Interview: 井上奈保子

『生きている』という感動を描きたいんです。ありのままに表現したい。

 
画面を彩る生き生きとした花たち。
お花への愛情が画面から溢れんばかりに伝わってくる。
みずみずしく、ときには弾ける明るさで、そしてときには凛としたおくゆかしさで表現されている。
 
「お花ってすごいなって思います。静かでものを言いませんが、力強くて生命力に溢れています。そして、どんな気持ちのときも優しく寄り添ってくれます。お花だけでなく自然全体にも言えますが、長い時間かけて進化した逞しさによる生命力。特にこのコロナ禍においてより一層、お花や自然の存在はすごいなって改めて感じました。着実に季節を刻んでくれて、着実に緑が芽生えて、お花が咲いて季節をしっかりと体現していることに勇気づけられます。」
 
 

「Autumn」Fabriano in Acquarello 2019出品作品


 
 
祖父が描く水墨画に触れ、絵本の蔵書に囲まれて過ごした幼少時代。
絵は描くのも見るのも好きで高校時代は油彩画にも傾倒したが、進路に「美術」の選択肢を入れなかった。
 
 
「逆説的ですが、好きなことを仕事にすることの是非みたいなところでしょうか。
好きなことを仕事をしてしまうと逃げ場がなくなるとか、色々な方のご意見を聞く中で、仕事というのは難しいものなんだな…と、子供心に思っていました。
私にとって絵は大事なものだったので、仕事は仕事として別にしたほうがいいと判断しました。私はこつこつ勉強するタイプだったので、四年制大学に行ってしっかり勉強して就職し、大事なプライベートの時間で絵を描こうと思いまして、仕事とあえて結びつけないようにしていたところがありましたね。」

 
 
商学部でビジネスを学んだのち、メーカーの総合職に就いた井上さん。男女雇用機会均等法が制定されて数年の頃で、充実しつつもかなりハードな社会人生活を送った。多忙な生活の中でも絵が描きたい気持ちが抑えられず、会社からほど近い銀座コリドー街の画廊で当時開かれていた夜間の油彩画教室に週に一度通った。
 
 
「油絵を描いたり、木炭デッサンをしたり。そういう時間はすべてを忘れて没頭できるすごく貴重な時間。絵が好きなんだなという実感。日常のストレスや浮世のことを忘れます。
集中しているときは何も聞こえなくて、目の前にあるものだけに集中してすべてから解放される、そんな時間でした。」

 
 
描かずにはいられない。絵を描く時間がなければないほど、絵への思いは溢れていく。その思いの根幹にあるのは「生きている感動」だという。
 
 
「『生きている感動』をありのままに表現したいです。絵を描いているときは私自身も生きているなぁと実感します。普段過ごしていると、そういうことをしみじみ感じることなく、あわただしく日々が過ぎていきます。美しいものを見て感動し、絵に描くことで、生きている実感を味わわせてもらっているんだな、と。そのような気持ちを絵に込めています。」
 
 
 
「Breath of flowers」


 
 
 
「Light of autumn」IWSポーランド&ウクライナ国際水彩画合同展 入選作品


 
 

“ 転機となった透明水彩絵具との出会い „

 
今までは絵=油絵という思い込みがあったという井上さん。しかし原点とも言える祖父の水墨画にあったような繊細で細やかな流動性のある絵を描くには油絵が最適とは言い切れない。そんな思いを抱く中で透明水彩絵具と出会い、井上さんの作家人生が加速した。
 
 
「こんな素敵な画材があったんだというのがひとつの発見で。透明水彩のもつ透明感、紙の白を生かしながら上に乗せた色、そこにまた色を乗せて、両方生きてくるという絵具の持つ魅力に憑りつかれました。透明水彩は水で動くんですよね。描くというより色を置く。色を置くと水に乗って広がったり混ざったり。完成したものも好きですが、描いているときの紙の上で遊ぶ感じもすごく魅力的です。花とその周りの空気感を描きたいときに透明水彩の良さが生きてきます。」
 
