WORKS作品
INTERVIEWインタビュー
独自の線質と、余白の響きを追求しつづける。
驚きだらけの「墨象」との出会い
「もともと幼稚園の頃からお習字教室に通っていました。ずっとお稽古をしていましたが10代の時に書道教室を離れてしまったんです。けれど社会人になったときに自分の文字の乱れが気になり、もう一度本格的に習いたいと思い書道教室に再び通いました。そこで出会った先生が墨象の先生だった、というのが私と墨象の世界との出会いです。」
小さな頃よりみっちりお習字をされていたという井上空咲さん。きっと「文字の乱れ」とおっしゃられるものも一般の私たちが思うよりずっと美しい文字であったはずである。しかし、きっと内なる書道が好きだという思いもあり、文字を書くことへの情熱が再び書道教室の門へと井上空咲さんを導いたのではないだろうか。
漢字・かな書道のような伝統書に対する前衛書「墨象」について、自身が墨象作家である井上空咲さんはこのように説明をしてくれた。
「前衛書や墨象と呼ばれるジャンルは戦後に生まれました。主に文字性表現と非文字性表現に分かれます。本来の文字を残しつつデフォルメをして自分を表現していくのが文字性表現で、文字から大きく離れて心象するのが非文字性表現です。私はどちらかだけを行うのではなく文字性表現と非文字性表現どちらもをその時々によって描き分けます。
決まった文字をお手本の通りに書く書道しかしてこなかった私にとって、墨象の世界はあまりに驚きでした。文字を崩す?均等に書かない?もう訳がわからない気持ちでした。驚きつつも、本来の文字の形にプラスアルファをして自分の表現をしていく面白さを知っていきました。さまざまな墨象作品を鑑賞していくうちに"そういう風に自由にしていいんだな""ここまでやっていいんだな"と墨象の世界に魅せられていきました。ぜひ墨象の世界に初めて出会った人にも、そんなふうに思って楽しんでもらえたら嬉しいです。」
文字そのものの力に表現を乗せて。
「文字性表現と非文字性表現はその時の気分で、その時に表現したい方を選びます。どちらかを定めるわけではなく、文字そのものが持っている力を表現することを大切にしています。
文字そのものに意味があります。漢字の意味、そのものにも意味があるのです。漢字はフォルムが出来上がっていますが、その決まったフォルムの力を借りながらプラスアルファを積み重ねていきます。漢字の持つ意味に自分の表現をプラスしたり、漢字のフォルムにインスピレーションをプラスしたりします。漢字の骨組みに乗せていくことによって強いものが出来上がると思っています。 今回は何を書くか、どの文字を選んで表現するのか、そうした作品の着想にについては日々頭の中を巡らせています。そうした抽象的なイメージを持って紙の前に対峙すると湧き上がってくるものがあるので、それを思い切りよく表現していくんです。」
「気をつけているのは"井上空咲らしい線を書く"ことと"余白の響きを大切にする"ということです。墨象の世界では作品に色を使う人と使わない人がいます。私はその時の気分で色を使ったり使わなかったりします。筆のみを使って表現をする人が多いですが、私はその時に表現したいものをいとわず使うようにしています。段ボールをちぎって使ってみたり木の枝を使って制作することもありますよ。
でもどのような用具・道具を使っても"塗る"ということはせず、"線を引く"ということにこだわっています。ひとたび筆をおろしたら、わずか数分数秒で書き上げる。書き直しがきかない緊張から生まれる線の芸術。それが"書"であると考えているためです。」
墨象を知ってほしい。鑑賞者の思いのままに見てほしい。
「作品制作の際は、その瞬間の思いを筆にのせて表現はしていますが、展示した時、作品が鑑賞者のものとなってその方の世界へ独り歩きしていくときが幸せです。自分の思いよりも、作品を通してさまざまな感情を鑑賞者の中に呼び起こすことができればと願っています。作品には、圧倒的な迫力で寄せ付けないものと、逆にその中へ引き込むものがあります。私の作品は後者でありたいですね。
心地よくいつまでも見つめていたくなる。そんな作品を制作し続けたいと思います。」
自身のその時の気持ちをそのままに表現すると言う井上空咲さん。余白余韻を大切にしたいと言う井上空咲さんの思いと、ゆっくり浸ってもらえるような作品を作りたいという願いはとても相性が良いような気がした。
「墨象はアート書ということもあります。中でも非文字性表現の作品で面白い点は、日本人のお客さんに見ていただいたときには"これはなんて書いてあるんですか""文字じゃないならどう見ていいかわからない......"と言われることもある一方で海外の方の方が自由に見てくださる傾向があるところでしょうか。ぜひもっといろんな方に墨象を知っていただいて、自由に好きに見てもらいたいと思っています。何が書いてあるんだろうと考えるのではなくて、"きれいだな""形が面白いな"とか、"なんだか嫌な感じがするな"でも、ご自分の思った通りに、好きなように見てほしいです。あまり難しく考えずに感じるままに鑑賞していただいて、墨象の作品をたのしんでいただけたら嬉しいと思います。」
EXHIBITIONS展覧会情報
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