BINGOゲームではじめての水彩画セットみたいなのを当てたのですが、未開封のまま家にずっと置いていました。ある日酔っぱらって帰って、朝起きたら、描いた記憶がない抽象画がたくさんあって。後日そのお話を上司や先輩にしたら、ちゃんと描いたらどんな絵になるんだろうと言われたことをきっかけに描いてみました。その絵をフェイスブックに上げたら欲しいという人が現れて、売れたんです。そこから絵を描き始めました。
飲みの席の面白話として周りに話していただけで、まさか自分が絵描きになるとは思っていなかったので、記憶を飛ばして描いたその絵はもう残っていません。
Interview作家インタビュー
中学から高校に上がるときに問答無用で高校行けと言われるじゃないですか。中卒なんて何もできひんぞって。でも本当にそうなのか、一回働いてみてからじゃないとわからないと思ったんです。それを先生に言って、中卒で働ける仕事を紹介してほしいとお願いしました。中卒の仕事がどんなものかを身をもって体験して、それが嫌だったら高校に行くし、何かしら技術を着けようと思えるので。月曜から木曜の週4日、9時から5時まで働いて、金曜だけ学校に行って報告したり授業を受けたりしていました。今思うと面倒くさい中学生でしたが、給料ももらって、学校も出席扱いにしてくれていました。
鉄工所で流れてくるボルトを仕分けるだけの仕事を1学期分やって、この仕事を一生続けるのは無理だと思いました。それで高校に行くことにしたのですが、自分の偏差値で行ける高校に入ったところで今と何も変わらないと思ったので夜間の学校に行きながら手に職を着けようと思いました。手に職ができて、独立ができて、一生困らないもので考えて、衣食住のどれかにしようと考え、それで料理やろうと思って料理人になりました。
絵を描く感覚は料理を作っていく感覚と共通しています。和食なら器の色や形をベースとしてそこにどう置いていくか配置や色合いを考えていく。逆にイタリア料理は真っ白のお皿にソースなどを乗せて、描く盛り付けをしていく。絵は学んでいないですが、料理を通じて養った感覚を持って絵を描いています。
最初の頃は「せっかく絵具いっぱいあるし、全部使おう」と全色使って作品を描いていました。色の使い方は変化したけど、その頃から変わらずあるのが動物を入れた作品です。
メインにしていないときでもどこかに必ず動物は入れています。動物の進化の過程で行きついた造形が好きなんです。なぜここにこの柄が入っているのかなどを調べていくと面白くて。意味があるものや、逆にまったく意味のない進化を遂げているものもあります。依頼がないので描いたことはないですが、バビルサ、アリクイなど、面白いです。
僕の作品は完全に自分100%で描いているかというと、そうではないんです。今、僕はバーの責任者をやっているのですが、お客さんと会話する中で聞く仕事、家族、恋愛といった悩みや考え方を通じて自分の中で生まれた感情や相手の方の感情を組み合わせて描いています。
画家としてだけで生活していると自室のアトリエで過ごすことが多くなるので食事とお風呂とトイレくらいしか部屋から出なくなります。するとどんどん描けなくなって、他人からスパイスをもらっていたのだとわかりました。自分だけで描くものは深みに入るだろうけど広がりがない。僕は基本的に感情をベースに描いているのですが、自分ひとりで考えうる感情ってどれだけ深く掘ったとしても自分の線でしかないんです。それが二人、三人になればその分の広がりがあって、その人を深く掘っていくこともできる。この形が自分に必要だと思ってバーに働きに行くことにしました。
人間から生まれる感情の中でも、陽と陰で言うなら陰の感情を深掘りしています。陽のほうの感情はすべてを見せるが、陰は隠すもの。その隠された感情に踏み込んでいきたいです。深いお話に持っていくにあたって信用をまず得て、話の流れがあって、この人になら話したいと思ってもらうためにロックを徐々に外していく。そのロックを外した先にその人の本心の感情がある。それが知りたいんです。そこで知った感情をもとに作品を描いています。
バーにギャラリーとしての機能を取り入れ、地域活性の音楽フェスにアートを入れ込むなど、様々な取り組みを行っていく予定です。日本はどうしても絵が売れないという現状があります。だから絵を買う人を育てる環境を作りたいです。飲食店にも打ち掛けて壁を貸してもらう予定です。ギャラリーといった絵を販売している業態に自分の絵をただ持っていって売ってもらうというより、自分も営業マンとしてセールスできなければ責任を持って自分の作品と言えないんじゃないかと僕は思っています。あくまで僕の主観ですが、せっかく制作から営業、販売まで一人で完結できる業種なので、最後までやったほうが面白いじゃないですか。せっかくいい絵を描いているのに全くトークができない作家さんをたくさん見てきてもったいないな~と。きちんと絵を説明したら買ってもらえそうなのになって思っています。
他人を含む自分の感情の出口
料理人として養った感覚を絵に転換し、バーでの人との対話から生まれる感情を藍色の世界に落とし込んでいく賀子一平氏。絵を買う人を育てる環境を作りたいと語る彼が、制作から営業、販売まで一人で完結させながら、これからどのようなアートの世界を切り拓いていくのか、その歩みに期待が高まる。