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Interview: 田口綾子

自らの手で育てた生命(いのち)を描き、明るい世を望む

 
 

“ 自身の内面が滲み出る油絵に魅力を感じた „

 
 
―絵を描き始めたきっかけを教えてください。
 
「もともと子どもの時から絵を描くことは好きで、イラストや漫画をよく描いていました。ただいわゆるファインアートの作品制作ということでいうと、小学生の時に学校の授業で使う絵具、例えばアクリル絵具や水彩絵具なんかはどうも使用感が苦手だなと感じていたんです。その後、中学校の美術の授業で先生に『あなたは筆さばきが油絵の筆さばきだから、絶対に油絵を描いた方が良い』と言われて、高校で初めて油絵に触れることになります。先生の助言通り私自身油絵がとてもしっくりきて、そのまま美術系の大学に進み、制作を積み重ねてきました。」
 
―先生の助言が油絵との運命的な出会いだったんですね。油絵具のどんなところが自分に合っていると感じますか。
 
「他の絵具と違って流動性がある分、自分のその時の内面がすぐに出てしまう絵具だと思っています。人生の重みが作品に反映されるとも言えるかもしれません。私の作風も時の流れと共に変化しています。」
 
 

 
 

“ 生命(いのち)をテーマに、天塩にかけた野菜や花を描く „

 
 
―作品の中心テーマは何ですか。またなぜそのようなテーマにしたのですか。
 
「中心テーマは『生命(いのち)』です。昔は風景画を描いていたのですが、風景は様々な理由でがらりと様相を変えてしまいます。例えば昔、住んでいた家の前に梅林があったのですが、その地域一帯が都市開発されて全てなくなってしまいました。また、地方に引っ越した頃に中越地震を経験して、自然に畏敬の念を抱くようになりました。そんなこともあって、全体を見るよりも今身近にある生命に目を向けていこうと思うようになり、今は野菜や花をよくモチーフにしています。母が家庭菜園をやっていたり、実家の近くに果樹園があったりした影響で、いま私は野菜や花を種から育てているんです。自らの手で育てたそれらを作品に描いています。育て方によって上手くいったりいかなかったりするのがまるで人間のようだな、生きているなと感じます。」
 
―作品に共通しているこだわりのようなものはありますか。
 
「できるだけ、線画にピンクと水色の線を用いるようにしています。これは人間の『神経』をイメージしたものです。元を辿れば、短大時代にインスタレーション作品を作るのにはまっていた時に、ピンクと水色の針金ハンガーを材料に用いていたんです。短大の専攻科に進学した時に教授から『このピンクと水色の線を大事にしなさい。』と言われましたがその当時私は理解することができないで卒業しました。卒業後医療機関に勤め大学にまた通い4回生になって先生に『君はこのピンクと水色の線を使いたかったんだろう』と言われて、ああそうかと、心に残っていました。また、私は以前医療機関に勤めていたので、人間の生命を身近に感じる立場にいたことも『神経』をイメージしたきっかけだと思います。
 
また、油絵の魅力といえばマチエールを作りやすいことだと思いますが、私の作品ではメインとなるモチーフは平滑に描いているものの、背景の部分では筆跡が分かるような絵具の乗せ方をしています。そうすることで『対比の美』を作り出します。」
 
―ピンクと水色の線も含め、全体的に明るく鮮やかな色が目を引きますね。
 
「そこは意識してそうしているところがありますね。大学受験の時、乾きが速いからという理由で暗い色を使わされていた時があったのですが、嫌だな、明るい絵を描きたいなと思っていました。下地に暗い色を使うと、顔料が反射して明るい色を出すことができるのでそういった工夫もしています。」
 
 

 
 

“ 世の中を明るくする作品を生み出し続けたい „

 
 
―特に思い入れの深い作品はありますか。
 
「2015年に池袋アートギャザリング公募展に出展した作品でしょうか。1枚90cm四方の花の絵を9枚組んだ大型の展示になりました。この9種類の花、すべて私が種から育てたものたちですから、そういった意味でも思い入れは強くなりますよね。また、キャンバスが真四角(スクエア型)というのも一つのこだわりです。真四角は構図を考えるのが難しいのですが、そこに面白さを感じます。見る人が不快にならない構図をよく考えて決めています。」
 
―色彩の面でも構図の面でも華やかで目を引きますね。作品を見た方からはどのような感想をもらうことが多いのでしょうか。
 
「やはり明るい気持ちになると言っていただけることが多いです。私自身、そういう気持ちになってほしいと思って制作をしているので嬉しいですね。作家の内面が包み隠さず出る絵画は、悲しみや痛みといった感情も裸にするゆえに暗い色が出ている作品が多いように思います。もちろん私も日々の中で悲しい気持ちになることはありますが、私は悲しみを養分にして明るさに変えたいと思って制作をしています。泥の中に咲く蓮の花のようになりたいなと。」
 
―作家としての今後の展望はいかがでしょうか。
 
「とにかく、引き続きいろいろな場で作品発表・展示をしたいということに尽きます。20~30代は作品発表の場に恵まれなかったのですが、今はSNSが発達してより多くの方に作品を見ていただける時代になったので、デジタルでの発表もより力を入れていきたいです。また、北は北海道から南は九州・沖縄まで、地方での展示も積極的にしていきたいと思っています。私の作品を通じて、少しでも世の中を明るくできればと思っています。」
 
 

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