――水墨画とアクリル画、九谷焼の作品を作られていますが、絵に興味をもちはじめたのはいつ頃だったのでしょうか?
「幼いころから絵を描くのが好きで、みんなとは違ったことをやりたいと思っていました。中学生の頃は美術部に所属し、顧問の先生が日本画を専攻された方だったので、日本画か油絵を自由に選ぶことができたんです。私は日本画の繊細さを学んだ上で油絵を描いた方がオリジナリティある作風になるのではないかと考え、日本画を選択。高校の美術部でも日本画専攻の先生が顧問で、しかも日展の審査員をされている方でした。先生方から丁寧に指導していただき、それが今の作品のベースになっています」
――高校卒業後は、大学で画像工学を学ばれたそうですね。
「両親から『アートは趣味でやりなさい』と言われていましたし、物理や数学が好きで色彩工学にも興味がありました。大学では写真や印刷技術、光学技術などを学び、卒業後はエンジニアとして働いていた時期もあります」
――2018年に創作活動を開始されていますが、なにかきっかけがあったのでしょうか?
「6~7年前に子供とお絵描きで遊んでいるとき、『久しぶりに筆を持ちたい』と思ったのがきっかけでした。塗り絵からスタートして、学生時代の感覚を取り戻すにつれて今のスタイルに近づいていきました。自分のために描いていた作品がいつしか『絵を譲ってほしい』と言っていただけるようになり、本格的に作家活動をはじめました」
――どの作品も“色の深み”が印象的ですが、どのようにして作られているのでしょうか?
「美術部時代に先生から教えられたのは、『作品を描いては壊し、最低でも30色を重ねて深みを出す』ということでした。アクリル画でも下地材でモチーフを立体的にもりあげ、その上に幾重にも色を重ね、さらに下地材を重ねて立体感を出します。まさに「作品を壊しては創る」の連続です。混色があまり好きではなく、全て原色を使用し作業机に200~300色くらいのアクリル絵の具が常に置いてあります」
――平均的な制作時間はどれくらいですか?
「作品にもよりますが、4~5ヶ月かかることが多いです。初夏にご依頼いただいたものが冬に完成することも珍しくありません。時間も手間もかかりますが、これが私のスタイルだと思っています」
――九谷焼は5色のみを使う「五彩」を特徴としていますが、色に対する捉え方の違いはありますか?
「九谷焼は、紺・赤・紫・緑・黄のみを使用します。制約された色彩の中で、色の個性を味方につけ作品として調和させるところに難しさと面白さがあります。特に先人の計算された色彩バランスの素晴らしさに圧倒されますし、その刺激が自分の色彩感覚を育ててくれています。」
――日本画とアクリル画、九谷焼を手掛けるスタイルは、今後も続けていきますか?
「もちろんです。モノクロで表現する水墨画と5色で表現する九谷焼、そして無限に広がる色の世界をもつアクリル画。これらを行ったり来たりしながら創作していると、それぞれの世界で相互的な気づきがあります。アプローチが全く違うため新たな視点が増え、結果として作品のクオリティが上がっていくと感じています。現在は書にも挑戦しており、これからさらに自分の可能性を広げていきたいです。表現方法は無限ですから、もっと画法は増えていくと思いますよ。」
――絵を依頼されるのはどんな人が多いのでしょうか。
「会社を経営されている方からアーティストの方までさまざまですが、ご自身の人生の転機や飛躍を迎えるタイミングでオーダーをいただくことが多いです。私は創作しているときに自分が描くというよりも、高次元の存在から描かされているという感覚になることがあります。ご依頼いただいた方の背景にあるイメージが頭の中に降りてきて、無我夢中で筆を走らせ仕上げていきます。また、イメージと同時に言葉も降りてきて、その言葉を拾いながら絵と言葉で一つの作品を創っていきます。私にとって作品はイメージと言葉を紡ぎ、それらを整えた一つのカタチです。」
――龍をモチーフとした作品が多いですが、ご自身でも飛躍を意識していらっしゃるのですか?
「そういうわけではなく、エネルギーや命の流れを表現するのに流線型がしっくりきて、それがたまたま龍だったという感じです。目に見えないものを表現するというと非日常的な印象ですが、これまで学んできた色彩の知識や工業デザインの経験もフル活用しています。構図には特に時間をかけていて、毎日絵を眺めては1ミリ単位で線を変えることもあります。感情や感覚的な右脳、そしてロジカルな左脳を両立した作品を描くのが私の作風なのだと思います」
――最後に今後の目標と、作品に込める思いをお聞かせください。
「一番近い目標としては、2025年7月に個展を都内で開く予定なので、それに向けた新作を作ることです。作家活動をする上で大切にしているのは、本質に向き合うことです。そのために、作品との対話を通じて、自分のココロと対話する。ご依頼いただいた方や作品を手にとっていただいた方が、より良い人生を生きるために寄り添えるようなパートナー(作品)として、これからもオンリーワンを目指していきたいです」