父親がデザイン系の仕事をしていて、その関係で日本画について授業を受ける機会があったようなんです。それで、ある日の食事時に『日本画って面白いんだよ』と言って日本画について面白そうに細かいところまで教えてくれて。それまでは絵を学ぼうと思ったこともなかったのに、話を聞いているうちにどんどん興味がそそられていくのを感じました。その流れで美大というものの存在も知り、絵は昔から好きだったのもあり美大を受験してみようと決意しました。ただ、無事に美大に合格したはいいものの、大学入学当初は「絵描き=食べていけない」というイメージが強かったので、卒業後は一般企業に就職しようとも考えていました。でもこれはあくまでも入学当初の話で、実際は周りの同級生たちの熱量の高さに影響されて、絵を描くことの楽しさにどんどんのめり込みました。
Interview注目の作家
そもそも志望校を決めるときの決め手になったのも、その大学で教鞭をとっていた平松礼二先生という方の存在だったんです。美大予備校のクラスメイトから平松先生の話を聞いたとき、初めて聞いた名前にもかかわらず何かがビビッと来て、この大学を受験しようと決めました。実際、大学3年生の時に平松先生に絵を講評してもらえる機会があり、その当時の全力を出し切った風景画を作成したところ、先生から絶賛していただいたんです。その時に『君は絵描きの道に進みなさい』と言っていただいたことが、僕が日本画家として活動しようと決めたきっかけです。その時胸に浮かんだ熱い想いはいまだに自分の中で燃え続けていますし、きっとこれからも消えることはないと思います。
「最も自分らしい」と言い切れるのは難しいですね…。作品を描いたその瞬間は『やり切った、最高傑作だ』と感動したり達成感を抱いたとしても、時間が経って見返すと『今ならもっと上手く描けるのに』という気持ちが先に来ることが多いです。それは絵を描く技術が上がっていることもありますし、面白いと思うものや興味を持つもの、いわゆる描く対象になるものが変化していっていることも理由のひとつかもしれません。
画家にとって”テーマ”というのはとても重要なもので、『自分は生涯これを描き続ける』と覚悟を決めて、何を言われても貫き通す人も多くいます。それは画家の美学だと思っています。恩師である平松先生も、フランスで出会ったモネに感銘を受けて以来、ジャポニズムをテーマに作品を作り続けています。なので、僕自身も、今もなおテーマを探し続けているというのが近いかも知れません。一生描き続けることになるものだからこそ、無理矢理これだと決めつけるのではなく、いつかビビッと来るものに出会えたらいいなと。そのためにも、コロナ禍で外に出られなかった約3年間を取り戻すように、少しずつ色々なところへ足を運ぶように心がけています。
2つやりたいことがあります。1つは個展です。美術画廊への出展は勉強になることもたくさんありますし、ありがたいことにコンスタントに声をかけていただけることで忙しくさせてもらっています。ただ、どうしても場所や大きさなどに制限があるので、自分が描きたいものを100%表現することは難しいのも現実です。特に大きい絵は購入されづらいこともあって美術画廊ではなかなか出展できません。なので、自分の好みの展示場所で、迫力のある大きな絵を飾れるような個展を開きたいですね。そのためにはまずは自分が納得のいく作品を数多く描かないといけないので、今は少しずつ描き溜めている段階です。
もう1つは、グループ展を開くことです。10年ほど前、平松先生が所属していた”横の会”という日本画家の一時代を築いたグループに憧れて、自身でもグループを作ったことがありました。ただ、当時は若かったので反省点も多く、なかなか活動が続いていないのが現状です。絵に対する価値観や気が合う人たちと集って、本音で議論を交わしながら発展していけるようなグループを作って活動したいですね。それこそ個展を開いた際には、そういう人たちとの出会いの場にもなればいいなと思っていたりします。」
恩師との出会いをきっかけに日本画家としての道を歩み始め、今もなお理想のテーマを探し続ける上田氏。描くたびに進化し続けるその姿勢からは、絵への真摯な情熱が伝わってくる。これからどんな作品が生まれるのか、ますます楽しみだ。