Interview: 梨水

モノクロ表現を突き詰めた墨絵作家が「色」という武器を手に入れて完成したポップで独創的な動物の世界。


「頭の中に色が溢れていたんだなと感じる。それで岩絵具という道具を手に入れたときになんか爆発?炸裂しちゃったの。私ものすごく派手な絵を描くんだけど、自分でも思いも寄らなかった色を使ってる。」

 
 

「宇宙に遊ぶ猫」


 
 
墨絵作家としてスタートした梨水さんは墨絵歴30年以上だ。
墨絵から日本画へと画材を変えて4年、現在は墨絵のレッスンを行う以外では墨絵を描くことはほとんどないという。
 
 
「日本画のほうが合っていると思います。墨は墨でおもしろいんですが、岩絵具を使い始めたときに、これだ!!という感覚があって、日本画を始めてわりとすぐに予感がありました。あ!むしろこっちだった?みたいな感じで。自分が唯一無二の絵を描いていると実感できたんです。見たことがないような絵を描いていると思えた。墨絵では感じることができなかった感覚なので、それは私にとって大きな喜びなんです。」
 
 
人のルーツというのはシンプルな場合と、バラエティに富んでいる場合の両者あるが、梨水さんは圧倒的に後者だ。日本伝統文化の素晴らしさに感銘を受け、大学では日本文化を勉強していたというが、彼女の中に黒船がやってきたところから西洋の文化へと傾倒していく。そんな梨水さんが墨絵を描くに至った経緯は、書の先生だった伯母の勧めによるものだった。
 
 
「私の伯母が(神奈川県)新百合ヶ丘の歩いて15分のところに住んでいたんです。もともと私は東京出身で練馬に住んでいたんですが、このあたりに越してきたときに、伯母が、せっかく近くに越してきたんだから書を習いに来い、と。伯母が所属している会が書と墨絵を両方やってひとつという、書画一体という方針だったので、墨絵もやりなさいと言われたのね。展覧会に行った時に私が好きな感じの絵を描いている先生を紹介してもらって、習いに行ったんです。だから自発的に始めたという感じでもなかったんです。でもやってみたらはまっちゃったという、ね。」
 
 
何を習うより、誰から習うかが大事だという梨水さんはいわゆる山水画ではなく、ヨーロッパの風景など洋風アプローチの墨絵を描く先生に師事した。墨絵を続けてこられたのは、その先生の影響はもちろんだが、墨絵の扱いづらさにあるそうだ。
 
 
「私は器用貧乏でわりと何でもできちゃう。クラフト系は一回やればオッケーみたいな。でも、墨はとてもいうことを聞かないんですよね。和紙を使うんですけど、気候によって紙が湿気を吸っていると、色の感じがぼやけたりするし、濡れているときは濃くても乾くと薄くなったりするし、とにかく思うようにいかない。今でも完璧に、計算通りにはいかない。私の場合、そのうまくいかないところが続けられた秘訣なの。うまくいかないことのほうが性格的に向いていた。だからもし日本画が先だったら全然ダメだったと思う。日本画を始めたときに、色ってなんて楽なんだろうと思った。だって赤を塗ったら赤になる(笑)。墨だと、例えば夕焼けを描こうと思ったときに、これをどういう濃淡で表現しようかと考えながら描かないといけない。でも、オレンジ塗ろうかなと思ったらオレンジになるわけじゃないですか絵具っていうのは。だからすごい楽って思いました。」
 
 
「春霞」


 
 
墨絵はモノクロで色を表現する方法を考えるため、より難易度が高いというが、そのおかげで絵を描き続け、色のある日本画の世界の新境地を迎えることができた。梨水さんが日本画に惹かれる理由は何だろうか。
 
 
「私ね、オールドバービー集めたりとかポップアートを買って飾ったりしていたんですけど、墨絵とポップアートは同居できないんですね。同じ部屋には絶対置けない。墨絵はお稽古する部屋に飾って、オールドバービーなどのポップなものは寝室とかプライベートな空間に置いて、色分けしていたんですが、それが岩絵具だと仲良くなれるというか。ポップな感じと墨絵が融合できるというか、自分の中でそういう感じがしているんですね。本当面白いんですよ、画材が。画材が好き。日本画の重量感の程度が好きなのだと思います。油絵ほど重くなく、水彩画ほど軽くない。この中間がちょうどいい。
そしてもうひとつ、墨は陰陽でいったら『陰』だと思うのですが、日本画は私の中で『陽』。日本画に出会ったときに『自分の中の陰陽が整った』感覚がありました。」

 
 
 

“ 実は意図していなかったポップアートと日本画の融合 „

動物を独創的な色で描く梨水さんの日本画作品だが、動物のモチーフも、目を引く色合いも、ポップアートのエッセンスも、どれも意図したことではなかったという。
 
 
「意図してそうしたわけじゃなくて結果としてそうなった。ポップなものが好きだったけど、日本画を始めたときはポップアートを描こうと思ったわけではなかったんですよ。動物を描いたのは最初からだったんですが、それも別に意図していたわけじゃなく、たまたま何を描こうかなって思ったときに、私が前飼っていたアレックスっていう犬がいるんですけど、じゃあ、アレックス描こうかな、みたいなところから始まっていて。動物をモチーフにして描き始めたら、そんな色を塗り始めた。あれ?なんかポップな感じになったな~って。私は絵を描いたら、反省の意味も込めて飾って眺めることにしているんですけど、墨絵の横に並べても全然違和感がなかった。質感的に違和感がない。私の中のポップな感覚が、色を手に入れたことによってこう表すんだなっていうのがわかりました。」
 
 
梨水さんは、空間全体のバランスも重要視している。そのため、ポップな日本画の額装はすべてグレーで統一されている。ベースには墨絵があり、その墨絵と合うものを無意識のうちに選んでいるという。一見ちぐはぐに見える和と洋の融合、実際の色とは違う動物たちが不思議と違和感がない。衝動に従って生きているという梨水さんの本能的なバランス感覚がすべてを収めている。
 
 
「何でも青くしたくなっちゃう。感覚に任せて。描いていって色が足りないってなったら『ここに赤をいれたい』『ここに黄色をいれたい』という衝動が起きてくるので、それに従って描いている。動物は青くしちゃうんですよね。なんか。でも今度の個展には赤いライオンも出します。」
 
 

「アフリカの夕陽」


 
 
梨水さんご自身とてもエネルギーに満ち溢れる人柄だ。絵に込めているメッセージはなく、動物が好きだから描いているというが、絵自体に宿るエネルギーを体感できるだろう。
 
 
 
 
梨水にとって“アート”とは?


 
「 衝動。 」
 
 
 
 
2021年9月27日~10月3日まで、銀座ギャラリーあづまにて「 ANiMALS 梨水 作品展」として初の個展が開催される。
 
 
「ルーナの夏」


 
 

戻る

ニュース配信

メールアドレス ※