Interview注目の作家

諏訪温子

作品に表現されるスローライフ - 諏訪温子と時間への意識

作品に表現されるスローライフ - 諏訪温子と時間への意識
現代人の暮らしはあわただしい。 「もう少し時間があったら、、」という願望は、現代の日本人が共通で抱いているのではないだろうか。 テレビや雑誌などで特集される時短術を取り入れ、とにかく余白時間をつくろうと試みるも、いつの間にか寝る時間になり、時は待たずに朝を連れてくる。 しかし、もしかして「時間がない」というのは、私たち自らが頭の中に情報を詰め込み、自分自身を忙殺していることから生まれる概念なのではないだろうか。 諏訪温子さんの絵を眺めていると、そんなふうに思えてくる。 というのは、彼女の作品には時間の流れを穏やかにし、凝り固まった頭の中をほぐしてくれる不思議なパワーがあるからだ。 “時間と手間をかける”ことを大切にしている諏訪温子さんにお話を聞いた。 「私は高校の3年間で絵画、立体、デザインなど色々な授業を受けたんですが、3年生になってから初めて日本画の授業を受けて、そのまま大学も日本画に進みました。 日本画の絵具ってすごくきれいなんです。あと、岩絵具や水干絵具(泥絵具)はチューブをひねればすぐ出てくる絵具ではないんですよね。 岩絵具だったら膠を混ぜて練ったり、水干絵具だったら細かく砕いて、膠を練って、水で溶いてという工程が必要なんです。 量が多いと1色つくるのに2、30分かかることもあります。 すぐできないところが私は好きで。 絵具を溶きながら、画面を見て、どういう絵にしようかなと考える、その時間が好きですね。」 とにかくゆっくり時間をかけて作品制作に取り掛かっている諏訪さんだが、 事前に何を描くか決めることは少ないという。 「最初は色で遊んでいるときがあって “何を描くか”というよりも、色のイメージで描きはじめるときが結構あります。 ある程度までいくとテーマが出てきますね。 その色が気に入った色になった時点で、具体的に何を入れようかを考えるということもあります。 最初から決めて描き始めることもありますが、そういう描き方をすると絵が硬くなると自分で思うときがあって。 描き進め方というのは人それぞれだと思うので、自分に合ったやりかたを模索しています。」 表現したいのは、作品を見た人が、肩の力を抜いて心穏やかに眺められる絵だという諏訪さん。 「現代はすごくあわただしいと感じるんですね。 早くできればいいとか、すぐできたらいいという価値観に違和感があるんですよね。 じっくりと向き合う時間やゆっくり過ぎていく時間。 そういう中で感じることを表現して絵にしたいという思いがあります。 私は植物を描くことが多いのですが、ゆっくり過ぎていく時間を表現するためには、どういう具体的なものを入れようかと考える過程で植物を選んだりしているんですよね。」
植物に見る、時間の流れ方
「植物の時間の流れ方は人とは違うんですよね。 芽が出て葉をつけて蕾がついて、その蕾がゆっくり膨らんで花が開いて、 さらにそこから種がついたり実がついたり… 実がついた時の植物が満足気に見えたりとか。 そういうゆっくり過ぎていく、じっくり自分のペースでことを成し遂げていく姿は憧れますね。」 作品のイメージ通りの穏やかで優しい口調で語る諏訪さん。 作品制作に没頭しているとあっという間に時間が過ぎ、さらには仕事と作家活動の両立もあり、ゆっくりとした時間への憧れは増すばかりだという。 作品を描いている時間は諏訪さんにとってどんな時間なのだろうか。 「やっぱり自分と向き合う時間ですね。 この表現でいいのかなど、画面をみながら考えていますね。 私は現代が生きにくいと感じる反面、画面の上では絶対に自由でいたいと思ってるんですね。 画面の上でちぢこまっていたりとか、画面の上で何かに囚われているなとか、そういう風に自分で見えてしまったら、自分が伝えたい思いは人には絶対伝わらないものなので、自分で画面を見ていて心地いいと思えるまで描いています。」
淡く落ち着いた緑色で染まる画面。「諏訪温子」にとって緑色とは?
「こだわりっていうわけではないんですが、植物を描くことが多いということもあって自然と緑がメインとなっているのかもしれません。使いやすい色なんですよね。 もともとその人が持っている色があるんだろうなと思っていて、私にとって使いやすくて自然に出てくる色が緑っぽい色や青だと思うんですが、色の世界も無限なので、自分が使える色や表現したいものが変わってくればまた色も変わってくるかもしれないですね。」 あたたかくなってくると近所を散歩しては小さな緑を見つけて、描いているという。 遠くの壮大な景色よりも身近な何かに”特別”を見つける。 「近所の畑に座り込んで畑のふちに描かせてもらったり、公園とかで座り込んで描いてみたりとか、雑草ぽいものも好きなので、そういうのを見つけて描いてるときは幸せです。日常や普段私の足元にあるもの、私の手の届くところにあるもの。 そういうもののほうが愛情をこめて描けるんですよね。身近なもののほうが愛しいです。」 SNSでは、昨年の新型コロナウィルス感染拡大防止に向けて発令された緊急事態宣言における自粛生活中には、 毎日インスタグラムのストーリーズに「ダンシング・ガール」と命名された 生き生きとした女の子を描いた作品を投稿しつづけた諏訪さん。 今後についても語ってもらった。 「春にふたり展があるので、それに向けて今は制作をしています。 今回ご一緒させていただく方が造形作家さんで、絵画以外の方とご一緒させていただくことがなかったので、コラボレーションができるのが楽しみです。 今までの形にとらわれずに色んな形で発表するということを、SNS含めて取り組んでいきたいですね。」