【Artist Statement】
絵の具と水が画面で生み出す偶然、ぼかし表現など、水彩画の魅力を生かすタッチで
主に風景や花々をモチーフに描いています。
花々の生命力や瑞々しい空気感、柔らかな光、
その時々の徒然なる想いを画面に留めたいと願っております。
祖父が描く水墨画に触れ、絵本の蔵書に囲まれて過ごした幼少時代でした。絵は描くのも見るのも好きで、高校時代は油彩画にも傾倒しましたが、進路に美術の選択肢を入れませんでした。
逆説的ですが、好きなことを仕事にすることの是非みたいな、好きなことを仕事をしてしまうと逃げ場がなくなるとか、色々な方のご意見を聞く中で、仕事というのは難しいものなのだなと、子供心に思っていました。私にとって絵は大事なものでしたので、仕事は仕事として別にしたほうがいいと判断しました。私はコツコツ勉強するタイプだったので、四年制大学に行ってしっかり勉強して就職し、大事なプライベートの時間で絵を描こうと思いまして、仕事とあえて結びつけないようにしていたところがありました。
「Autumn」
作:井上奈保子
Fabriano in Acquarello 2019出品作品
商学部でビジネスを学んだのち、メーカーの総合職に就きました。男女雇用機会均等法が制定されて数年の頃で、充実しつつもかなりハードな社会人生活を送りました。多忙な生活の中でも絵が描きたい気持ちが抑えられず、会社からほど近い銀座コリドー街の画廊で当時開かれていた夜間の油彩画教室に週に一度通いました。
油絵を描いたり、木炭デッサンをしたり。そういう時間はすべてを忘れて没頭できるすごく貴重な時間で絵が好きなんだなという実感。日常のストレスや浮世のことを忘れます。集中しているときは何も聞こえなくて、目の前にあるものだけに集中してすべてから解放される、そんな時間でした。
描かずにはいられない。絵を描く時間がなければないほど、絵への思いは溢れていきます。
生きている感動をありのままに表現したいです。絵を描いているときは私自身も生きているな。と実感します。普段過ごしていると、そういうことをしみじみ感じることなく、あわただしく日々が過ぎていきます。美しいものを見て感動し、絵に描くことで、生きている実感を味わわせてもらっているのだな、と。そのような気持ちを絵に込めています。
お花ってすごいな。と思います。静かでものを言いませんが、力強くて生命力に溢れています。そして、どんな気持ちのときも優しく寄り添ってくれます。お花だけでなく自然全体にも言えますが、長い時間かけて進化した逞しさによる生命力。特にこのコロナ禍においてより一層、お花や自然の存在はすごいなって改めて感じました。着実に季節を刻んでくれて、着実に緑が芽生えて、お花が咲いて季節をしっかりと体現していることに勇気づけられます。
「Breath of flowers」
作:井上奈保子
今までは絵=油絵という思い込みがありました。しかし原点とも言える祖父の水墨画にあったような繊細で細やかな流動性のある絵を描くには油絵が最適とは言い切れない。そんな思いを抱く中で透明水彩絵具と出会い、私の作家人生が加速しました。
こんな素敵な画材があったのだというのがひとつの発見でした。透明水彩のもつ透明感、紙の白を生かしながら上に乗せた色、そこにまた色を乗せて、両方生きてくるという絵具の持つ魅力に憑りつかれました。透明水彩は水で動きます。描くというより色を置く。色を置くと水に乗って広がったり混ざったり。完成したものも好きですが、描いているときの紙の上で遊ぶ感じもすごく魅力的です。花とその周りの空気感を描きたいときに透明水彩の良さが生きてきます。
個人的にはグラニュレーション絵具の粒子を使用した表現が好きです。粒子の重い絵具と軽い絵具を混色して画面に置くことで、軽い絵具はさ~っと流れて重い絵具はそこに残る画面上の変化を楽しんでいます。実際の絵を見に来ていただけると、この辺グラニュレーションを起こしている!と楽しんで頂けると思います。
お花屋さんにとにかく足しげく通って、この子は…みたいな子と出会えるのが喜び。お花屋さんに行くときは〇〇を買おうと決めて行かずに、出会いを求めて行きます。今日はどんな方がいらっしゃるかしら。みたいな感じでちょっとドキドキしながら行きます。そうすると毎回ワッとなります。こんな方がいらっしゃったのかと。
一際目を引くお花、が必ずいて、その出会いは季節季節によって全く違いますし、行くタイミングにもよるため、本当に一期一会の出会いです。
今日あなたに出会えてよかった、うちに来てください。ということで1本主役の子を中心に、あなたもいかがですか、あなたもうちに来てみませんかという感じで1本ずつスカウトをしていくのですが、その過程がたまらなく楽しいというかちょっとした興奮状態です(笑)
そこから絵が始まっているといいますか、出会いに感謝しながら大事に抱えて帰ってくるという感じです。仕上がった絵は1枚の絵ですが、行ってお花と出会うところから始まって、スカウトをして、ある程度のまとまりになっていただいて、そして家に帰ってからは、どの器とマッチしていただこうかと考えます。そういう、花と一緒に過ごした時間も絵に込められています。
「Light of autumn」
作:井上奈保子
IWSポーランド&ウクライナ国際水彩画合同展 入選作品
自分の感動を描き続けて、見て頂く方と共有できたらそれが一番うれしいです。少しでもほっとしたり安らいだりしてもらえたらと思っています。
絵の良いところは、見る側も作家の熱量を感じて、心が動く。感動だったり疑問だったり、時に違和感だったり。それって、生きている実感が伴うものだと思います。画面を介してコミュニケーションを取れるのが絵の素晴らしい所だと思っています。もちろん映画や音楽も大好きで、心が動きますが、映画や音楽が作品のペースで進行するのに対し、絵画は見る側のペースで受け止めて味わうことができます。優しい芸術だと感じています。
「Calla lilly」
作:井上奈保子
好きなことを仕事にせず、社会人として働きながら絵を描き続けてきた井上氏。透明水彩絵具との出会いが転機となり、花の生命力と季節を体現する姿に勇気づけられながら制作を続けている。お花屋さんでの一期一会の出会いを大切にし、花と一緒に過ごした時間を絵に込めている。今後の井上氏の活躍に期待が高まる。
2022.10.18 - 2022.10.23
2022.08.01 - 2022.08.31
2022.05.23 - 2022.05.29
2021.09.06 - 2021.09.12