「20歳頃から作家活動を始め、自身の画家活動と並行して、現在は子ども向けの絵画教室の運営も行っています。子どもの頃から絵を描くのが好きで、小学3年生の頃には近所の水墨画の先生の元で学んだこともありました。ただ、小中高と剣道部に所属し、大学では機械工学を専攻するなど、絵とは少し距離を置いていました。しかし将来の進路に迷っていた20歳の頃、“手に職をつけたい”と思い、画業に進むことを決めたんです」
宗岡卓治さんが絵画教室で独立するのは30歳のとき。それまでは、介護職に就いたり、書店や大手家具・インテリアチェーンでスタッフとして働いたりして生計を立てつつ、絵画コンクールへ応募するなど創作活動への情熱も持ち続けていました。また、機械工学で培った思考や知識は、後の絵画教室で子どもたちに教える際の基盤にもなったといいます。
そんな宗岡さんが描く絵のコンセプトは、“ほのぼのと笑顔になる絵”。実は家業がお寺の運営で、僧職者としての顔も持つ宗岡さんは、仏教の教えから浄土=楽園を描こうとしているといいます。
「浄土真宗で阿弥陀経というお経に“赤色赤光、白色白光”という言葉があるんです。みんなちがってみんないい、それぞれがあるがままでそれぞれの光を放つことが大切、といった意味なのですが、私自身も、動物、花、人それぞれが、それぞれの美しさを出すのが一番いいと思っています。それぞれが輝く世界を表現したいという思いから、明るい色調の絵を描いています。私の絵を観た人が明るい気持ちになってくれたら、隣の人も明るくなるし、また隣の人も明るくなって…という素敵な循環を生み出したいなと」
「20代の頃は鉛筆で写実的な絵を描いていましたが、独立してからは現在のほのぼのした明るい作風に変わりました。それは、絵画教室で子どもたちを見るようになり、自分自身の心が明るくなったことが大きな要因です。子どもたちは、予想できない動きをするんです。例えば、粘土を渡すと、それでキャッチボールをしてみたり…。型にとらわれない柔軟な発想や表現は私自身の制作のヒントにもなっていますし、何よりも子どもたちの笑顔やパワーは、頑張る原動力になっています」
子どもたちからポジティブな影響を受けて、描く絵が変わっていったという宗岡さん。描く対象は風景、人物、植物、動物と多種多様ですが、なかでも飼っている猫がモチーフになることが多いそうです。それは子どもたちが予想できない動きをするのと同じように、自由気ままでこちらが思ってもみない動きをしてみせ、驚きを与えてくれるからでしょう。実際、オンライン取材時にも画面を横切ったかと思えばキッチンで醤油をなめようと、宗岡さんはハラハラ。けれどそういった瞬間が、宗岡さんにとってのインスピレーションの源泉となっているのかもしれません。
同じ理由から、動物園にもよく訪れるといいます。絵画教室のお子さんと動物園の動物たちを一緒に描いた「楽園 歩こう」はこれまでの作品で特に自分らしいそう。
「浄土真宗には阿弥陀さまの悉皆金色の願という願いがあり、すべての命は一つとして変わらず価値があると示されています。この作品のなかでも、動物と人がみんな同じく平等に輝いている世界を表現しようと思って描きました。直接的に仏様を描いたわけではないですが、子ども、動物、花を描くにも仏様を込めるように意識しています。私にとっては、修行僧が複数描かれた羅漢図と同じような祈りが込められた作品なんです」
「32歳の時、西洋美術の本場で学びたいとイタリアに1週間ほど滞在したことがありました。レオナルドダヴィンチの絵を模写している先生のもとで勉強させていただいたんです。そこで西洋美術の歴史を学んだことで、日本美術の良さや奥深さについても改めて実感しました。向こうでは葛飾北斎の画集が置かれていたり、日本のアニメやゲームも親しまれていたりする。異国で自国の文化が評価されている様子を目の当たりにして、自分の創作にも自信が持てるようになった印象深い出来事でした。
ほかにも、県展で佳作をいただいたことは嬉しかった思い出です。子どもたちや周りが喜んでくれたことが何よりの幸せでした」
そんな宗岡さんに創作のために意識的に取り入れていることはあるかと尋ねると、「絵への感謝」と答えてくれました。
「絵に救われてきた人間なので、絵に感謝して日々生きています。絵のおかげで人と出会い、絵のおかげで仕事をいただけています。そういった厚恩に感謝するのを忘れないようにすることですね」
感謝の思いを絵に昇華させ、観る者をほのぼのと明るい気持ちに。そしてポジティブな循環を創り出せるのは、謙虚な姿勢があるからこそなのでしょう。そんな宗岡さんが今後チャレンジしていきたいことは何なのでしょうか。
「200号や300号といった大きなキャンバスで、子どもや動物を表現する作品に挑戦したい思いがあります。並行して、現在運営している絵画教室でいい教材づくりも続けていきたいです。普段から、ポジティブなパワーをもらっている分、お子さんたちを幸せにしたいという気持ちがありますのでそういった活動を通して皆さんを幸せな気持ちにしたいと思います。」