 
描き方も作家それぞれ流儀があり、自由なのが透明水彩だ。
水の含み具合や絵具の濃度など、作家それぞれの”トレードマーク”と呼べる「色」を見つけ、大事に自身の絵を育てていく期間が必要となる。井上さんもまだまだ自分なりの描き方を模索中だという。
 
 
「個人的にはグラニュレーション絵具の粒子を使用した表現が好きです。粒子の重い絵具と軽い絵具を混色して画面に置くことで、軽い絵具はさ~っと流れて重い絵具はそこに残る画面上の変化を楽しんでいます。
実際の絵を見に来ていただけると、『あっ、この辺グラニュレーションを起こしている!』と楽しんで頂けると思います。」

 
 

「Calla lilly」


 
 

“ 絵画は優しい芸術 „

 
 
完成品はもちろん、絵を描く作業そのものを楽しんでいる井上さん。実は作業に入るその前、お花との出会いも楽しんでいる。生きている感動とは花そのものの生命力であり、井上さんが絵を描くすべての工程で感じているその感動のことなのだろう。
 
 
「お花屋さんにとにかく足しげく通って、あっこの子は…!みたいな子と出会えるのが喜び。お花屋さんに行くときは〇〇を買おうと決めては行かないんです。出会いを求めて行きます。今日はどんな方がいらっしゃるかしら…みたいな感じでちょっとドキドキしながら行くんですね。そうすると毎回ワッとなります。こんな方がいらっしゃった…!と。
一際目を引く方(お花)が必ずいらっしゃるんですね。その出会いは季節季節によって全く違いますし、行くタイミングにもよりますので、本当に一期一会の出会いです。
『今日あなたに出会えてよかった、うちに来てください!』ということで1本主役の子を中心に、『あなたもいかがですか?あなたもうちに来てみませんか?』という感じで1本ずつスカウトをしていくんですが、その過程がたまらなく楽しいというかちょっとした興奮状態ですかね(笑)この子たちすごく素敵ですが他にどうしましょう、という感じで。お花屋さんにとっては滞在時間も長いですし、少し迷惑かもしれませんよね(笑)
そこから絵が始まっているといいますか、出会いに感謝しながら大事に抱えて帰ってくるという感じですね。仕上がった絵は1枚の絵なんですが、行ってお花と出会うところから始まって、スカウトをして、ある程度のまとまりになっていただいて、そして家に帰ってからは、どの器とマッチしていただこうかと考えます。そういう、花と一緒に過ごした時間も絵に込められています。」

 
 
お花との出会いについて語る井上さんの表情はきらきらとしている。「水彩人展」を始め国際的な展覧会でも入選を果たすなど透明水彩画家として活躍する井上さんの目標はごくシンプルに、”初心を大切に描き続けること”だと語る。
 
 
「自分の感動を描き続けていって、見て頂く方と共有できたらそれが一番うれしいです。少しでもほっとしたり安らいだりしてもらえたらと思っています。絵の良いところは、見る側も作家の熱量を感じて、心が動く。感動だったり疑問だったり、時に違和感だったり。それって、生きている実感が伴うものなんですよね。画面を介してコミュニケ―ションを取れるのが絵の素晴らしい所だと思っています。もちろん映画や音楽も大好きで、心が動きますが、映画や音楽が作品のペースで進行するのに対し、絵画は見る側のペースで受け止めて味わうことができます。優しい芸術だと感じています。」
 
 
感動の補給は井上奈保子作品から。
 
 
 
 
井上奈保子にとって“アート”とは?


 
「 感動の表出とコミュニケーション 」
 
 
 
 
井上奈保子 水彩画展 ~光の花たち~
会場:銀座ギャラリーあづま
会期:9/6 ~ 9/12
 
【 Web個展ページはこちら 】
 

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