Interview注目の作家

パステル画
新井百合子
「描くことは瞑想である」と語る新井さんが描くのは、仏の世界を表す「曼荼羅アート」。色とりどりの柔らかな色彩と、幾何学的な模様が織りなす神秘的な世界は、見る者の心を落ち着かせ安息させる。パステルアーティストとして活躍する彼女に、曼荼羅アートとの出会いや魅力、そして今後の展望を伺った。
「花抱く龍」 れー夢式曼荼羅アートの技法で製作

これまでの歩みと創作への想いをお聞かせください。

物心がついた頃から絵を描くことが好きで、共働きで忙しい母が、休みの日は一緒に絵を描いてくれたことが思い出に残っています。絵の具で色を入れると、瑞々しい野菜や絵本に出てくるようなお城が次々と画用紙に現れてくる様子はまるで魔法のようでワクワクしました。この頃から漠然と絵を描く仕事をしたい、人に絵を教える先生になりたいという思いを抱き始めました。

そんな想いを抱えた中での、結婚・出産・旦那様の海外転勤。子育てに明け暮れる日々に訪れた ”転機” についてお聞かせください。

社会人として就職した後、結婚を機に退職し妊娠・出産。さらに夫の転勤でタイのバンコクで約2年半暮らしていました。子育て中は働くことができなかったので、せめて現地のカルチャーセンターで何か習い事をしようと思い立ちました。そこでたまたま「パステル」に触れる機会があったんです。画材自体は知っていたのですが、うまく使いこなせていなくて。でも、試してみたらすごく面白く、優しい色合いにも癒されました。日本に帰ってきてからも教室を探して通うようになりました。

新井さんを虜にした「パステル」の魅力とは何でしょうか。

これまで使っていた色鉛筆やペンなどの画材と違い、パステルは、カッターなどで削った粉を指で重ねることで色を出します。まるで絵の具のように自在に混色できるのはとても面白いです。
また、パステルは何度描いても同じ色や仕上がりにはならないんです。その時の気分や混ぜ具合でどんどん色が変化していくので飽きることがないですね。それに、年齢を問わず誰でも気軽に始められるのもパステルの魅力だと思います。

「曼荼羅アート 花の唄」 れー夢式曼荼羅アートの技法で製作

パステル教室に通うきっかけとなった「曼荼羅アート」について教えてください。

「曼荼羅アート」は幾何学的な図形を組み合わせて描いていくのが特徴です。削って指で広げたパステルの粉に、”切り紙” の要領で模様をかたどった型紙を当て、消しゴムで線を描いていくという独特の技法が用いられます。型紙は自分で作るので、ハサミやカッターを使う工作的な作業もあります。でも、無心になれるので、日常から少し離れて没頭する時間がすごく心地いいんです。線を “描く" のではなく“消す”ことで模様を生み出していくこの手法は、まさに心を無にして集中する「描く瞑想」だと私は思います。

実際に、曼荼羅アートが持つ「調和」や「バランスのとれた構造」は、見る人の心を落ち着かせる効果があるとも言われています。『こんな絵が自分で描けたらいいな』という気持ちで始めた曼荼羅アートも、スキルを身につけたい一心で学びを深めていくうちに、最終的にインストラクターの資格も取得していましたね。

描くテーマはどのようにして決めているのですか?

私の作品のテーマは、「宇宙」や「羽」「龍」など、自然と心が惹かれるものが多いです。描きたいものを無理にひねり出すのではなく、気持ちが乗った時に描くことを大切しているので、何を描くか、いつ描くかもすべて自然に任せています。なので、私が自然な状態で描いた作品が、誰かを幸せな気持ちにさせたり、ちょっとリラックスさせられたら嬉しいです。もちろん、作品の受け取り方は見てくれた方の自由でいいと思っています。
私が創作活動を続けるモチベーションは「絵を描くことが日常の一部」になっていることなんです。しばらく絵を描いていないとだんだん落ち着かなくなってくるというか、ざわざわしてくるんです。気合を入れてわざわざ『絵を描くぞ』というよりは、もう当たり前のように描くのが私らしい気がしています。

「天昇る龍」 自由に気高く飛ぶ龍を表現

今はパステルをメインに活動されていますが、これから挑戦していきたいことはありますか?

デジタルアートに挑戦してみたいと考えています。実は、もうすでに去年から、iPadで描くデジタルアートも始めているのですが、やはりアナログとはまた違う良さがありますね。そのほかにも、日本の友禅和紙(ゆうぜんわし)を使った、少し立体的な作品にも取り組んでいきたいと思っています。どちらもゆくゆくはパステルと融合させて、新しい表現ができたらいいなと思っています。

パステルと和紙が織りなす、新たな色彩と形の芸術。パステルアートをベースに、日々進化を続ける新井さんの創作活動から、これからも目が離せません。

インタビュー: 2025/09/03