Interview作家インタビュー

アルコールインクアート
Shigeyo
兵庫県神戸市に生まれ、ファッション業界や渡米、子育てを経て、2022年にアルコールインクアートと出会った。インクの流動性と透明感に魅了され、光や風の揺らぎ、香り、音といった目に見えない五感の気配を紙の上に描き出す。とりわけ黒地に白を緻密に重ねることで生まれる透明感と奥行き、幻想的な世界観が彼女ならではの表現である。国立新美術館での入選や海外コンペティションでの受賞など活躍の場を広げながら、人間の手と素材が紡ぐアナログならではの温度感にこだわり続けるShigeyo氏に、創作の原点とこれからの展望を伺った。
「風・Breeze」 作:Shigeyo
簡単に自己紹介をお願いいたします。

兵庫県神戸市の出身で、現在は福岡県を拠点にアルコールインクアーティストとして活動しております。結婚前はファッション業界に身を置き、その後渡米しました。帰国後は結婚や子育てを経て、現在は子ども向けの英語講師をしております。

子育てが一段落し、時間にゆとりができた2022年にアルコールインクアートと出会い、創作活動を始めました。インクの持つ流動性と透明感に魅了され、光や風の揺らぎ、香り、音といった目に見えない五感の気配を紙の上に具現化することを目指しています。特に、黒地に白を重ねることで生まれる透明感や奥行き、そして幻想的な世界観は、私の表現における大きな特徴です。

活動の転機となった出来事を教えてください。

本格的にアルコールインクアートを始めようとしていた2022年4月、国立新美術館で開催される21世紀アートボーダレス展へのお誘いをいただきました。当時はまだ納得のいく作品を描いたことがない状態でしたが、挑戦したいという気持ちが勝り、参加の意をお伝えしました。そこからの8か月間は、制御の難しいインクとの格闘の連続でした。今振り返れば無謀な挑戦でしたが、そのご縁をきっかけに多様な作家の皆さんと交流でき、現在の活動の礎となりました。

また翌2023年には、力試しのつもりで応募した海外のコンペティションで2度の第1位をいただいたことは、作品制作を続けていく上での大きな自信とモチベーションになりました。さらに今年7月には、フランスのヴェルサイユで開催された日仏現代美術展に初めて海外出展しました。素晴らしい建築様式の中で自分の作品と向き合ったことで、国内とは異なる新たな表情を発見することができ、今後も積極的に海外へ挑戦したいという思いが強まりました。

「孔雀」 作:Shigeyo
アルコールインクアートとの出会いについて教えてください。

10数年前に友人に誘われてパステルアートを描いた経験はありましたが、本格的な美術教育を受けたわけではなく、子育てやアートとは異なる仕事に携わっていたため、どこかで自分には表現の限界があるのではと感じていました。そんな折にアルコールインクアートと出会い、その自由で美しい抽象表現を目にしたとき、私にも表現できるかもしれないと直感的に心を動かされました。鮮やかな色彩が描くグラデーションと強い透明感に強く惹かれたことが、アーティストとしての第一歩を踏み出すきっかけとなりました。

作品にはどのような想いを込めていますか?

幼少期に親しんだクラシックバレエや舞台芸術の洗練された美しさを原体験として、幻想的な世界を紙の上で表現することをコンセプトにしています。単に視覚的な美しさを追求するだけでなく、肌をなでる風や光の眩しさ、かすかな音や香りなど、五感や記憶に深く訴えかけるような作品作りを目指しています。色彩の重なりや透明感が生み出す世界が、ご覧になる方の心にそっと寄り添い、静かな安らぎをもたらすことができれば幸いです。

また、インクが紙の上で自由に広がっていく瞬間そのものが、五感を刺激する体験でもあり、その偶然性と向き合いながら、自分の意図を重ねていく制作のプロセスもまた、作品の一部だと感じています。

「とわの息吹-光の回廊に咲く」 作:Shigeyo
最も自分らしいと思う作品を教えてください。

鮮やかな色彩が主流とされるアルコールインクアートの中で、独特な技法を用いて黒地に白を重ねた作品が、最も自分らしいと感じています。活動初期はインク特有の鮮やかな発色に魅了され、多色使いの作品を中心に制作していました。しかしある時、試みに黒と白の世界で描いてみたところ、今までとは全く異なる奥行きと幻想的な世界が広がりました。白の緻密な重ね合わせによって生まれる透明感は、和の佇まいにも、モダンでスタイリッシュな空間にも響き合います。鮮やかな多色使いとは全く異なるこの静謐な世界観こそが、この独自の表現スタイルこそが、私というアーティストのアイデンティティだと感じています。

今後の展望を教えてください。

まずは、現在取り組んでいる黒×白の表現をさらに深め、作品の可能性を押し広げていきたいと考えています。また、多色使いの表現においても、これまでのモチーフにとらわれない新しいアルコールインクアートの可能性に挑戦する予定です。さらに今後は、水彩画やアクリル画といった異なる画材との融合にも興味を持っています。表現の幅を広げながら、自分にしか生み出せない世界観をさらに深めていきたいと思っています。

デジタルやAI技術によって一瞬で完璧な美しさが生み出せる時代だからこそ、私は人間の手と素材が紡ぎ出すアナログならではの温度感や手触りにこだわり、心に届く作品を作り続けていきたいです。海外での出展を通じて、日本とは異なる空間や光の中で作品が新たな表情を見せてくれたように、これからも様々な場所や文化の中で自分の作品がどのように響き合うのかを確かめていきたいと思っています。

目に見えない五感の気配を、流動するインクと緻密な筆致で紙の上に立ち上げるShigeyo氏。様々な経験と出会いを重ねながら歩んできた人生の彩りが、黒と白のあわいに揺らぐ幻想的な世界となって結晶している。デジタルが完璧な美を瞬時に生み出す時代にあってなお、人の手と素材が紡ぐ温度にこだわり続けるその姿勢は、見る人の記憶や感覚にそっと触れてくる。国内外へと表現の場を広げながら深化していくShigeyo氏の世界に、これからも大きな期待が高まる。

インタビュー: 2026/08/05