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Interview: 橋谷勇慈

モーリス・ドニの言葉が「絵画とは何か?」を追求するきっかけに

 

簡単に自己紹介をお願い致します。

 

 
橋谷勇慈 (はしやゆうじ)
1960年 愛知県生まれ、1983年 名古屋大学電気電子学科(赤崎研究室)卒。
18歳のときに油彩画を始める。
個展- 2007、2008  第1、2回「東京街景」(正光画廊戸越本店 画廊企画)。
個展- 2012〜2020年 第3〜11回 「混沌の中の秩序」他 (ギャラリー檜)。
グループ展多数。
街の風景を油彩で20年以上描いてきましたが、近年は、自然界の造形を題材にした抽象画風の絵を制作しています。 
 

 

作品をどのような考えで描いていますか?

 
自然を構成する森羅万象には、「何らかの秩序の美」が存在します。例えば、雲、波、水の流れ、木漏れ日、樹形、結晶、ひび割れ、生物の模様など。そして、それらには共通した秩序を見いだすことができ、人はその秩序を、美しい、心地よいと感じるようDNAに刻まれているように感じます。
絵を描くときは、それら自然界の秩序のある形状・パターンを抽出し、それを題材に強調して構成し、独自の色彩を配置して作品をつくっています。美しいものを生み出す造形のメカニズムは、自然を形成するメカニズムと密接に関係していると考えているので、自然の形状・パターンをよく観察して描き、自然の流れを妨げる要素を絵画に加えないことが大切だと思います。
 

橋谷さん独自の色彩を生み出す工夫などはございますか?

 
対象物の固有色に縛られないよう、使いたい色を感覚的に選ぶようにしています。
ただし、多少は色彩調和論のセオリーを採用しています。色彩は単独で存在するものではなく、周囲の色彩との関係で違って見えるものなので、色の組み合わせによって響き合ったり、くすんだりします。効果的な配色のため、補色対比や、色相環の色相差を3等分した3配色法などを意識しています。
 

風景画中心から現在の画風に至った経緯をお聞かせください!

 
【絵画についての考え方の変化】
40代半ばに、知人のコレクターに誘われて現代アート画廊巡りを始めたがきっかけでした。大学での美術教育を受けていなく、アートの世界のほんの一部しか知らなかったのですが、現代アートを見始めて、そのコンセプトや表現の多様さ、創造性の豊かさに感動し、あらためて、印象派〜アメリカの現代アートについて勉強したり考えたりするようになしました。
その中で特に、写真が普及しだした頃、「絵画とは何か?」を追究していたポスト印象派の画家たち、例えば、セザンヌ、ナビ派の画家たち(エドゥアール・ヴュイヤール、ピエール・ボナール、モーリス・ドニ)などの絵画論にとても共感しました。「絵画とは馬であったり裸婦であったり、逸話の類である前に、基本的にはある秩序のもとに集められた、色彩でおおわれた平らな表面である」というモーリス・ドニの言葉は、長く風景画を描いていた自分が、今のような作風に変わっていく一つのきっかけになりました。つまり「絵画とは何か?」について、具象・抽象という概念は重要ではなくなり、自分なりの絵画の解釈を追求し出したのです。
 
【自然界の秘められた造形への自然科学的な興味】
風景を描いているうちに、水面やうろこ雲やひび割れなど、自然界の造形の美しさに惹かれるようになり、どうしてそのような形が生まれるかを調べるようになりました。フラクタル理論などの数学や散逸構造論などの熱力学などの本を読んだり…。
例えば毛細血管と樹木と河川は、全く違うものなのに似たような樹状構造をしているなど、自然界には何か共通した造形原則があって、それが美しさの本質なのかな考えているうちに、その本質の部分を抽出して絵を構成してみようと思うようになりました。
 

印象に残っている展覧会や出来事はありますか?

 

 
2019年6月に、Art Lab TOKYO企画のスペインとの交流展としてスペイン・マヨルカ島で展示しましたが、オープニングには多くの近隣の人が当たり前のように展示を見に来てくださいました。街中の展覧会を見るのが日常生活の一つのような感覚になっているのが、日本とは違っていてある意味ショックでした。 
 
 

 

絵を描いていない時間(お休みの日など)は何をしていますか?

 
週2回ぐらいは、現代アート中心に何らかのアート展示を見に行くようにしています。
また、近年は古典的な中国の思想・哲学(老荘思想、易経、陰陽論など)を勉強していて、その関係で、伝統太極拳と気功をやっています。
 

最後に、今後の作品制作に向けての想いをお聞かせいただけますか?

 

 
風景画から今の作風に変わったことについて、見る人の中には風景画のほうがわかりやすくて良かったというかたもいます。絵をどのような視点で見るかは人それぞれですが、多くの人に支持していただけるのは、何が描いてあるかわかりやすい絵なのかもしれません。
けれども、芸術活動では、人の気がつかなかった新しい価値を創り出していくことが重要ですので、むしろ、なんでこんな絵を描くのかと、簡単には理解できない何らかの価値をもっている必要があると考えています。
「わからないけど、なんだか美しい」と感じていただけるような作風になればと思っています。

 
 

 


 

  橋谷勇慈  

 

 
長い間、東京の街景など風景画を中心に油絵を制作。
近年は、自然を構成する森羅万象(生物・無生物の別なく)の中に存在する秩序を抽出し、独自の色彩で再構築して油彩画を制作しています。
 
▼略歴

1960年 愛知県生まれ
1983年
名古屋大学電気電子学科 (赤崎勇研究室)卒
1995年~1998年
正光画廊 銀座大賞展入選・選抜展、以降同画廊で展示
2001年
東京都議会定例議会の交通広告(ポスター)に東京風景シリーズを採用(4回)
 
 


2004年
「山手線二十九景 (駅周辺の油絵風景画 全29作)」制作
東芝ドキュメンツ(株)卓上カレンダーに油絵「東京の街景」12点を採用
2007年
第1回個展 正光画廊戸越本店 (画廊企画。東京の実景を題材にした油絵約50点を展示)
2008年
第2回個展 正光画廊戸越本店 (画廊企画。東京の実景を題材にした油絵約40点を展示)
2009年、2010年
船堀アートフェスタ09 -時間旅行- 、船堀アートフェスタ10 -回転宇宙-
2010年~2015年
「視惟展(しいてん)」藤屋画廊 他
2012年〜2018年
第3、4、5、6、7、8回 個展 ギャラリー檜、「混沌の中の秩序」他
2016年
単行本「ツイてない僕を成功に導いた強運の神様(早川勝、大和書房、2006.7)」の装画
自主企画8人展「8 colors for 8 walls」 ギャラリー檜
2017年
雪舟国際美術協会特別展「和響展」 東京都美術館
自主企画8人展「8 colors shine white」 ギャラリー檜