学生時代は、武蔵野美術大学でデザイン系の勉強をしていました。その後数年デザイナーとして勤務していたのですが、元々絵画をやりたいという想いがずっと胸にありました。水彩画を始めたのは、子育てがひと段落ついたタイミングです。学生時代の感覚を取り戻していきながら独学で勉強を始めました。その後、ギャラリーで展示したり、水彩画の講師をしたりしながら活動しています。
Interview注目の作家
水彩画の魅力は、透明感があるデリケートな色彩だと思っています。紙に筆をのせた時、水に溶けた顔料がさあっと広がっていく瞬間が美しいと感じます。
一般的に、絵画というと油彩画をイメージされる方が多いかもしれません。油彩画は絵具を塗り重ねていくので描き直したりもできますが、水彩画は違います。その分、にじみやぼかしを表現でき、空気の移ろいまで表現できる質感が出る点が気に入っています。
特に、レオナルド・ダ・ヴィンチの素描には心を惹かれます。無駄が無くすっきりとした美しい線なのに、とても深遠でデリケートな表情が感じられる点が魅力です。一見、簡素な線だとしても確かな技術に裏打ちされている表現がとても大切だと感じます。私自身、水彩画のにじみやぼかしを用いて、観る人の心の内にさまざまなイメージを想い起させるような作品制作を目指しています。
また、マティスにもとても憧れがあります。ポジティブでパワフルな色彩や構図など、自分とは真逆の画風であるが故に強い魅力を感じます。
日本橋アートで2023年8月1日~31日に開催されたWebグループ展「鮮やかな色彩の幻想」展に出品した作品です。花瓶に活けられたピンクやパープルの花の香りを楽しむように、少女が身を乗り出している。上には蝶々が舞う幻想的な作品です。普段は写実的な作品を手がけていますが、この作品ではファンタジックな表現に挑戦してみました。今までとは違う画風で描いてみたいという想いもありました。この作品で挑戦したのは、水彩画で夢想の世界を表現することでした。
私は小さい頃からぼうっとすることが多い子どもで、よく親に怒られていました。ぼうっとしている時は、夢想にふけるような感覚でした。いろんなところに意識が拡散して、何かが自分の中でクリアになったり、癒されたり、浄化されたり。その感覚が、水彩絵具が水に溶ける感じにつながっていると感じたので、作品でもそれを表現しようと決めて制作しました。
また、制作中は、自分が意識して何かをやる、コントロールするという行為ももちろん必要ですが、ある部分では自分以外の何かにゆだねるという感覚も大切にしています。
水彩画だけにこだわらず、常に革新的でいたいという想いで活動しています。違う技法に挑戦することで、制作の幅を広げたいです。
例えば、ここ数年マティスの大胆な色彩や構図に憧れて、ガラス絵に挑戦しています。ガラス絵はガラスの裏から絵具をのせて描く方法で、他の技法とまったく描き方が逆です。人物画を描くときは、顔の輪郭とか、全体から描いていきますよね。でも、ガラス絵は最初に目のような細部を描きます。
また、最近は人物画の素描にも力を入れています。今、ちょうど男性の木炭画を仕上げているところです。自分と異なる性の人を描く楽しさが印象的でした。制作に没頭すると、ふっと誰を描いているか分からなくなる感覚もあって、私の中ではジェンダーのグラデーションについて考えるきっかけにもなりました。
今は水彩画、ガラス絵、人物画と色々やっていて、自分の知らなかった面や画風を探しています。特に、大胆な色彩に憧れて始めたガラス絵では、むしろ自分は緻密に描くという性質を持っているのだな、と改めて気づかされました。今まで、そうしたこだわりを全面に出した作品は、どこか独りよがりになってしまうのではないかと思って、少し避けていました。ですが、色々な技法に挑戦する中で、そのこだわりにも良いものと良くないものがあると実感して。もっと自分自身の中で精査した上で、良いものを作品に出していきたいと思うようになりました。
微細なところに対する感性を高めていくことが自分自身の道を模索していくことになると考えています。いつか、そうして探した自分の道を突きつめた水彩画を描きたいです。でも、それは常に蜃気楼のように、目の前に顕れ、捕まえようとしたら、消え失せて…常に変化していくものでしょうけれども。
常に自身の道を探し、挑戦を続ける山根さちえ氏。水彩画の透明感を活かしながら、ガラス絵や人物画など新しい技法にも果敢に挑戦している。微細な感性を高め、自分の道を突きつめた表現を目指す山根氏の今後の作品に期待が高まる。