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Interview: しらとりあやを

孤独から生まれた「人と木」のコンセプト。
しらとりあやをが意識する「木」の存在とは?

 
      
芸術の魅力について、気付きを与えてくれるところだと語るしらとりあやを。価値観や体験を含め、芸術を通して新しい発見の機会を得られる。自ら芸術の醍醐味を味わう、芸術ファンだという。影響を受けているのはアメリカン・リアリズムの代表画家、アンドリュー・ワイエスだ。

 
 
「日常のありふれた風景をこんなに魅力的に描けるんだ、と感銘を受けました。
もし普通にその場にいたら気にしなかった、まったく特別じゃない風景の切り取り方が上手なんです。私は想像の世界や空想の世界よりも、もともと日常やリアルに関心が強いタイプだと思うので、シンパシーを感じました。」
 
 
  
小学校のときの図工といった授業の絵でさえ、写実的なものを描いていたというくらい写実の描写が得意だったという。

 
 
「ただ、写実だけが好きかと聞かれたら、そうではなく、案外オリジナリティのある表現の作品に心惹かれたりします(笑)インスタグラムではいつもと異なる画風を公開していたりもします。」
 
 

「蒼の林」
卒業制作。優秀作品に選ばれた。

 
 
  
創作活動において、アイディアを練る行程が苦しいというしらとりさん。
それはいわゆる“生みの苦しみ”というより、「このアイディアで本当に良いのか」という自信のなさによるものだというが、しらとりさんが思う「良い絵」は“コンセプトが感じられる絵”だという。
そのコンセプトにおいて、しらとりさんが大切にしているのは「人と木」だ。コンセプト誕生のエピソードを語ってくれた。

 
 
「私が一人暮らしをしていて、会社と家を往復するだけの日々にすごく孤独を感じていたときがあるんです。世界に自分一人しかいないような気持ちになってしまって。
そんな時、ふと見たら家の近くの桜の存在がやけに大きく感じたんですよね。桜の木ってよく見るとグロテスクで生々しいな、と。
それまでは風景の一部としか認識していなかったんですが、そのとき急に桜の木を生き物だと感じて。生きているものってこんなにたくさんある、私は孤独じゃなかったんだと気づかされました。むしろ生き物だらけの中にいるのに、私はなんて自分中心の世界にいたんだろうと。ショックと同時に、不思議と安心感に包まれたのを覚えてます。
それから木の存在が気になり始めて。私は東京付近の自然があまりない地域にいる時間が長かったので、街中の木や花は人間の目を楽しませるための装飾物という意識がどこかにあったんだと思います。もちろん街路樹にそういう役割があるのは確かです。だけど木の命に気づいてから、彼らにも声があるとしたら何を話すんだろう。ここに植えられて彼らは満足なのかな、とかそんなことを考えたりして。そんな自分の気持ちの変化が面白くて、自然と作品に人と木というモチーフを選ぶようになりました。」

 
 
 
それまでは、主に好きな風景の中で好きなモデルにポーズしてもらい、個人的に好きなものの”マッチング”を描く形だったというが、絵を通して木の命を感じ、人と木というふたつの生き物が織りなす世界を楽しんでもらいたいという。

 
 
「私が過去にそう思っていたように植物は風景をつくるための装飾だと思ってる人や、もともとその存在を尊いものと意識している人など、様々いらっしゃると思いますが、世界に普通に存在する木や人を画面に意図的に組み合わせて描くことでオリジナルの何か、ストーリーが生まれると思うんです。木ってよく見たら変な形しているし、改めて観察することで発見がたくさんあるんです。私の作品を見て、そんな個性ある木の命を感じてもらえたら嬉しいですね。」
 
 

「CROSS」
代表作。春を感じる作品。

 
 

「ハローグッバイ」
人と木の声なき対話を感じる作品。

 
 
 
気になる木や花を発見するためにただただ歩くというしらとりさん。いい出会いがあれば写真におさめ、そこから作品になり得るものを選んでいる。

 
 
「私の場合は、もともとこうしようとアイディアを先に練った上で構築したものより、とりあえずその場に赴いて、偶然で出来上がったもののほうが良い作品になることが多いです。自分の頭でこねくりまわすとあまりいい結果がでなくて。その場の偶然というか、ハッと自分が感動した瞬間を切り取ったもののほうがいい結果が出る気がします。」
 
 
 
写実は制作に時間がかかるため、完成まで短くても三か月、半年以上になることもある。全然進んでいないと感じる時期はやきもきしながら画面と向き合っているというが、それでも完成後、絵を見てもらったり、感想を言ってもらえる機会があると報われる。

 
 
「印象に残っているのは、木と裸婦を並べて描いた作品です。女性みたいな生々しさのある木だったので、ここぞとばかりにそれを出していこうと思って描いた作品でした。その作品を見た方から”女性よりも樹の幹にエロスを感じる”と評価いただいたときに意図したことが伝わって嬉しかったのを覚えています。」
 
 

「ひと と き」
木にエロスを感じると評された作品。

 
 
 
もっと多くの方に見てもらえる機会を作りたいというしらとりさん。展示会などに参加する機会を増やすなど、対外的な活動が今後の課題だと語る。
しらとりあやをが描く「人と木」。今後もどんな体験をさせてくれるのか注目したい作家のひとりだ。
 
 
 
しらとりあやをにとって “アート” とは?


 
「     命との対話      」