Koichi Terai

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ミクストメディア

AIやデジタルアートが隆盛を極める現代において、厚手の和紙、洋紙を主な支持体としここ数年では氣をテーマに墨と黒の絵の具を使った作品の他、透明なアクリル板の表と裏の両面から描いた全く新しい表現の作品を制作している画家、寺井浩一。彼の作品は、観る者の心の奥深くへと静かに染み渡り、忘れかけていた内なる感覚を呼び覚ますような、不思議な力に満ちている。1952年、豊かな自然に抱かれた北海道に生を受けた彼は、日本最高峰の芸術教育機関である東京藝術大学で油画を専攻。当初は西欧の古典絵画に関心を寄せ、伝統的な油彩の技術を深く学んだ。しかし、そのアカデミックな道程は、やがて彼を独自の抽象表現へと導いていく。その転換の根底にあったのは、「人間が本来持っている感情や感覚を大切にした作品制作を目指したい」という、作家としての純粋で強い欲求であった。 寺井が主題とするのは、大地、大気、樹木、水、光、音といった、私たちを取り巻く自然界の様々な事象だ。しかし彼の目的は、目に見える風景を単に写し取ることではない。自身が対象から受けた新鮮な驚きや感動、あるいは畏敬の念を、より純粋な形へと昇華させ、観る者の心の琴線に直接触れようと試みる。それは、描かれたものに生命を宿らせようとする、真摯な祈りにも似た行為といえるだろう。その表現方法はひとつの型に留まらない。例えば、代表作の一つである≪Waterfall(瀧)≫では、岩肌の質感と激しく流れ落ちる水の表情を際立たせるために、布を何層にも張り込むコラージュ技法を用いる。一方で≪水の精≫では、独特の肌合いを持つ和紙の可能性を追求し、雪や氷、清冽な湧水が織りなす張り詰めた世界を創出した。慣れや惰性を嫌い、常に主題と真摯に向き合うことで、最もふさわしい表現を探求し続ける。その確かな技術に裏打ちされた探求心こそが、彼の芸術を常に新鮮なものにしているのだ。彼の作品には、デジタルでは再現し得ない、物質的な絵具や和紙、布が持つ独特のあたたかみや、時に冷静ささえ感じさせる静謐な感情が宿っている。 情報が溢れる喧騒の時代だからこそ、寺井浩一が描く深く静かな世界は、私たちに自身と向き合うための穏やかな時間を与えてくれる。今後も彼は、私たちに新たなヴィジョンを見せ続けてくれるに違いない。

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