日本文化を継承するアート販売Webメディア

Interview: にしもりただし

身の回りの美しさに触発され
描いた絵の中に時間を閉じ込める

何気ない日常生活を題材に、そのなかにある喜びや発見を描くアーティスト、にしもりただしさん。子供の頃から絵を描くことが好きで、一旦就職するも雑誌にイラストを提供したりグループ展を開催したりと、ずっと絵を描き続けていた。自身の子供の存在が絵にも大きな影響を及ぼしている、と話す。
 
 

真剣に遊ぶ子供を描いた「made in japan」


 
 
「身の回りの美しい形に触発されて、20年以上前から絵を描いてきました。日常のその辺にある、何の変哲もないものに惹かれます。転がっているビニール袋や丸まったティッシュなど、周りの人が『それがどうしたの』というものに美しさを感じるんですよね。以前は、瓶やハサミなどの静物を描いて諸行無常を表現していました。しかし、2014年に子供が生まれてからは人を描き、そこに時間の流れを表したいと思うようになりました。写真のように時間を切り取るのではなく、絵の中に時間を閉じ込めるつもりで描いています。子供も、愛らしい表情ではなく、無心に食べている表情や一生懸命に見ている表情など作りものではない表情に魅力を感じます」
 
 
そんなにしもりさんにとって、絵を描く行為は決して特別なものではなく、食事や読書、楽器演奏と変わらないそう。
 
 
「就職していた時は、人がテレビを見ている時間に絵を描いていましたが、大変ではありませんでした。私にとって絵を描くことは、食事をしたり本を読んだり楽器を演奏したりすることによく似ているんです。おいしい料理を消化する感じに近いですね。最近は、食べる側ではなく『召し上がれ』と言う側にならないといけないと思い、誰でもわかるような洗練された絵を描くように意識をしています。そのために行っているのが、自分の引き出しを増やすこと。たとえばルネッサンス絵画について勉強していると、自分が無意識で描いていた構図などに裏付けがあることに気づく場合もあるんですよ」
 
 
 

“ 人間にフォーカスしながら水彩画のように油絵を描く „

 
 
にしもりさんは、コーヒー関連企業に勤めていた経験を持つ。作品にもコーヒーカップやドリッパー、コーヒー豆などコーヒーに関するものが多く登場する。
 
 
「私はよくコーヒーを描きますが、コーヒー自体に興味があるのではなく、コーヒーを中心にした物語に興味があります。人がコーヒーを淹れる時間。コーヒーを淹れる行為。コーヒーを待つ時間。そこには飲みたいと思う人がいます。その人間にフォーカスしています。描きたい場面があったら、まず写真を撮るんですよ。違う角度で何枚も撮り、少なくとも2枚以上の写真をA4に引き伸ばして並べます。絵で描いた時に美しい形にするためには、いろいろな角度から見ることが大事。それを見ながら、その時に自分が感じたものを描いていきます」
 
 

「ぼくのカリオモン」。コーヒーを淹れる様子が描かれている


 
 
にしもりさんの画材は、油彩、アクリル、ペン、水彩鉛筆など多岐に渡る。紙やキャンパスだけではなく、Tシャツにイラストを描いて販売するなど、さまざまなかたちで絵を見る人に届けている。
 
 
「下絵を描きません。帆布を張ったコットンキャンバスに描いた時に、その生成りの色がきれいだと感じました。そのためキャンバス全体に絵を描いても、一部だけ色を塗らずにキャンバスをそのまま残しています。仮に下絵を描くと鉛筆の線が残ってしまうことがあるので、描くのを止めました。油絵を描く時も水彩画を描くような感じです。最初は赤・青・黄色の三原色で描き始め、もし迷ったらペインティングナイフで削ってしまう。指一本分の修正でも絵描きにとっては大仕事。でも、指の位置を微妙にずらすために描き直すなんて、日常茶飯事ですね」
 
 
1枚の絵の制作期間は1週間から10日ほど。完成しても、1カ月後に微調整することも少なくない。
 
 
「たとえば、完成後にコーヒーカップを持つ手の人差し指と中指の間に、コーヒーカップの白い色を足すこともあります。グラスにハイライトを入れるぐらいのほんのちょっとした修正なので、見た人は気づかないかもしれませんが。絵を描く時は、『ぼんやりと長い間眺めても飽きない絵』と『詳細を見たい絵』のどちらの絵なのかを、考えながら制作しています。壁に飾って眺めたい絵なら、完成した後に壁に飾り、眺めてから修正することもあります。詳細を見たい絵の場合は、1枚の絵の中で視点がどう動くかを考えながら描いています」
 
 

完成後に指の間をわずかに修正したという「At the Cafe」


 
 
にしもりさんにとって大切なのは、収入でも名声でもなく、絵を描くこと。「絵を描く以外のことをせずに、ずっと絵を描き続けていくにはどうしたらいいのだろうと考えています」と、ひたすら絵に真摯に向かい合っている。
 
 
にしもりただしにとって“アート”とは?



 
「みんなアーティストだと思っている。それぞれに美意識があるから。その美意識の表れがアートだと思う」

戻る