ペン画歴50年余りの外山昇さん。作務衣にバンダナというラフなスタイルで、緻密な線と色使いで表現する独自のペン画スタイルを確立。幼稚園の頃にコンクールで優秀賞を受賞したことがきっかけで絵の世界に入ってから現在まで、変わらず絵画への愛情がストレートに伝わってきた。
ペン画との出会い
「中学生の頃、漫画が好きで漫画家になりたくてペンをもったのが最初です。特にちばてつやさんのファンでした。他にも、“ペンの神様”と言われる樺島勝一さん、さいとう・たかをさん、坂口尚さん、水木しげるさん、白土三平さんといった、どちらかというとリアルな絵を描く、デッサン力がある漫画家が好きでした。」
ペン画専門になったのはいつ頃ですか?
「高校卒業後、当時の電電公社(=日本電信電話公社の通称で現在のNTT)で働きながら武蔵野美術短期大学通信教育部(油絵)に通っていて。この頃には漫画家ではなく、画家を目指していました。それで大学で作品を発表する時、当時は油絵や水彩画がほとんどだったので、他の生徒と違うことをやろうと思って、ペン画に色をつけてみたのが僕のスタイルの始まり。あと、油絵とペン画、水彩画とペン画、それぞれ一緒に並んだ場合、同じレベルの絵だったらどうしても油絵や水彩画の迫力に押されてしまう。それなら、それに負けない絵にしたいとも思って色を塗り始めました。」
ペン画に色をつけるのは珍しかった?
「そうですね。ペン画は本来は色をつける必要がない。人によっては色をつけるのは愚の骨頂で、モノクロでカラーを表現してこそペン画だと言われるかもしれない。それでも、その域に到達するのはなかなか難しい。個展では、カラーの方が綺麗というお客さんも多いですし、今はモチーフによって色をつけたりつけなかったりしています。例えば、機関車、民家などはモノクロで描くけど、日の出、夕日、紅葉、桜とかはモノクロだけでは表現しきれないので色をつけます。」
色をつける上でのこだわり
「一枚の絵の中でも、色をつける部分とつけない部分があります。例えば、『尾道水道の夜祭』は海には色をつけず、光と光が当たっている船の一部に色をつけています。それと、色は水彩絵の具を使うこともありますが、カラーインクも使う。最近はプラスしてパステルも使います。一枚の絵の中にブラックのペン画とカラーインクのペン画、パステル、色鉛筆、水彩を使った表現がある。これを、“ミクストメディアペン画”と、自ら名付けています(笑)」
常に技法も作品も進化しているのですね
「水彩絵の具を使う時は、色を混ぜず一色を薄く塗っていきます。例えば、黄色を塗ってその上に少し薄く赤色を塗ると橙色に見えるとか。その逆に最初に赤色を塗ってその上に黄色を塗ると橙色に見えるけれど濃さが変わってくる。それを二回も三回も重ねていく。油絵でいえばグレーズ技法です。これまで一度も色を混ぜてから塗ったことがないのも、色をつける上でのこだわりです。」
作品を作る上で常に心がけていること
「何の絵を書くにしてもベースはペン画。ペンで描いてから色をつけたり崩したりする。今でもずっと覚えているのが、二十歳で初めて個展を開催した時のこと。その時の感想ノートにお客さんが“一本の線が多彩を制す”と書いてくれて。つまり、“一本の線だけでたくさんの色に勝てる”ということ。今は色を使いますが、ペン画のモノクロだけで色を表現することは永遠のテーマかもしれません。」
今後、描いてみたい場所はありますか?
「最近はお城にも興味があるので、例えば、お城の前に桜があって、その後ろには夕日が沈んでいて海も見えたりとか、僕の好きな日本の美がそろう場所があればそこを描きたいです。」
画家として独立されたのは何歳?
「50歳で電電公社を退職してからです。働いていた頃から毎日欠かさず絵を描いていた中で、仕事を30過ぎたら辞めよう、40過ぎたら辞めようと葛藤していたけれど、IT関係のスペシャリストの資格を持っていて会社もそれなりに認めてくれていたので居心地が良く、なかなか辞められなかった……。決心する勇気がなかったんでしょうね。画家は仕事と両立して務まる世界じゃないから、来年になったらやめようと思い続けていました。」
SNSもオンラインサロンもご自身で運用?
「全部自分で登録して運用しています。ホームページ、SNSと複数運用していると作業が増えて更新が滞ることもありますが。オンラインサロンは1000円で受けられて、そこから本格的に習いたいという方もいます。20代30代の女性が多いですね。実際の教室もやっていて、そこは70代前後の方が多いです。漫画を描きたくて来た小学生や中学生もいて、嬉しかったですね。教室は毎月第1、第3土曜日のみで、月謝制ではなく1回2時間で1000円です。」
良心的ですね。最後に外山さんにとってペン画とは?
「美術界の中で自分をアピールするための道具であり仲間です。たまたまペン画と親友になって、じゃあ二人で美術界にのりこもうかと。そんな感じです(笑)」