「小さい頃から、父親が地域のイベントで絵を描いていたのをよく見ていた影響か、私も絵を描くのが好きでした。小学生だった当時はいじめられていたこともあって、友達が少なかったんです。クラスで話す人がいなかったので、ノートや教科書の隅に、花や女の子の絵を描いて過ごしていた記憶が残っています」
幼少期から絵を描くことが好きだったというKyonchiさんは、絵が好きという気持ちを持ち続けたまま、大人になってからは絵を描くことから離れていました。それは仕事が忙しかったからです。しかし、2014年、絵を再開するきっかけとなる大きな転機が訪れます。
「自分がずっとやりたいと思っていたデザインの仕事に就き、熱が入り、ハードに働いていたのですが、体を壊してしまって……。腎臓の病気になり、1ヶ月ほど入院することになりました。気持ち的には元気だったけれど、体が思うように動かない状態でした。そんななか、病室に画用紙とクレヨンを持ってきてもらい、小さい頃から好きだった絵を再開したんです。
1日1枚、自分が好きな笑顔の子の絵などを描いて、それをSNSなどにアップするようにすると、勇気づけられるとポジティブなコメントをいただくことも増え、本格的に画家活動を始めました。2018年頃からは、本格的にグループ展に参加させていただき、これまでに国内外28カ所の展示会に参加しました。本の挿絵を担当したり、横浜赤レンガのイベントで花の絵を提供したりしたことも。直近ではNFTアートにもチャレンジしています。
当時病気を患って、できなくなったことは多くありましたが、それがなければ、いま絵を描いていないかもしれません。私にとっては大きなターニングポイントでした」
「以前ゴスペルを歌っていた経験から着想を得て、女の子が笑顔で歌っている様子を描くことが多いです。明るい色が好きなので、感覚的にそういった鮮やかな色を多く使いますね。
絵を描く際のモットーは、“みんなにハッピーを届けたい!笑顔になってもらいたい!”です。忙しかったり、自分の気持ちが落ち込んでいたりする人たちが私の絵を見て、少しでも明るい気持ちになってくれたらいいなと。絵を描きたいと思うのは、周囲の人を励ましたり、背中を押したり、周りに少しでも良い影響を与えたい時です。なので、まずは友だちなど自分の近くにいる人たちの感情に寄り添うことを意識しています」
Kyonchiさんが描くのは、一目見れば気持ちがパッと明るくなるようなパワフルで明るい作品の数々。絵が放つエネルギーには、Kyonchiさんの困難に立ち向かいながらも前進し続ける力強さはもちろん、新しいことにチャレンジする前向きな志向性も反映されています。
「実は現在、画業と並行して、趣味でキックボクシングをしたり、スポーツクラブのインストラクターを務めたりしています。もともと喘息持ちで運動が苦手だったのですが、フルマラソン大会に2回出場し、運動の楽しさを知りました。その後新たにキックボクシングを始めて3年ほど。現在は筋肉もついてきたので、教える立場として日々研鑽を積んでいます。新しいことにチャレンジするのが好きなんです。先日はパワーリフティングの大会にも出場したのですが、今後はフィジークの大会にも出たいと思っているので、身体づくりに励んでいます」
「絵を描く際に一番大切にしていることは心を守ることです。自分の心が安定していないと、そもそも描けないですし、周りにポジティブな影響を与えられません。それは、自分が病気を患って入院して、心と体の健康が何よりも大事だと痛感したからでもあります。そういった意味では、ゴスペルを聴くことやキックボクシングなどの運動は、リフレッシュになって心の健康につながっています。それから、睡眠と毎日笑うこと。夫と日々くだらないことで笑いあって過ごしています」
そんなKyonchiさんが最も自分らしいと感じる作品はボクシングのグローブを付けて両手を広げている「Declaration」だといいます。
「『Declaration』の意味は宣言です。目標や夢を宣言していきたいと自分を鼓舞する意味も込めて描いた作品です。背景に『Power of Smile』と書いているのですが、笑顔は何よりも強い武器になると思っています。この作品を作った当時は、キックボクシングを始めたばかりの時。闘争心が一ミリもなかったなかで、練習を重ねるにつれて強さを身に付けていきました。経験がなくても笑顔を絶やさずに努力すれば、自分を変えられるという想いも表現しています」
最後に、この「Declaration」の通り、今後の目標についても宣言してくれました。
「やってみたいことはたくさんあるのですが、そのうちの一つは壁画。私が描く絵は、子どもが見てもわかる作品が多いです。なので、街中の壁や、商業施設の中のスペースなど、多くの年代の方が目にする場所に展示してもらえたらうれしいです。今後も感謝の気持ちを忘れずに、周りにハッピーを届けられるような作品作りをしていけたらと思います」