Interview注目の作家

福島義将
リアルで優雅な幻想世界。近世ヨーロッパの空気を纏う
幻なのか、現実なのか。まるで夢の中にいるような不思議な気分になる絵。
古典小説を読んだときのように、福島さんの作品からは耽美的な香りが漂ってくる。 「学生時代、イギリスに1年間語学留学して、イギリスという国の雰囲気に魅了されました。 もともと服飾が好きで、ロココ、ビクトリアなど西洋のオールドクラッシックの服に興味を持っていたんです。 ロココは実は日本でも馴染み深い。明治時代にはロココ調の服を身にまとうのが流行った時期があり、昔から日本人に好まれていたんですよ。 自分がロココをテーマにしたのは、日本でもまたロココやビクトリアンファッションを広く知ってもらいたいという気持ちもありました。」 古風で優雅なロココテイストに、シュールレアリスムが組み合わさった幻想的な世界観。 一見、相反するような二つの要素を取り込んだのはなぜだろう。 「描いているのは超現実主義(シュールレアリスム)の世界です。 谷崎潤一郎やポーの小説などのシュールで幻想的な世界観がもともと好きで。 シュールレアリスムはリアルな表現でありながら現実にはない世界。 ロココ美術も、短い期間でしたがその時代には確かに存在したけれど、「今」という現実の中には存在しません。 そんな「ロココの儚さ」と「シュールレアリスムの世界観」が自分の中ではとてもマッチしているんです。」
リアルで幻想的な世界を表現するために「テンペラ混合」という古典的な技法で描く。
「ロココ、ビクトリア的な昔の物をリスペクトする意味での選択です。 たまたま銅版画を習った経験が大きく影響していると思います。 銅版画は細かいニードルで描いていくのですが、それに色付けする方法として古典的なテンペラという技法があることを知りました。 そこでテンペラ技法を教えている教室に通って色々試してみたんです。 そんな中で油絵具とテンペラの馴染みの良さに気づき、テンペラ混合技法で描くようになりました。」 しかし、古典技法、古典的テーマで描くには、さまざまな苦労がある。 「もちろん下地から自分で作ります。 キャンバスの上にテンペラ用の下地をつくり、その上から油絵具を塗っていく。 油彩絵具の油もテンペラ用に自分で調合したオリジナルの油を使っています。 支持体を作ることにも苦労しますが、実は一番大変なのは資料を集めることなんです。 モデルに着てもらう服から自分で探さなければならない。 日本で売られていることはまずないので、ネットで探して海外から取り寄せます。 写真を参考にしてもいいのでしょうが、より現実的に描くには、やはり写真より実物を見て描くことが必要になってきますから。」
自分の世界を描くために、とことんこだわる福島さんの経歴は実にユニークだ。
「小さい頃は漫画を描く程度で、本格的に絵を描いていたわけではありません。 絵を始めたのは大学に入ってから。 学生の頃に少し服飾関係の仕事をしたことがあり、その時服飾デザインを描いたが自分で納得がいかなかったので、絵画教室に通ってデッサンや油彩を学びました。 その頃、たまたま銅版画を体験できる教室があり、銅版画も習ったんです。 銅版画をやっている中で、転写する紙自体に興味を持ち、どうやって紙を作っているのかを知りたくなって、和紙を作る工房で紙漉きを始めました。 もう14年程前になりますが、3年間、東京から埼玉の飯能方面まで車で通ったんですよ。 今は古典絵画制作が中心になったので、紙漉きはやっていませんが。 「紙漉きまで自分でした画家」はあまりいないと思います。(笑)」 イギリスの幻想的な画家ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスに影響を受けたという。 「ウォーターハウスは、中世の物語を題材としながら写実的な表現で独特の幻想的な世界を描きだすラファエル前派の流れをくむ作家です。 「人魚」という作品を最初に紹介されて観たとき、まさに幻想的だけれどもリアルな絵に衝撃を受けました。 作品を観ると、その表現を生み出すために色々研究をしている跡がうかがえます。」
今後目指していく絵とは?
「やはり自分の持ち味はロココ美術をベースに幻想的かつリアルで資料に基づいた絵だと思っています。 例えば、モデルの人物が日本人であっても、ロココ的な幻想部分をきちんと表現できるようにしたい。 幻想絵画を18世紀から19世紀の西洋の雰囲気でなるべく忠実に描いていきたいです。 今はコロナ禍で、絵を観てもらう機会が減ってしまっていますが、まず自分の作品を知ってもらって、こういう絵があるんだと多くの人に気づいてほしい。 そのためにTwitterなどSNSの活用にも力を入れています。」
福島義将にとって“アート”とは?
「自分の居場所。自分の存在を表現するところだと思っています。」