反動になったのか、大人になった今、抽象画を描くことにつながったのかなとも思っています。
美術制作は、見る人が絵を通じて想像する機会を与えるものだと思っているので、作品は見る人のものだという視点にこだわっています。見る人がAだと思えばA、Bだと思えばBなのです。見る人の自由な発想ができる余白やそのチャンスを与えるのが、画家の役割かなと思っています。抽象画などは実体が見えないものなので、そういった見えない、どこからかくるものをキャッチし、自分という媒体を通してそれを提示する。これが文化やアーティストなどの芸術家だと思いますので、このスタイルを大切にしています。
こうした考え方に影響を与えてくれたのが、昔から好きな画家であるアメリカのアンドリュー・ワイエスです。具象画を描いている画家ですが、本人は抽象画だと主張しており、その高い技術力の上に成り立つものの見方が抽象的である姿に惹かれました。感覚だけで描いた絵はあまり評価できず、アカデミックな基礎の上に成り立っている画家に敬意を払っています。美術は基礎をきちんと習得し、その基礎がしっかりしている上でのくずしやオリジナル性が大切だと思います。
今までに一番力を入れた作品は、大学4年生の卒業制作時や大学院の時です。環境が整っていて技術面は確かなものでした。ただ今振り返ると、人生経験が浅く中身が薄いなとも感じます。一方、現在はSM型サイズの作品をほぼ毎日描いています。どれもその時にしか描けない、自分の記録のようなものなので、1つひとつの作品が自分らしい、その時の自分を表現していると思います。絵と言うよりも心の投影といった感覚です。
コンクールへの出展や、良い賞を取ることにそこまで嬉しさや喜びを感じません。そういうのはどうしても審査員の目を意識してしまい、自分の中では納得がいかないのです。自分が自然に描いた絵を通じて、本当に少人数の方でもいつも見てくれている人がいること、これが最高の喜びです。展覧会に来ていただいたり、絵を公開しているInstagramにメッセージをいただいたりと、今の状況はすごく嬉しく幸せです。
今年の8月には香港での出展を予定しており、将来的にはヨーロッパへの出展も模索し、海外市場にも目を向けています。現在、無理なく画業を続けられていると思っているので、自分の絵を必要としてくれる人に届くこの状況を長く続けていけたらと思っています。だから、何か貪欲にこれをこうしたい、ああしたいという気持ちは正直ありません。
健康に気をつけて、この日常がいつまでも続き、長く一生をかけて自分らしい絵を描き続けられる、それが一番ありたい姿です。あとは、現在子どもたちに絵を教えているのがとても楽しいので、いずれ大学のような専門的な機関で教えられたらなと思っています。
コンクールの賞よりも、自分の絵を必要としてくれる人に届くことが最高の喜びだと語る桝田若代氏。香港での出展を皮切りにヨーロッパへの展開も模索しながら、健康に気をつけてこの日常がいつまでも続き、長く一生をかけて自分らしい絵を描き続けられることが一番ありたい姿だと語る彼女の、これからの歩みに期待が高まる。