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Interview: 鈴木史帆

細やかな筆づかいの中にある生命力ー 鈴木史帆の描く花の「凛」とした美しさとは

触れたくなるような柔らかな花びら、みずみずしい葉や茎。
でも鈴木史帆さんの描く花から伝わるのは、きれいさだけではない。
 
 
「子供がまだ2歳と妊娠5か月の時、祖母の介護と出産・育児とが重なりとても大変な時期に東日本大震災を経験しました。子供達が小学校に入り手がかからなくなってきた時、制作を再開したんです。その時題材として花を植え始めて、種や球根から少しずつ増やした花は、やがて百種類を超えました。
植えて開花するまで三年以上かかる花もあるんですよ。庭の維持は大変ですが、手をかけてあげた分、美しく花ひらく様子は、何ものにも代えがたくて」

 
 
—自分で育てた花だからこそ?
 
 
「球根や種から育てていましたから、花への思い入れが強いですね。 種から芽がでて、蕾になり花ひらく、そして朽ちていき、実を宿すさままで見ていくわけで。そんな花の一生を見ていると、生命が受け継がれていくのを感じますね。
慌ただしい子育ての合間に花を育てていくうちに、花の成長を子どもの成長に照らし合わせて描くようになりました。この子達はこれからどんな経験をして、どんな大人になるだろうと。
花の一生は人が成長する様子とよく似ています。私は題材になるその花の一生を作品に映し出したいのです」

 
 

菊農家さんから頂いた菊


 
 
絵の中の花は時間の一瞬にすぎないが、鈴木史帆さんの「花」には、種から育ち花が咲きやがて枯れていく、花の一生が描きこまれていた。
 
 
「シーズンを通して花が途切れないように育てて、その時一番綺麗なタイミングで咲いている花を描くようにしているんです。その花の生きた証を表現したいから。」
 
 

庭の花を題材として描いた作品


 
 
絵を習い始めたときは油絵だった。
水彩を始めたのは、子育てがきっかけだそう。
 
 
「水彩は、介護が終わって制作活動を再開したときからなんです。
その頃はまだ子供が幼くて、描き上げたばかりの油絵をペタペタ触ってしまって作品が台無しになったことがあったんですよ(笑)
ところが水彩だと乾くのが速いから、子供が傍にいても描けることに気づいて安心して制作できる水彩画に取り組みました。そのうちに水彩が持つ透明感は花本来の透明感と類似することに気付いたんです」

 
 
—水彩画のテクニックは独学で?
 
 
「学生の時にデッサンは数えきれない程描きましたが水彩画は独学です。水彩画は水の扱い方が肝になるので、水をコントロール出来るようになるまで何度も実験を繰り返しました。各メーカーの画材を買ってきて様々な技法を試すと画材の特徴が解るので、より効果的に魅せるにはどの画材が適切かなど、自分の作品に活かせる画具を見つけていきました。
納得して使いたいので、幅広い表現に対応できるバランスがいい画材を選んでいますね。
失敗するパターンもわかるようになりました。水の水分量と絵具の比率によって現れる効果も違うのです。よく色が濁ると相談を受けますが、透明度が高い絵具同士を混色すると濁りが起きにくいのです。他にも要因はありますが、私は狙ったところに色を当て嵌めるだけではなく、構成と技法によって情景が伝わる美しさを追求したいと思っています」

 
 
イメージを実現するためにはとことんこだわり、納得いくまで試す。
どんなことを思いながら描いているのだろう。
 
 
「いつも『この作品が代表作になるように』と自分に言い聞かせて描いています。
作品を描いていると、飾っていただく方の喜ぶ表情が目に浮かんでくるんです。絵を鑑賞する方の束の間の癒しになるような、心が豊かになる絵が描けるように心がけていますね。見た人が晴れやかな気持ちになる作品であってほしいと願いながら」

 
 
鈴木史帆さんの絵の根底にあるのは、幼いころパリで見たダヴィッド作『ナポレオンの戴冠式』だという。
 
 
「小学生の時、美術教師だった母の趣味でフランスに旅行しました。
幼い私にとって目に映るすべてのものが衝撃の連続で、美術館巡りをしたときに
ダヴィッドの『ナポレオン戴冠式』という作品に出会いました。
当時私は140センチくらいの背丈でしたが、作品のサイズは10m×6mもあって、その気高さと尊厳を感じるダヴィッドの表現力に目を奪われたんです。政治的な意味合いが強い作品ですが「絵というものはこんなに写実的にメッセージを伝えることができて、感動を与えるものなのだ」と、子供心に深く感銘を受けました。
その時から絵を描く習慣がついたように思います」

 
 
去年、慣れ親しんだ故郷岩手から山梨に移り住んだ。
 
 
「去年の3月に夫の仕事の都合で山梨に引っ越しました。転勤族の宿命ですが、慣れ親しんだ故郷を離れるのは難しい決断でした。
山梨の住まいはマンションなので、絵の題材に花を買うこともありますが、花屋には粒揃いの花しか売っていないので、そこは少し物足りないですかね。実際は虫やウイルスなどの外的要因で省かれていても美しく咲いている花がありますからね」

 
 

アトリエ(岩手)


 
 
—山梨に来てから、絵に変化はあった?
 
 
「山梨といえば武田信玄と富士山のイメージが強くて、家族で河口湖を訪れたときに「ハナテラス」という一年中花を咲かせている大石公園を見つけたんです。そこからヒントを得て、「花と富士山の景色」をひとつのテーマとして描いています。
山梨県でしか体験できないこともありますから、この経験を大事にしていきたいと思っています」

 
 

ハナテラスがある大石公園


 
 
—これまで描いた作品で「自分らしい」と思う作品は?
 
 
「『雅』という作品です。介護をしていた時期に菊農家さんのお世話になって、子供達の成長も温かく見守って下さった方がいたんです。その菊農家さんに感謝の気持ちを込めて、頂いた菊と自宅の庭で種から育てたサルビアを着物と合わせて華やかに描きました。人との出逢いに感謝して生まれた、作品を制作する動機になった思い入れのある作品です」
 
 

『雅』F30号


 
 
—『これからの鈴木史帆』はどんな絵を描いていく?
 
 

「もちろん「花」はテーマとしてありますが、普段の生活の中であらゆる物との出逢いの瞬間を逃さないように作品を残していきたいです。それが花であり風景であり人物だったりするわけですが、描く対象は年齢と共に段々と収まっていくと思います。だからこそ「今」を大切に、様々なことに挑戦したいです」
 
 

鈴木史帆にとって“アート”とは?


 
「・・・『鏡』。
創造力をかきたてるものであり、内面と向き合えるものでもあるから、自分の感性を映し出す『鏡』だと、私は思っています」

 
 

鈴木史帆 今後の活動予定
3月29~4月3日、10月14日~28日山梨で個展を予定。同県に住まいを移し初めての展示となる。
花を中心に、山梨で描いた風景画も含めた展示を予定している。

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